[11〜19話]

□11話
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“お誕生会”もそろそろ閉会か、という頃。
「ロロノアさん! プレゼントなんか思いついたか!?」
腹を満たし、ルフィは気も済んだところで(歌って騒いで)ゾロに問いかけてみた。ゾロが思ったより酒を呑まなかったのでまだ何本もビールが残っている。ちなみにルフィには苦過ぎたので、半分も空けないうちにゾロに回してジュースへ切り替えた。
「んー、今買いてェモンってねェし」
「ダメ! なんでもいいから!!」
「ホントになんでも、か?」
「おう!! 男に二言はねェ!!」
どーん。
あや、あんまし高いのは困るけど……まァなんとかなるだろ!
「そうだなァ……」
「お、おお!!」
ドキドキドキ……。
「じゃあルフィ、抱き締めさせてくれよ」
「はい!?」
「これっきりにすっから……。ってやっぱ困るか」
そうゾロはすぐ諦めたように言って、苦く笑った。冗談でもなんでもなかったらしい……。
「も、もしかしてロロノアさん……」
「……?」
好きな人と色々あって、淋しい、のか? ……うんそきっとそうなんだ!!←自己完結
「う、うん! 思いっきりいいぞっ」
「あ? いいのか?」
言っておいて意外そうな顔をゾロがするので、ルフィは立ち上がると進んでゾロの腕を掴み引っ張り上げた。そして昨日は入るなと言われた“手の届く範囲”に、敢えて立つ。
ちょっとだけ(だけなのだ)睨むように見上げてしまうのは、大目に見て欲しい……。
と、ゾロがすっと両手を差し出して来た。軽く広げ、なぜかそれ以上のことをしようとしない。のでルフィはちょっと首を傾げた。
「ロロノアさん?」
「おれからだと怖ェだろ。お前が来い」
一度だけ“怖い”と言ってしまったルフィの言葉を、どうやら覚えられていたらしい……失敗。
ルフィはそんなゾロの認識を払拭するため、わざとゾロの胸に額をぶつける勢いでばふんっと抱きついた。すう、と息を吸い込むと、ソープのイイ匂いがした。
ほっぺたを固い胸にくっつけ体重を預ける。
「ししし!」
また抱きついちったー! ラッキー!! 
「ルフィ……」
けれどゾロの腕にぎゅうっと背中を抱かれてしまうと、ルフィは思わずビクッとしてしまうのだ。勝手に身体が硬直して、しかも逃げを打ってしまう……。
こ、これだからダメなんだっておれ……!!
しかし今度はそう易々とは逃がしてもらえなかった。
「ごめん、もちっと我慢してくれ」
更にぎゅう、と抱き竦められる。……少しだけ苦しい。
「が、我慢なんかしてねェ……」
多分。
「やっぱほっせェよなァ」
ゾロがしみじみそんなことを言った。そうして背中を掌がするする這うのが感触で解って、ルフィはだんだん早くなる鼓動を自覚する。堪らずゾロのシャツをぎゅっと握った。
「ロ、ロロノアさん……っ」
「もう限界か?」
「ダ、ダイジョブ……だと思う」
うっわー…、ドキドキする……。つかバクバクする!! おれって変だ、やっぱ……。
そのときデコに温かな感触を感じ、ふとルフィは顔を上げた。
「んー?」
「やべ、悪ィ! キスしちまった……。もうしねェつったのに……」
言うなり引き剥がされ服の袖でごしごし額を拭われる。そ、そこまでしてくんなくていいのに……。
ルフィはいましがたゾロの唇が触れた(らしい)デコを手で押さえ、ただでさえ赤かった顔を更に真っ赤にした。ぶんぶん首を振る。だってしないって言ったのは昨日の分だし!
「デコちゅうされた」
「デ……。や、ホント悪かった、つい……。やっぱコンビニ以外で会わねェほうがいいんだな……」
「なんで!? なんでそーなんの!?」
「だってお前、二人きりになればもれなくこんなことされんだぜ? イヤだろ?」
「やじゃねェよ?」
「……」
納得いかない、って顔だ。こんなとき、なんて言って説得すればいいのか、己のボキャブラリーのなさに腹が立つ……。
「だ……だってロロノアさん、“お前だから”って言ってくれたじゃん! おれだからすんだろ!? だったらおれだって“ロロノアさんだから”いいんだぞ!!」
「ルフィ……」
「ホ、ホントなんだかんな?」
逃げてばっかで説得力ねェかもしんねェけど……。でも本当の本当なのだ。
「……」
ゾロの手が、躊躇いがちにこっちへ伸びて来た。そっとルフィの手を取り、握る。それをルフィは意識してぎゅっと握り返した。
「信じた……?」
けれど緩く首を振られてしまう……。
「いけねェことなのは、解ってんだ。……なのに、止めらんねェ」
「さわんの、いけないことか? 男同士だから……?」
「まァそうかな」
「おれが、ロロノアさんに触りてェって思うのも、いけねェこと?」
それにはしかしゾロはくすっと笑って。
「お前の“触る”は大したことねェよ。筋肉くらいいつでも触らせてやるぜ?」
「ホントか!? ありがとう!!」
ぱあっと笑顔になったルフィに安堵したのか、ゾロも小さく笑ってくれた。そして思い出したように手が離される。
「……そいやシャンペン開けてねェな。せっかくルフィが家から持ってきてくれたのに……。ふつー先に乾杯だよなァ?」
「ぶっ、そうだな。でもへーきへーき、気にしねェ! 今から乾杯だ!!」
「おう。お前らしいよ、そう言う物事に頓着ねェとこ」
「褒めてんの? あ、けなしてんのか?」
「褒めまくってる」
「うはははっ」
腹を押さえて笑いながら、けれどルフィは考えていたのだ。
初めて呑むスパークリングワインはなんだか酸っぱくて、美味しいとは思えなかったけれど。

