[11〜19話]

□14話
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思った通り、とても奇麗な夕焼けだった。

ルフィはゾロと一度だけ来た砂浜に突っ立って、ボーっと海を見ていた。
つい逃げてきたはいいが、よく考えたらルフィの自転車は『マリーン』に置いたままだ。ここから歩いて帰ったら30分はかかる。
ゾロが追いかけてくる気配はないし、家に帰っただろうころを見計らって戻るつもりだった。
海風が、頬につめたい。指先もすっかり冷えてしまった。
「やっぱ、二度も追っかけてきてくんねェか……」
きっとゾロは怒ったか、呆れたかしたに違いないから。
だからルフィの顔なんか今は見たくないだろうと思う。
でも何日か経ったら許してくれるかなーと調子のいいことを考えている辺り、どこまで自分はおめでたいのか……。
「前向きだけが長所だもんよ……」
いっぱい反省したら、ロロノアさんに謝りに行こう。
そうルフィが決心してくりっ、と振り返ったとき。
「……うわっ!!」
「うわって、化けモンでも見たように……」
「ロロノアさん……!」
肩で息をしながら呼吸を整えるゾロの姿が数メートル先にあって、ルフィは自分の目を疑った。
「ったく、ここまで一本道だったよな? どーやったら迷うんだおれ」
迷ってたんだ……。
「お、追っかけてきてくれたんか?」
「あぁ、ちゃんと聞きたくて」
そうゾロは言って、躊躇いがちにルフィへと近づいてくる。なんとなくルフィは後ずさろうとして、けれど踏みとどまった。
なんべん逃げる気だおれ……!
それでなくてもゾロがすることには結構逃げてきた自覚のあるルフィだ。
ゾロが目の前まできて、そして歩みを止めた。ルフィの腕を掴もうとした手をしかし、すっと引っ込めてしまう。
「ルフィ」
「う、うん」
「やきもち、妬いてくれたのか?」
「うぐ…」
いきなりその話題かよー!
「カ、カッコ悪ィよな!? 男のクセに、ロロノアさんの友達に妬いたりなんかして、お、おれこんなん初めてでみっともなくって恥ずかしくって……それから、」
「そっかァ、マジに妬いてくれたのかァ……」
しかしルフィの言い訳などぜんぜん聞いていない風に、ゾロは「そうか」を何度か繰り返してそうっとルフィの両肩に手を掛けた。それは恐る恐る、細心の注意を払っているみたいに……。
「ロ、ロロノアさん?」
「今……、抱きしめてェの、結構、いやかなり必死に我慢してる」
「へっ?」
「お前もおれほどじゃねェけど、おれんこと考えてくれてんのかなって……」
あ、虫がいいか? と言ってゾロは小さく笑った。その顔がホントに嬉しそうで、ルフィはまた驚いしまうのだ。これじゃまるでロロノアさんの方がおれんこと好きみてェじゃん……。
「おれ、ロロノアさんのことばっか考えてるぞ? 家にいても今何してんのかなーとか、次はいつ会えるかなーとか、また約束してくれっかなーとか……」
「ルフィ……あのな、そういうこと言うと抑えが利かなくなんだろ」
「……?」
しかし利かないどころかゾロはルフィから手を離してしまい、視線もはずしてしまった。不思議に思ってそんなゾロの視線をルフィが追う。
「おさえって?」
「聞くのかそれを……。あー、ルフィ」
「……うん!」
なんとなく、今までの雰囲気が戻ってきたような気がしてルフィはにっこりと笑った。ゾロがまた言葉に詰まる。
「だから……」
「うん!!」
「帰る前にもーちっと話してェんだが、いいか?」
「ん? いいよ?」
そうして二人は堤防の上に並んで腰掛け、沈み行く太陽を眺めながら、ルフィはゾロの言葉を待っていた。
「おれの過去のことだけどな……」
「うん! 暴走族の総長な!? さっきまでずっと考えてた、おれも見たかったなァって。だからやきもち妬いたんかなーって。おれ、ロロノアさんのことなんでも知りてェって思ってたのにさ、ロロノアさんっていちいちスゲーんだもん……。おれバカだからすぐ処理しきれなくって思ったことまんま口にして……あーあ、バカだよなー」
「バカじゃねェよ……。おれにはお前の方がよっぽどスゲー。……じゃあ、もう気にしてねェって思ってもいいか? 怖がったりしねェ?」
「ん!? そんなん最初っからぜんぜんだぞ?」
「……やっぱルフィのがスゲーよ」
「わははっ、なんだそりゃ」
だってずっと知りたいと思っていたゾロの片鱗を知れただけでもルフィは嬉しいのに。もしかしてロロノアさんって、心配性……?(本人には聞かせられない)
「あー、それとルフィ。あんまり深く考えずに受け取って欲しいもんがあるんだが……。今日はぐれたときに目に付いて買ったんだ」
「買ったって……おれに!?」
「あぁ」
そして「これ」と言ってゾロが自分のリュックから取り出したものは、さほど大きくはない緑の袋。それは赤いリボンで括られ、鈴のぶら下がった金色のリースが飾りにつけられていて。
「これって……、もももしかして! ……ク、クリスマスプレゼントだったりする!?」
「……する」
「おれにくれんの!? ロロノアさんが!?」
「変か?」
なんか変だ! とルフィは力いっぱい言いたかったがなんとか耐えた。言ったらくれなくなってしまいそうだから……。
「ありがとう!!!」
「お、おう」
「開けていいか!?」
言いながらすでに口を開け始めていたのだが、ゾロは律儀に「どうぞ」と返事をくれた。
「あんま期待すんなよ」
「するよ! しまくりだ!!」
「いやそれはちょっと……」
ゾロがくれるもんならどんなものだってルフィは嬉しいに決まっている、そう思いながら中身を取り出したのに。続けてゾロが言った言葉に、ルフィは心底カンドーしてしまったのである。
「お前チャリ通の割りに手袋してねェだろ、前から気になってたんだ。この寒ィのに」
茶色い皮製の、手袋だったのだ。
「……」
「なんで無言なんだよ」
気まずげ〜な顔をゾロがする。
だって……。
「だって! 嬉しいんだもんよっ!! わーどうしよ、めちゃくちゃ嬉しい!! スゲー嬉しい!!!」
「大げさだろ……」
「んなことねェもん」とルフィはきっぱり否定して、きっちりもらったばかりの手袋をはめて、がばちょっとゾロに抱きついた。
いやもうホントーに迷惑なのはわかっていて、またまたまた抱きついてしまった。
「ありがとう……大事にする」
ほんのちょっとだけ、ゾロが抱き返してこないかと身構えていたことは内緒だけれど、ゾロは「どういたしまして」と一言、決して触れてはこなかった。
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