[1〜10話]

□7話
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ルフィは店長に貰ったチョコミントのアイスを噛りながら、たいへん珍しくも少々緊張気味にゾロのダンプの助手席へと座った。ちなみにゾロには缶コーヒーが進呈された。
ダンプの中はやはり広く、間に人ひとり分はゆうに座れる。距離があるのが救いなような惜しいような。
「んな固まんなくていいぜ……」
「だってよ〜! ロロノアさん突然なんだもんよ!」
「悪ィな」
「悪くない! ありがとう! ……あ、」
もしかしてビビか? うん、きっとそうだよな!!
心の中でルフィはビビに何度もお礼を言う。
「あ?」
「なんでもねェ! んじゃおれ道案内な〜」
「おう、詳しく頼むぜ」
「そっかロロノアさん方向音痴……あ、ごめ…」
「別に」
言葉通り気にする様子もないゾロを、ルフィはチラチラと伺った。エンジンを蒸かせギアを手繰るその姿にあっという間に緊張も忘れ見入ってしまう。
「すげー」
ハンドルを捌くロロノアさんは新鮮で、そして格段にかっこいいと思った。こう、切るたびに腕の筋肉がめりっともこっとなって。うひょ〜、やっぱ触ってみてー!!
「ところでロロノアさん、なんで下ジャージ?」
「あ? あァ、銭湯帰りだかんな」
「そか、そんでさっきからヴィダルサスーンの匂いすんだ。いー匂い。おれ好き」
「……そうか」
「そうだ!」
コンビニでバイトするようになって、シャンプーの種類当てができるようになったルフィである。ゾロが使っている物は特に好きな方だ。かと言って自分が使うかと言えばそうではなく、母の買ってくるメリットなのだが。それだってルフィはキライじゃない。
と、当たり障りのない会話を交えつつ……。
ルフィのナビでなぜだかとんでもない道に出はしたけれど、無事に家の近くまで送り届けてもらった(アイスも食ったし)。3分の道程を10分も掛かったがむしろルフィは得した気分だ。7分間も余分にゾロと居られたのだから……役得!
「どうもありがとう!!」
「ホントにここでいいのか? そこの公園の脇入るんだろ?」
「うん、おれんち見えてるぞ。ライオン公園の向こうのがそうだ」
「ライオン? ああ……ライオンか」
「おうライオンだ」
この児童公園にはライオンの像がでん、と置いてあるのだ。ここまで来れば徒歩10秒。
「返って悪かったな、時間掛かっちまって……」
「ぜーんぜん! 3日振りにロロノアさんに会えておれはラッキーだった! 今おれ昼から外れてっからさァ、ロロノアさん見れなくてビビに当たっちゃったりさ……メリーはパンクするし、ついてねェなァって思ってたとこでさ」
「あーっと……まず、メリーってのはもしや自転車か?」
「当たり! なんで解った?」
「自転車でコンビニ通ってんだろ。たまに見かけてた」
「え! おれなんか探してもロロノアさん見付けらんねェってのに! ずっりィ〜」
「……次。この間、花火見てっとき言ってた『お気に入り』っての……やっぱマジなのか?」
「そうだぞ?」
「………」
「あ、イヤか? 気持ち悪ィ? …よなァ〜、ロロノアさんだってビビとか、女の子のがいいに決まってるもんな……。あ、でもおれって結構おもしれーと思うんだ! ガッコでもなんか宴があれば呼ばれるしな、盛り上げ役っての? 見てて飽きねェってよく言われんだぞ! だからさ、できたらロロノアさんも…」
ぜひお友達の一人にどうぞー!!と、宣伝しとこうと考えたルフィだったのだが……。
「言われなくてもずっと見てるぜ」
そう、真摯な眼でゾロに告げられ、急激にバクバクしだした鼓動に何も言えなくなってしまった。
み、見てるって……おれんこと、だよな? ポジティブシンキング、じゃねェよな……?
「見すぎてまともにお前の話し聞いてねェし、おれなんか」
更に続けて言われルフィはとうとうパニくった。
「え、えェ? お!? なんで!?」
「なんでって、そんなん言ったら怒られっから言わねェよ」
「はァー!?」
怒るって誰が!?
「それよかちっと顔、触っていいか? さっきから気になってたんだ」
「う、はい……」
有無を言わせぬ口調にルフィが頷くなり、ゾロの長い指が伸びてきた。ルフィの丸い顎にかけられ無意識にビクッとなる。そしてやっぱり、ドキドキする……。
なんとなく目を閉じたら、ゾロの親指の腹がぐいぐいと少々乱暴に口元を拭い、それからさっさと離れていった。
「チョコ……ついてた」
ボソボソとゾロが言う。
「おれは幼児か……」
ルフィはと言えば照れくささと情けなさに、そのまま俯いてハァ〜〜と溜息した。
「どうしたレジ。やっぱ触られんのイヤだったか?」
「違う。だっておれかっこわりィ……。ロロノアさんはいいよな、かっこよくてさ。おれ、ロロノアさんになりてェのかな……」
「あ? おれにかァ? ……お前よくわかんねェ」
顔を上げればゾロが訝しむ顔をしていて、おまけにふいっとそっぽを向かれてしまった。もしかしておれ、またやっちまったんか……?
引かれたんだよなこれは。ガーン……。
し〜…ん、と沈黙が訪れた。たいへん気まずい。でもできればもう少しこのまま、一緒にいたかったりして……。
送ってもらって口まで拭いてもらってドン引きさせといて、我ながらなんつー厚かましさ。これは血筋だ血筋、うんそうそう!
「もう帰れ」
「あい……」
「また明日も送ってやる」
「ホ、ホントか!? 明日もいいんか!? ラッキー! ……てあ、おれ遠慮なくてごめんなさい……。リーダーに言われて来たんだろ?」
ビビから聞いたリーダーに。
「は? 別に誰に頼まれたとかねェよ」
「マジで……?」
「あァだから気にすんじゃねェぞ? 明日は5分以内目指すからな」
「わははは! おおっ、よろしくな〜!! ってまたおれ厚かまし〜〜」
ギャーもう退散だ! これ以上墓穴掘ったらホントに嫌われちまうよ!!
景気よくルフィはドアを開け放ち、スタンと路肩に降り立った。そしてくりっと振り返りゾロを見上げる。
「でもすっげ楽しかった! おやすみなさいロロノアさん! また明日、待ってる!!」
明日の確約が嬉しくて、ルフィは今までの恥もかなぐり捨て、満面の笑みを浮かべた。
「……やっと普通に笑ったな」
「ん?」
「ポリシー裏切りまくりで怖がらせてんの解ってんだがよ……、悪ィ、心配なんだ」
「……えと」
ポリシー? 怖がる? 心配って……おれんこと!?
「あ、あの!」
「ドア、閉めてくんね?」
「はい!!」
バタン!
しまったー! 閉めちったー!!
ルフィに「待って」と言う間も与えず、こうしてダンプは颯爽と走り去って行ったのだった。
「そっち逆……」
つかロロノアさん、ちゃんと帰れっかな……?


