[30〜37話]

□31話
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本日は待ちに待った旅行の日である。夏休みも残り僅か、勉強ばかりだった二人にはご褒美となる二泊三日──。

のはずだったのだけれど。
「仕方ねェ……。仕方ねェとは思うが、ホントにここでいいのか? ルフィ」
「うん! ここがいい!!」
夜ももう遅く、周りにビジネスホテルもラブホテルもありそうにない山間。途中でカーナビがぶっ壊れては、方向音痴のゾロが目的地へたどり着けるはずもなく。
たまたま見つけたペンションの外装がたいそう気に入った風なルフィに、ゾロはルフィがよければと自分に言い聞かせる。
「だってドラムみたいじゃねェ? なんかカワイイ家だよなー」
「なぜそんな必要があるんだろうな、こんな山奥で……。ルフィならカワイイ必要あると思うが(小声)」
「ん?」
「いやなんでも。なんか魔女の館みてェだ」
「おおゾロうまいこという!」
暗くて外壁の色が解らないから余計そう見えるのだろうけど、パッと見は洒落た小さな洋館だ。
本来なら、自分達は海水浴も楽しむつもりで海岸沿いの温泉旅館に泊まる予定だった。恐らくこの山を下りればすぐ海が見えるはずなのだが。……それができれば今ここにいない。
ちなみに『ドラム』とは二人御用達(になってしまった)のラブホテルの名前である。と言っても利用回数はまだ少ない……(ゾロの試験が終わってもルフィの受験勉強が終わるわけではないので、もっぱらルフィの家で勉学に励んでいた)。
「よし! おれちょっと行って聞いてくるよ。ゾロここで待っててな!!」
「あ、おい……!」
要は行き当たりばったりで泊めてもらおうという、なんとも浅はかな考えなのである。だがしかし、もう夜9時を回った。腹も減った。一日ムダにしてしまったことを思うと、ゾロはせめてルフィの願いを叶えてやりたい。
すたこらさーと玄関への階段を昇っていくルフィの手を掴まえ、ゾロは「おれが行く」と言って制した。
かくして、運よく部屋が空いていて泊めてもらえることにはなった。あとは少々ほかの客と差がついても仕方がないと思おう。しかし食材も残っているらしく、今から軽い晩飯を作ってもらえるらしい。充分だ。
オーナーに聞くところによるとこのペンションはリピーターが多く、長期に渡る滞在者もいたりして、アットホームを売りにしているのだそうだ。迷子二人を快く迎え入れてくれたのも頷ける。
魔女の館なんて言って申し訳ない……。
そのゾロは部屋につくなり、ばったりとベッドに倒れこんでしまったのだった。
「悪いルフィ……さすがに疲れた。晩飯までちと寝ていいか? 30分後に下りていけばいいんだよな。なら30分……」
運転手は当然ゾロだったので。
ちなみに部屋は角部屋で洋室のツインだった。角なのに何故、と思ったが窓からの景観はあまりよくない。成程。
「えぇ〜……」
不満そうなルフィの声……。
「……わかった。起きてる」
「あ、ウソウソ! 寝ていいぞ! ゾロずっと運転してたんだもんな!!」
「嫌なくせに」
くすりと笑う。
「だってホントに大変だったもんよ!! 迷子!!」
あれこれ今日の道中を身振り手振り、大変と言いつつ楽しそうに話すルフィを寝転んだままゾロは眺め、また笑む。
ルフィはいつだって元気だ。じっとしていられない性質な割りに今日はよく我慢したと思う。ゾロなどは、すぐ隣にルフィがいてキスもできない状況に別の意味で我慢を強いられたものだが。
そんな本日を振り返りつつ、ついうとうとと目を閉じたら隣に寝そべって体を寄せてくる気配を感じ、もう夜もいい時間なのに、ルフィのひなたの匂いが鼻腔を掠めた。
「もしかして、おれが眠いと思って安心してるか?」
「なんでゾロが眠いとおれが安心すんの?」
その問いに、ぐいと腰を抱きよせ下半身をくっつけて、ソレを示唆すれば。
「ゾロ……硬くなってる」
ルフィが身をこわばらせた。
「まあそんなわけだ。疲れてっと勃つだろ?」
「そ、そうか?」
「ルフィはねェかぁ……」
「む、なんかバカにされた印象だな」
「そういうとこかわいくて好きだ」
素直な感想だったのに言った途端かぁっとルフィの頬が赤くなって、ゾロは結構自分が夢うつつなことを自覚した。半無意識だと素直になってしまう傾向にあるのだ。
衝動が抑えられなくて、ちゅ、とルフィの額にキスした。
「悪ィ……」
「ど、どうすんの?」
どうやら本気で途方に暮れてるらしいルフィが珍しくそんなことを聞いてきた。どうするとは多分、この下半身のきかん坊のことだと思われ。
「……これ、入れていいか?」
「ええーっ!!」
「一日中迷ってやっとゆっくりしてるとこを早々に悪いとは思うんだが」
「や、でもっ、ちょ!」
ゾロはルフィの焦りを完全スルーして、横抱きにしたままさっさと下着もろとも膝丈のジーンズを全部下ろしてしまった。無造作に足で衣類をベッドの下へ蹴り落とす。
それからルフィの片足を自分の腿に乗せ、いきなりまだ頑なな後孔を後ろからいじった。そうしながら、シャツを捲り上げて胸の淡い飾りに吸い付いていく。
「や、あっ、あ……っ」
ゾロは眠気の心地よさと、欲望が満たされていく快感とが相まって、突き動かされるまま第一戦をさっそく(一方的に)終えたのだった。



