[1〜10話]

□9話
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ところがどっこい。
パンク修理した愛チャリ『メリー2号』で走れる限りの場所を捜し回ったと言うのに、どの現場でもゾロらしき人物を特定することはできなかった。
工事の現場責任者とか言う人にも聞いてみたが、ゾロの家出の事情を知っているためか頑なに教えてくれない。
八方塞がりのままそれでもルフィは諦められなくて、残りの夏休みはバイトの時間以外、“ロロノアさん”捜しに奔走した。いつしか夏休みも終わり2学期が始まって、秋が訪れても……、やっぱりルフィにゾロを見つけることはできなかった。
「もう11月になっちまった……」
学校が始まったということで高校生アルバイター達のバイトの時間はぐっと減っていた。学校が終わってから20時までの、少しの時間だ。それでもルフィはバイトのない日やテスト週間で帰りの早い日など、ゾロを捜して走り回った(おかげで成績はさんざんだ。←責任転嫁)。
でもやっぱり見つからない……。
「ハァ……」
会いてェな〜〜〜……。
「ルフィさん、溜息ばっかり。秋だからかしら」
端末を首から提げたビビがレジでぼ〜〜っとしていたルフィのところへやってきた。おっとバイト中だった。
「秋だからってカンケーあんのかァ?」
「だって秋は落ち葉を見てもセンチになるもの♡」
「……ふーん、おもしれーな女って」
「もうっ、ルフィさんに女の子の微妙な気持ちなんてわかんないわよ!」
「ビミョー……」
「いいわよ深く考えこまなくても……」
「ん、でもちっと解る」
「ええ!?」
「ロロノアさんのこと思い出すと、ちょっとそんな感じになる……」
「まだ忘れられないんだ……。あっ、じゃあ次の人探すって言うのはどう!? あれからたくさんかっこいいお客さん来たじゃない!?」
「もうそーゆうのいいや……」
「そ、そう……」
「うん、ごめんな? 心配してくれてんのに、おれ……やっぱロロノアさんに会いてェ」
「まだ捜してるんでしょう?」
「捜してる。でもぜーんぜんダメダメだァ……。おれ人捜しの才能ねェよ……」
どうやったら会えるのだろう。いつになったら会えるのだろう。
ロロノアさんはおれに会いたいとか、思わねェのかな……。
「思うわけねェか〜〜〜っ」
だーっと頭を抱える。
でもおれは会いたい……。と、そう強くルフィが望んでいたからだろうか。
――糸口は、思わぬところからやってきたのだ。
「従業員のみなさんに、今日はご報告があります!」
有志ではあったが、『マリーン』従業員が召集され、たしぎ店長から「発表したいことがある」と店に呼び出された。その日は特別に20時で店じまい、簡単な食事と飲み物が用意されている。
「なんか嬉しそうだよな、たしぎ店長……」
「そうですよね!」
ルフィが横のコニスと囁き合う。
「実は来週、三丁目に『マリーン2号店』をオープンする運びとなりました!」
にこにこと報告するたしぎの言葉に、店内が一気に湧いた。
「おーっ、すっげーじゃん店長!!」
「ありがとうございます、ルフィくん!」
「おめでとう店長!」
「おめでとうございます!!」
「ありがとうみなさん!」
次々に祝辞が述べられ、拍手が起こる。店員はみな気の良い女性ばかりで、心からこの吉報を喜んでいる。
「私はしばらくあちらの店で従業員の研修にあたりますので、こちらは主にココロさんにお願いしてあります。どうぞご協力をお願いします。あ、どうぞ食べながらで……」
「この店のことは任せときな!」
「そうだよ心配することないよ! 店長は新しい店のことだけ考えてりゃいいんだよ!」
産休明けのラキだ。
「三丁目って言ったらここから車で15分くらいのところだわいな」
「観光地だし、きっと繁盛するわいな!」
「そうらね、うまくいくといいらね」
「そうだといいんですけど……。でもありがとうみなさん、心強いです。本当にありがとうございます……!」
みんなでたしぎを囲んで肩を叩いたり握手をしたり。それから2号店の繁栄を祈って乾杯、ちょっとした立食パーティとなった。(当然ルフィもがっついた)
そしてルフィの好機は、ここから始まったのである……。
「ルフィくん、ちょっと……」
「ん? なんだ店長」
「実は2号店の前の、道路を挟んだ向かい側の敷地に何か建ててるみたいなんですけど……」
「うん、そんで?」
「そこの建設現場で、ロロノアらしき人を見かけたような気がするんです」
「……!! それマジで!?」
「多分、間違いないかと……」
「てっ、店長!!!」
ガシッとルフィはたしぎの手を掴んだ。
「はい!?」
「おれ……おれもそっちの店行く! 移る!! ダメか!?」
「………」
突然のルフィの我侭な申し出に、たしぎは肩を竦めるも「そう言い出すんじゃないかと思ってバイトの枠、ひとつ開けておきました」と、にっこり微笑んでくれた。