――でもさ、ロロノアさん。
おれがロロノアさんに触られてドキドキすんのは、“いけないこと”なんじゃねェのかな……。



「送ってく、ルフィ」
「ん? おれ泊まるって言って来たぞ?」
「はァ!?」
「だって明日バイト休みだもん!」
「だもんって……」
衝撃的告白に、ゾロはくらりと目眩がした。同時にルフィの大荷物の意味も理解した。泊まり道具だったと言うわけだ。
なんの為におれがビール1本(とルフィの飲み残し)で我慢していたと……?(乾杯の後ちょっと呑んだけど)
それよりもなによりも、ルフィを抱き締められただけでもう今日はいっぱいいっぱいなのだ。ゾロ的に。しかも醜悪なことにやっぱり諦められそうになく……。
「酒ってうんめェんだな〜。あのピーチのカンカンのがすっげ気に入った!  ロロノアさんが3人もいるし……男前が3人〜! うははーっ」
「酔ってるし……」
「ん〜ねみ……」
おまけになんと言うことか、ルフィはいきなり鼻提灯を膨らませて眠ってしまったのだ。しかも座ったまま。なのに依然、酒の缶に手を伸ばそうとしているのは一体……。
「おいおいそれ特技か? つーかいきなり理性試されんのかよ……」
ゾロは思考停止し、しかし5秒後にハッと我に返った。風邪をひかせるとヤバイ。
せめてベッドに寝かせようと(今は菓子を食ってるようだが)、ゾロは先に寝室の戸を開け、そっとルフィを抱き上げた。
ここで起きてくれ、いっそ……と言うゾロの願いは残念ながら叶わない。
「か、軽……。あんだけの食いモンどこ行った」
こいつケーキ9個食ったぞ。
そろそろと慎重に運べば、ようやくルフィの身体から全部の力が抜けたようだった。
ホント食うの好きなんだな、とちょっと可笑しくもなってくる。いつもなら困っているだけのゾロだったろうけれど、こんなに楽しいと思った誕生日はもう思い出せないくらい昔のことで……。
すべて、ルフィのおかげだ。
しかしゆっくりとベッドに横たえたつもりだったのに、ルフィの目がうっすらと開き、ゾロは再び固まった。
この体勢、思いっきり誤解されねェ……?
しかも虚ろな視線がゾロと出逢うなりルフィは困ったように眉根を寄せたのだ。
「誓ってなんもしねェから、安心しろ」
「ロロノアさん……」
「はいなんでしょうか」
思わず敬語。
「おれんこと嫌わねェ?」
「は!? き、嫌うわけねェだろ。寧ろおれの方が……」
いや何もしねェけど(恐らく)。
「だってごめん……! おれ言うの忘れてた……」
「あ?」
「二十歳の誕生日おめでとう! ロロノアさん!!」
にぱァっと笑って、ルフィは言った。そして心残りがなくなったからだろうか、あっと言う間に寝入ってしまったのだった。
すうすうと、規則正しい寝息が聞こえてくる。
「ったく、こいつって……」
どこまでおれん中に入り込んで来れば気が済むのか。
「つーか寝顔も可愛い……」
ぽそっと呟く。
それと、もう一つ。

「おれも言い忘れた。……ありがとう、ルフィ」
――“シヤワセ”な誕生日を。




Happy birthday Zoro!!
(END)
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