銭湯帰りにルフィを家まで送るのだ、と言ってプレハブを出て行ったゾロが、23時を回ってようやく帰ってきた。
「おいおい話し込んでたのか? お安くねェな」
「帰りも迷った……」
「あそ……。やっぱりおれが同乗しねェとダメだなロロノアは。けどおれなりに気を利かせてやったんだぜ?」
「なんのために」
「そりゃあ……」
あれとかこれとか、と思い浮かぶ単語がいくつかあるコーザだったがここは自粛。
とは言え、
「二人きりが落ち着かなくなっちまった……。あそこで目ェ瞑んなよなァ、ったく。あーあ、どうすんだよ明日から……」
とかなにげに問題発言ぶちかますゾロに、これは先に確認させてもらっていいだろうか? と、コーザはひとり居住まいを正した。
「一つ聞いていいかロロノア」
「あ?」
「ルフィにそのー、キスしたいとか、ましてや、だ、抱きたいとか、よこしまなこと考えたこと、あるか?」
「はァ!? アイツは男だぜ。考えるわけねェだろ」
即答した割りには首を傾げるゾロに、コーザはわかってないな、と言ってやりたくなる。
「まァいい。なら泣かすなよ」
今はこれくらいしか言えないだろう。
「あァ、アイツはやっぱ笑ってんのが一番だよな。アイツの表情ン中で一番多いのが笑顔なんだぜ、知ってるよな? けどおれといたらなかなか笑わねェんだ……」
「そうか? 花火大会のときずっと笑ってなかったか?」
「そうでもねェ。でっかい目ェしてこっちじっと見て……警戒されてんじゃねェ?」
それはお前のかっこよさに見惚れてるだけだロロノアさんよう……。
実は先程、コーザはビビと約束して来たのである、“本人達が気付くまで黙って見守ろう”……と。一体いつ気付くと言うのかこの調子で、とちょっと先行き不安にならなくもないが。
「警戒、ねェ……」
「怖がらせてェわけじゃねェんだけどな。心配だからよ、夜道。アイツほっせくて可愛いだろ」
「はいはい、そうですね」
「聞けよ、さっきもすっげ可愛くてな? ここにチョコつけてんだぜチョコ」
「はいはいはい……」
終わったらおれの番だぜ覚えとけ。


「そういやロロノア……」
「なんだよ惚気は終わったか?」
「お前に言われたかねェんだよ。……最近イライラしてたのって、ルフィの顔見れなかったせいか?」
「いや。それはまた別の話しだ」
「……?」


コンビニ『マリーン』、嵐の予感――?




(END)
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