[11〜19話]

□13話
1ページ/2ページ


コンビニ『マリーン』、久々の1号店の皆様より。

「どうしてるかしら、ルフィさん……」
「ルフィさんのことだから、元気にやってますよ! ビビさん! それにもうすぐクリスマス、ロロノアさんと過ごすんじゃないですか?」
「そうねコニスさん。でも最近ちっともメールこないのよ? 無事に会えたってことだけで、それっきり……! もう、男ってダメね、不精で」
「ふふ、それはもしかしてリーダーさんのことかしら?」
「ち、違うわよっ。ヤダもう……。か、顔に出てた?」
「しっかり出てましたよ!」
二人は顔を見合わせぷくくっと笑う。相変わらず『マリーン』では、女子の話題は男のことである。とはいえ以前と違うところは、それぞれ特定の相手ができたということ……。
「まーたおしゃべりしてますね!?」
「キャー店長さん!」
「す、すみません……!!」
「まぁでも、私もルフィくんのことは気になります! ロロノアに苛められてないといいけど……」
「大丈夫ですよう! あの二人、両思いですから!」
「そうそう! そうですよ店長さん!」
「でもそれ、知ってるのは周りだけじゃないです……?」
「……そこなんですけどね、問題は」
「ええ、そこが問題なんですよね」
うう〜〜ん、と3人同時に唸った。まだまだ心配は絶えそうにない。
「今度忘年会でもしますか!」
「しますか店長!」
「ルフィさん達も呼んで、ですよね♡」
「もちろんです!」
今はそれとなく気づかせてくれる人がいなくなってしまったわけなのだから、あの二人が本当の意味で両思いになる日が来るのだろうかと、気が気ではない『マリーン』一同でなのであった。


「今日もハレンチ!!」
「ただのサンタのカッコだろ、パウリー」
コンビニに入るなり真っ赤になって店員に説教して回るパウリーに、ゾロは一緒について軽く頭を下げて回りながら嘆息した。
11月末以降、クリスマスまでは、どのコンビニでも店頭店内はもちろん店員までもがサンタの格好をしてクリスマスの装い一色になる。可愛いサンタコス店員が「いっらしゃいませ」と迎えてくれるのだ。真っ赤なミニのパンツに真っ赤な上着、白いぼんぼん付き三角帽子も当然真っ赤。そのちょっとマニアックな姿は今や冬の風物詩のひとつである(若い男達にとって)。
この『マリーン』でも御託にもれず、素足を惜しげもなく晒した店員たちが、せっせと仕事をこなしているわけで。
やたらと風紀にうるさいパウリーと来店したが最後、毎度のごとくこの反応なのである。
ゾロとしては……はっきり言ってどうでもよかった。
むしろガックリしていた。
なぜなら、先月パウリーが事務所へ戻って来るなり叫んだ『マリーンにハレンチなサンタがいる……!』との情報に、内心どきどきしながらマリーンへと向かったのだが、ゾロの期待虚しくルフィは白いファーで縁取られた真っ赤なエプロンにサンタ帽子をかぶっていただけで……。思わず「なんでお前だけエプロンなんだよ」とムスっとして聞いてしまったゾロに、ルフィはにっこりと「だって女モンだもん!」とごくごく当たり前な回答をしてみせてくれたのだった。
我ながらアホだ、と後で凹んだがそのときは落胆の方が大きかった。
そんなわけでここへ買い物に来るたび、サンタ店員が忌々しいゾロなのである……。
「いらっしゃい、ロロノアさん!」
「よう」
レジで品物を受け取りながらルフィがにこにこと笑顔を向けてくれる。週末の仕事疲れが吹き飛ぶ。
今日は土曜でゾロは仕事だが、ルフィは朝から入っているらしく、昼の買い出しのときのことだった。
ま、サンタ帽のルフィも可愛いからいいんだけどな……。
このところルフィがレジを打っている間、マジマジと見つめてしまう自分にゾロは一応気づいていて、たまにオレンジ髪の店員の目線が痛い。1号店ではなかったことだったので、最近見づらくなってきたなァと面白くなく思っている。その店員はすっかりルフィとは仲良しのようだ。と、そんなことはどうでもよく、ルフィは赤がとてもよく似合うのだ。
「735円になります」
「あ、ハイ」
「ハイって……」とルフィがくすくすおかしそうに笑った。つい、見咎められてしまったような気がしたもので……(誰にとは言わないが)。
お金を渡し、つり銭を貰う。そしてレジ袋を差し出され受け取ろうとしたのだが……ルフィが周りを気にしつつ、不意に身を乗り出してきた。後ろに幸い客はいない。
「あ、あのさ」
すぐ近くに、ルフィの顔……。ち、近いって……。
「なんだよ」
「明日、ヒマ? つか、ロロノアさんち泊っていい?」
「ヒマだが泊まりはダメだ」
「えー! またダメなのかよー!!」
実はゾロの誕生日以降、泊まりは再三断っているのだ。理由は言わずもがな“ルフィの貞操のため”である……。
「おい、声デケーんじゃねェか」
「おっとっと……。……なぁ。なんでダメなんだ、いつも」
「ダメなもんはダメだ。けど昼間ならいい」
「ちぇ……。でも会えるならいいや! んっと、おれ明日もバイトなんだけどさ、午前中で終わりなんだ。昼くらいに行くから!」
「迎えに来る」
「へ? 別にいいよ?」
「昼飯、どっか食いに行こう」
「……」
「外食嫌いか?」
「好き!! すっげー嬉しい!!」
「イヴだしな」
どうせその辺りだろうと、ゾロはニヤリとした。
案の定、ルフィがぱぁっと一足早い春のような笑顔になり、うんうんうんと何度も頷く。
なんでこう、どの表情も可愛いんだろう……とどうしようもないことを思いながら、ゾロは小さく笑みで返すとレジ袋を受け取り、コンビニを出た。
『会えるならいい』と思っているのは、自分の方だ……。