オープン前日、ルフィはスタッフの顔合わせには参加出来なかったものの、学校が終わるなりダッシュで家へ帰って着替えを済ませ、メリーをすっ飛ばして海沿いにある『マリーン2号店』へと来ていた。
ロロノアさんに、会えるかもしれない……その一心で結構な道のりを必死に漕いだ。
ちなみにゾロのためにと、先日コムサで買ったばかりの襟付きシャツと言うものを着てきた。鎖骨が見えたらイヤだとかなんだとか言われた気がするので、なるべく上までボタンも止めた。これで万全。
ルフィは今日、ゾロに会う気満々でやってきたのだ。
真新しい匂いのする店内はもうすっかり開店準備万端で、初めて見る店員が何人か、たしぎと綿密なる打ち合わせをしているようだ。バイトの要領は同じなので特に聞くこともなく、ルフィは主に力仕事を手伝う。
力仕事はいい。頭を使わない。ルフィの頭は目下、他のことでいっぱい……言わずと知れた“ロロノアさん”のことで。
確かに道を挟んだ向かい側では市営住宅だかなんだかの工事が開始されていたが、そろそろ終業の準備に入っているようだ。と言うことはルフィが店に来れる時間と彼らの仕事が終わる時間がほぼ同じ、と言うことになる。……これではすれ違ってしまうかもしれない。
「ロロノアさん、いねェなァ……」
ルフィはかなり目がいいので、あの黒手拭いを見落とさない自信があった。のに、さっきからそれらしい人物は全く見あたらない……。早々あんなかっこいーヤツっていないし。
じぃーっと外を見ていたらカランコローン、と店のチャイムが鳴り、敏感に反応したルフィがハッと出入口に目をやった。
当然そこにゾロの姿はなく、入って来たのはタイトなスーツに身を包み髪をアップにした女性……。たしぎと同じく眼鏡を着用しているが、印象は真逆だ。
新しい店員、かなァ?
「こんばんは、たしぎ店長」
「あ、カリファさん! ちょうど良かった、ちょっと説明しておきたいことが……」
「わかりました」
ハキハキした口調と恰好から、すげーキャリアウーマンだーとルフィは単純に思った。たしぎは狙ってんのかとたまに思うのだが、この店もまた美人揃いだ。ルフィが寄って行く間もなく、彼女は店長に呼ばれすぐに奥へと姿を消した。
「バイトは何人いんのかな〜〜。男がいたらいいよな、したらおれが鍛えてやるんだ、2号店を守らせねェと!」
実はルフィの転属OKと引き替えに、アルバイトの指導にあたることを条件に出されたのだ。使命感があっていい。
「いやそれよか」
ロロノアさんがいない……。今日は収穫なしなんだろうか。ちぇー!!
ルフィはしょぼーん、となりつつ、店の前にゴミ袋を5つほど抱えて出た。街灯が灯るほどではないが辺りはやや薄暗く最近すっかり日の入りが早い。ゴミは最後にゴミ業者が来てまとめて持って行くらしく、ルフィは廃材やら不燃物の山の中にそれらをぽいぽいと投げ入れ、ハァと溜息混じりの顔を上げた。
振り返ってまた例の建設現場を見る。もークセかも。
――と。
ちょうどそのとき、ダンプが一台向かいの現場に入って行くのが見えた。もちろんゾロがいつも乗っていたダンプではない。が、なぜだかルフィは、吸い寄せられるようにそのダンプを目で追っていた。
敷地内に入って数メートルほど進み、停まる。ほどなくして運転席側のドアが開いた。
ルフィは急にドキドキしてきて、期待感に心がワクワクするのを自覚した。
「も、もしかして……」
ロロノアさん、だったりして……?
が、出てきたのは葉巻をくわえたオールバックの男……全くの別人。ルフィは期待した分、ガクッと肩を落とした。
「甘かったか……。あ〜あ〜、ロロノアさんだったら良かったのに。そしたらおれ……」
そしたらおれ? 会えたら聞きたいことがあったハズ……えっとー?
