[1〜10話]

□4話
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コンビニ『マリーン』前、駐車場──。

「来たか?」
「うん、来たわ! あのトラックよ!! いつも“リーダー”と乗ってくるからチェック済みなのっ」
「おお、さすがだな!!」
店員ルフィとビビは、店長の許可を得て店の前で“ロロノアさん”の訪れを待ちに待っていた。
なぜなら昨日のお礼を言う為だ。
昨日、『マリーン』は閉店間際に強盗に襲撃された。そこへ近所の土建屋ロロノアがたまたま現れ、ビニール傘一本であっちゅう間に伸してくれたのだ。本人はルフィ達に礼を言わせることなく言いたいことだけ言って去ってしまった為、こうやって店の外でのお出迎え、と言うわけである。

「ロロノアさん!!」
店の入口の前に停まったダンプから降りてきたロロノアに、ルフィは頭の隅で「いつも目の前に停まってるトラックじゃん」とか思いつつ運転席側へと駈け寄った。反対側からはビビのお気に入り“リーダー”が降りてくる。リーダーは二人の店員に何事かと思ったのか、店には入らずロロノアの隣に並んだ。
「なんかあったのかロロノア?」
「あー、さァ」
さァって、ロロノアさんよう……。もう忘れちまったんかァ?
店長の言うロロノア像はホントに当たっているのかもしれない。その店長は昨夜の内に菓子折を持ってお礼に行ったそうだが「店の為じゃねェ」と追い返されたそうだ。
「き、昨日はありがとうございました!!」
ビビが隣のリーダーにちょっと頬を染めつつ、ポニーテールをブンと振り下ろして深々と頭を下げた。ルフィもハッとして、
「ありがとうございましたっ!!」
同じように頭を下げる。
「………」
無言のロロノアに、二人でそろそろと顔を上げた。いつもの黒手拭いを巻いた彼だ。相変わらずの無表情で感情が読めない……。
なんでなんも言ってくんねェんかな?
じー、っと。“ロロノアさん”がこっちを見ていた。そして「ああ」とようやく気付いたように、「ケガなかったか」とぼそり言う。ホントに忘れてたんか!とルフィは内心びっくりしつつ、身を案じて貰えたことが嬉しくて緊張にひきつっていた顔をやっとこ笑顔にした。
「ねェよ! ぜんぜんない!!」
「うん、ありません! ホントにありがとうございました!」
また二人でガバッと頭を下げる。
「もういいよ」
それだけ言ってロロノアは店内へと入って行った。リーダーが何やら話し掛けながら後へ続く。ルフィはそんな“ロロノアさん”を見送り、「はえー、かっけ〜〜」と呆けてビビにくすくす笑われ、「だってかっけーじゃん」とブツブツ言い訳した。
「リーダーの方がかっこいいけど!」
「んなことねェもんロロノアさんのがかっけーよっ」
「んふふ、ムキになってる! かわいんだルフィさん」
「むー」
「私ね、さっき思ったんだけど……」
「さっき?」
「さっき、ロロノアさんにお礼を言ったとき」
「うん」
「あの人、ルフィさんばっかり見てたわよ? ロロノアさんもルフィさんのこと好きなんじゃないかしら! そうよ、きっとそうなんだわ!!」
「はっ!? ないない! ねェよそんなん!! つーか、おれのは男に惚れるとかそんなんでな、べ、別に好きとかそう言うんじゃなくって、憧れるっつーか……そうそう、憧れてんだ!!」
とかなんとか、ルフィは異様に動揺している自分に気付いていた。ロロノアがルフィを好きかもしれない、と言う方ではなくて、ルフィが彼を好きかもしれない、と言う方に……。
「あらそう?」
「そう、だぞ……って、言いてェんだけど……」
「だけど?」
「おれって変なんかなァ、ビビィ」
実は昨日、ルフィはほっとんど眠れなかったのである。 助けてもらった瞬間を何度も思いだしては何度もドキドキして。
きっとニュースの中のような出来事に興奮してるだけなんだ、と思おうとはした。でも脳裏に浮かぶのは強盗なんかじゃなくて、勇敢な“ロロノアさん”の行動や言葉ばかり……。
あの時、ロロノアはルフィを怒鳴った。「おれひとりでいい」と言ったルフィに向かって「なに言ってんだ!」と。
それって……もしかしたらおれのため?とか。おれを助けたくて戦ってくれたんだったりして?とか。めちゃくちゃ都合のいいことばかり考えて余計にドキドキして嬉しくて……、眠れなかった。
ほんっと、おれってめでてェよな……。
「変って……なんでそう思うの?」
「だってロロノアさんがあの虎の強盗やっつけたときな、おれ、抱きつきてェ〜て思ったんだ。これって変じゃね……?」
「そんなことないわよ。だってスポーツ選手だって試合に勝ったら抱き合うじゃない?」
「へ? んー、まあ、そうだけどさァ……」
「そうよ。強盗に勝ったロロノアさんに、ルフィさんが抱きつきたくなってもちっとも不思議じゃない!」
実は良家のお嬢様だったりするビビは、ちっとばっかし世間知らずなところがある。時にルフィとは違った天然っぷりを発揮し、こんな風にズバリ的を射たと思ったらズッポシ外したりするのだ(ちなみにバイトは社会勉強らしい)。
「そ、そんなもんか?」
「そうよォ」
「そ、そっかァ!! そうだよな、変じゃねェんだよな!! は〜、良かったァ、おれ」
「うふ、良かったわね」
「うん!! あっ、明日はぜってーリーダーにチケット渡してやっかんな!?」
「あ、でも……ルフィさんも行きたかったんじゃ……?」
「いいよいいよ、気にすんな!」
「……うんっ!」
「んじゃおれ店戻るな〜」
意気揚々と店に戻りながら、ルフィはホッと胸を撫で下ろした。
「あービックリした。好きんなっちまったんかと思った! んなわけねェよなァ〜♪」
ここにもズッポシ外してる人が一人いるが、それはルフィがルフィだから(以下略)。
明日はビビのために人肌脱いでやるぞ! と、改めて心に誓うルフィなのだった。