今日は夕方までバイトが入っているのだが、ルフィは疲れを感じることもなくワクワクと仕事に勤しんだ。
頭は明日のことでいっぱいなのである。
「なに浮かれてんのよルフィ。あんたはいつも元気ねー」
「お、ナミ! 休憩終わりか? てことはおれそろそろ上がりだな」
「そうね」
やはりサンタルックの同じくバイトのナミだ。彼女は大学1年で、学校の合間に自動車教習所に通いながらバイトで教習代を稼いでいるらしい。義理の親なので余計な金を使わせたくないそうだ。ルフィのように自分の為とは違う……すごいことだと思う。
「なー、ナミー」
一緒にレジに入ってきたナミが、「なぁに?」と首を傾げた。ナミってすっげー美人なんだけど、彼氏もいないらしい……もったいねェ〜。
「二十歳くらいの男って、一番なに欲しいと思う?」
「女じゃないの」
「ぶ…っ! お、女って……」
「そんくらいの年の男でクリスマスなんて言ったら、ヤることしか考えてないわよ」
「ロ、ロロノアさんはそんなことねェもん! だっておれと約束してくれたし……」
おれとはヤれないもん、な?
「はは〜ん。それでクリスマスプレゼントを、ってわけね?」
「そ、そうなんだ! 何がいいと思う!?」
「本人に聞けば?」
「んー、でもなァ。ロロノアさんの誕生日はそれで楽しちまったし……」
「楽? なんだったの?」
「抱……」
「だ?」
「言わねェ……」
「なによ、怪しいわね。ふ〜〜ん」
先月のことを思い出すと、ルフィは今でもドキドキバクバクしてしまう。あれっきりゾロはそういうこと(抱きしめるとかキスとか)を要求しないし、してもこないけれど、あんなのは絶対プレゼントにはならないとルフィは思う。だってやっぱおれだけ楽しすぎてる……。
それにドキドキする自分は変で“いけないこと”だから。
「ロロノアさんて、趣味は? 好きなものとか」
「ん〜〜〜、わかんね」
酒かー? おにぎり、なわけねェし。
「なにそれ、あんた達しょっちゅう会ってんじゃない。バイトが終わったら外でさ、この寒いのに」
「うん……」
でも明日のイヴの日のように約束して会ってるわけじゃ実はないのだ。ロロノアさんが来れるときだけ来てくれて、コンビニの前であったかいモン飲みながらちょっと話しをするだけ……。
ゾロは携帯を持っていなくてメールもできないし、家に電話も引いてない。ルフィがゾロの情報を仕入れる時間はごくごく限られているのだった。
「ダメだ! なんも浮かばねェ!! おれってホント気がきかねェよなァ……。わーんどうしよー! もう上がりの時間なのにっ」
このあと即行で買い物に行く予定だ。
「なんでもいいんじゃない? ルフィが必死に選んだものだったらなんだって喜んでくれるわよ。だってあの人ルフィにはめっぽう弱いじゃない」
「よ、弱い……? ロロノアさんは強いぞ、剣士だし」
「そういう意味じゃありません……。ま、とにかく、お店行って見ながら決めたらどうなの?」
「おお、それいい。そうすんなー!!」
「て言うかあんた……ほんっとロロノアさん好きねェ。1号店からわざわざ追っかけて来たってだけのことはあるわ」
仲良しになったナミにはいろいろ話してあるのだ。
「うん。へへへ。だってかっけーんだもん」
「はいはい、聞き飽きました。じゃ、お疲れ様でした」
「おつかれさんでしたー!!」
ルフィがぺこーっとお辞儀をして手をひらひら振る。しかし「あ」と思い立ち、ナミを手招きした。
「どうしたの?」
「内緒の話だ。ちょっとお願いがあるんだけどさ……」
「うんうん……はぁ? まぁ、別にいいけど……」
「ホントか! ありがとう!!」
苦笑したナミに「ししし」と笑い、ルフィは今度こそ更衣室へと消えた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