しかしルフィの思考はそこであっさり中断された。なぜなら、ある一点に目が釘付けになってしまったから……。
助手席側から降りてきた、長身の男。
頭に黒手拭いを巻いて、薄紫色の作業着らしき上着を着ている。葉巻男と一緒に荷台のロープを下ろしながら、なにやら会話を交わす。シャープな横顔、切れるような二重の眼に、きりっと釣り上がった弓なりの眉をしていて……。
「み…見つけた……っ! 見つけた――ァ!!」
ゾロだ。ゾロだった。ルフィが初めて見て一目で気に入った土建の男……ロロノア・ゾロ。
殆ど無意識にルフィは駈け出していたが、車道を行き交う車に阻まれ歩道で早く早くと足踏みする。
「あーもー、早く車切れろ!!」
とうとう“ロロノアさん”を見つけたんだ……。
ルフィは嬉しくて嬉しくて、車がやっと途切れて道路を横断して、ダンプ目掛けてとにかく走った。走るほどの距離では実はないのだが走らずにはいられなかった。
頭の中で、彼の名を繰り返す。
ゾロはまだルフィには気付いていない。同業者の男と話し込んでいるようだ。でもルフィにはそんなことに気を遣う余裕なんて一切なく。
ルフィの目がゾロの姿を大きく捉えるようになると、迂闊にも視界がぼやけてごしごし腕で目を擦った。嬉しくて泣くのなんか生まれて初めてかもしれない。
やっと声の届くところまで来て……ルフィは叫んだ。
「ロロノアさん!!」
ピタ、と足も止めた。その間約3メートル。
ゾロがハッとしてルフィを振り返った。やっぱり本物だ。ゾロの方もピッタリと動きを止め、そして呟いた。
「幻が見える……」
「なわけねェだろっ! ……やっと会えた!!」
もう、どうにもこうにもルフィは嬉しくて、にっかり満面の笑みをゾロに向けた。突然現われたルフィにゾロがどう思うかなんて想像もしなかった。ただただまた会えたことが、ルフィには重要で重要で……。
「ルフィ……?」
「うん、そうだぞ。なんだよ、もう顔忘れてたんか?」
ロロノアさんらしいよなー、と笑って続けるも、ルフィは久しぶりに自分を呼ぶゾロの声にまたうっかり涙が出そうだ。
そうして身体の奥がムズムズうずうず、じっと立っていられなくなってきて……。
「探したんだ……、おれ! ずっとずっと、すっげー捜してた!!」
「…………」
んな、困ったような顔したってダメなんだからな……! もう見付けちまったんだからな!!
俯き加減に目を伏せたゾロが、「なんでなんだよ」といつだかと同じセリフを呟いた。そしてなにかを振り切るように顔を上げる。
やっとまともにルフィの瞳を見つめたゾロのそれが、どんな意味を持つのかルフィには解らない。だけど逸らされなければそれでいい……。
約3ヵ月ぶり、交わす目線。
出逢って今まで、こんなにじっと見つめられたことがあっただろうか?
「やっぱむちゃくちゃかっこいいし、ロロノアさん……!」
これはぼそぼそ呟いてこっそりカンドーした。
「なんか用か?」
「用もクソもあるか!」
「あのなァ……」
「もう、やっべェ」
「はァ?」
もう……もうもう! すっっっげー、抱きつきてェ〜〜〜!!
実はさっきからルフィはゾロに抱きつきたくて飛びつきたくて、うずうずしていたというワケだ。
「……もーいいや! 変だって思われてもなんでも……だって我慢できねェもん!!」
「ル、ルフィ……?」
困惑するゾロをよそに開き直ったルフィがその後、ゾロに何をしたかと言うと。

だいたいのご想像通り(?)、ルフィは勢いよく地面を蹴って駆け出し、ゾロ目がけてその広い胸へとダイブした。


コンビニ『マリーン2号店』は、明日11月11日オープンです。




(END)
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