翌日。
ルフィは今日こそ使命を果たすべく、今度は“リーダー”の方を待ち伏せていた。
本日シフトを一時間ずらしてもらい、ルフィは13時からだ。チケットを渡すだけとは言え店内でお客様に個人的用事を押しつけるのは体裁が悪い、と周りに言われたからだ。
よって、13時前に『マリーン』にやってきたルフィは私服である。黄色地の英字入りTシャツに半Gパン、肩掛けの白いスポーツバッグと、至って普通。今日は日差しが強いからって父に麦わら帽子を出掛けに被らされたが、お気に入りのヤツなのでまぁいい。
思った通り、いつものダンプが店の前に停まっていた。13時まではここに停まっていることを知ってはいたが、それに“ロロノアさん”と“リーダー”が乗っているとまでは知らなかったのだ。
運転席へとルフィは駈け寄り、窓をこんこんと叩く。気付いたロロノアが幾分驚いた風に窓を開けて顔を出してくれたとき、ルフィのテンションは一気に上がった。
「ちわっす!!」
「お前、休みじゃなかったんだな」
「へ? うん、今からだ!」
それよかロロノアさんってやっぱ運転すんだー! すっげーかっけー、今日もかっけー!!
目的はリーダーの方だが、こんくらいのご褒美は許してもらおう(ちゃっかり)。
「まだなんか用か」
“まだ”って……ひょっとしておれ迷惑か!? うわ、そうだったらどうしよう……。でもかっけーからいいや!!(どんな理由だ)
自己完結はルフィの得意技のひとつである。
「あの、いつも一緒のヤツ、いる!? 紫色のグラサンの」
首を傾げてルフィはロロノアを見上げた。ダンプの座席って高ェんだなァ〜とか、変な感心をしながら。
「コーザにかよ……。アイツは休みだ、今日は寝込んでんだ」
「コーザって言うんだ! コーザコーザ……。うっし、覚えたぞ! えへへ、ラッキー。……つか病気!?」
「……ただの夏風邪だろ。たいしたことねェよ」
「そっか、そんならいいけど……。お大事にって伝えてくれ!」
「ん……」
実際のところ、ルフィはたいへん舞い上がっていた。またまたロロノアと話す機会ができたことと、リーダーの名前が解ってビビが喜ぶだろう、と言う2点について。つまりロロノアの顔色を伺うどころではなかったと言う話しだ(伺って解るルフィでもないが)。
「あ、じゃあお願いがあるんだ、ロロノアさん!!」
「なんだよ」
「あんなこれな、コーザさんに渡してくんねェかなァ? 花火大会のチケット! できれば一緒に行って欲しいって」
「……ああ、別にいいぜ」
「ホントか!? ありがとう!!」
ハイ!と斜め上に腕いっぱい伸ばしてルフィはチケットをロロノアに突き出した。ちょっとした間があって「ん?」と思ったけれど、ロロノアは億劫そうにだが受け取ってくれた。これで確実にコーザに届けられるハズ!
「にししし!」
ビビとコーザさんには悪ィけど、今日のおれはすっげェラッキーだ。だって盗み見しなくても“ロロノアさん”を見てられるし、他の客に気を取られることもないし、結構喋れたし!
「あ、でも休憩のジャマしてごめんな?」
もーちっと見ててェけど……せっかくの昼休みだ。実はバイトをするようになって初めて休憩のありがたみを知ったルフィなのである。
「別に」
けれども彼はマジマジとチケットを眺めているだけで、ルフィを邪険にすることはない。それがまた嬉しい。
「なァ」
「はい!?」
そして不意にロロノアの翠の眼に射られ、ルフィのドキドキはとうとう最高潮に達した。
「つまりこれを渡して欲しいってことは……、コーザが好きなのか?」
「うん、そう!!」
ビビが!!
「あの、おさげの女じゃなくてか?」
「コニスか? 違うぞ?」
ビビだってば。
「わかった……、渡しとく」
「よっしくお願いします!! あ、えっとな、他に一緒に行くヤツはなァ〜…」
明らかに落胆したロロノアの様子になどテンション上がりっぱなしで天井なしの今のルフィに解るはずもなく……(通常モードでも解るルフィでは/以下略)。
結局ルフィは「もう仕事行かねェと」とロロノアに言われるまでの数分間、延々喋り続けていたのだった。
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