「もっと怒った方がいいと思うぞ……」
しかもルフィが怒ってるのは約束の30分後に10分ほど遅れてしまったことにだ。
ゾロ的には、食事に遅れたこともそうだが、前戯とか思いっきりすっ飛ばして過去最短時間で終えてしまったことと、出すだけ出してさっさと惰眠を貪ってしまったことを反省中であり、その2点と、ルフィの同意をきちんと求めなかった計3点のことをルフィはもっと怒ってしかるべきだと思ったのだけれど。
「なんで? ゾロちゃんと痛くないようにしてくれてたぞ?」
「そうだったかな……」
あまりにも気持ちよくてよく覚えていない……。彼を抱くのが久しぶりだったせいもある。
「いつもみたいにあっちこち触ったり舐めたりとかされなかったから、あんまし疲れてねェし! ダイジョブダイジョブ!」
「あぁ……」
それってそんなに疲れるものなんだろうか。ゾロは触る側なのでわからない。
ルフィは本心から笑っているようなので、ゾロは多分気にしなくていいのだとは思う。寧ろ気にしていると返ってルフィの機嫌を損ねないとも限らない。また遠慮するな我慢するな、と言った風に。
いやでも、こんないかにも「使われただけ」みたいのでいいのかルフィ……。
「それに……ゾロは眠くてもきちんと外に出したし……」
そこだけなぜか不満そうなルフィに、ゾロは何かまずったかと思考を巡らせてみた。
「あ、もしかしてシーツ汚したか?」
「ん? あぁ汚れた! 一応拭いといたけど! 別に怒られねェよな?」
「平気だと思う」
「そっか! よかった!」
そのことだったのか、とすっかりいつものルフィに戻ったことに胸を撫で下ろし、ゾロは出された前菜に手を付けた。本来なら他のテーブルには同じ宿泊客がいて一緒に食事を取っているはずだから、その辺は二人きりでラッキーだったなと思う。
「いつもはな、ケーキバイキングをやってるそうだぞ! おれも食べたかったなァ〜」
「なら明日も泊まるか? ルフィが決めていいぞ」
ルフィの誕生日の埋め合わせなのだし。
「いいんか……? じゃあ泊まる!! この辺も散策してみてェしな〜♪」
「ああ確かにお前が好きそうな感じだったよな。ジャングルみてェで」
冒険どころがたくさんありそうな。
「おう!! いい棒見つけねェと」
「棒がどうした」

──そうして食事が済み。

“開いてればいつでも入ってOK”とか言う貸切風呂へ二人でやってきたわけなのだが……。
「うっわ〜! 花だ! 湯船に花が浮いてるぞゾロ!!」
「あァ。蘭の花、だな」
「ラン……? へ〜。真っ白できれいだな!」
「いやでもなァ……」
「でもってなんだよー」
「女なら喜びそうだが」
「おれも喜んだぞ」
「ルフィは目新しいもんはなんでも喜ぶだろ」
「ん、まァな! よし、入るぞゾロ!!」
「やっぱ入るのか……」
こんなオトメチックな展開は望んでいなかったのだけれども。ま、ルフィが嬉しそうだから良しとしよう。
ルフィがちゃっちゃか全裸になってペタペタ浴室へ入っていく。浴槽は通常の3倍くらいだろうか。形は半円型だ。温泉宿のものにくらべたら格段に小さいそれはやはりカップルや少人数向けの家族風呂なのだ。
さっそく湯船にちゃぷんと浸かっているルフィの黒い頭と白い肩が見え、ルフィが手や足を動かすたび、蘭の花がルフィの肌を掠めてふわふわ揺れ動いていた。
ゾロはずっと見ていたくなるような光景に早くものぼせそうになるも、そろそろとルフィの隣へ浸かる。
こんどは二人の周りを白い花々がゆたゆた、くっついたり離れたり。まるで意思を持っているようだ。
「なかなかキレーだなァ」
独り言らしい。
ルフィはしばらく手ですくったりつついたり、初めての蘭の風呂を楽しんでいるようだった。もちろんゾロとて初めてなのだが特に感慨もない……。
「なんなら髪に飾ってやろうか」
と揶揄すれば、
「えー、いや!!」
そこはしかめっ面できっぱりお断りされた。
結局このルフィが大人しく湯になど浸かっているはずがなく、しまいには投げたり千切ってみたりスープみたいにかき回してみたりと、花がえらいことになりそうだったのでゾロが慌てて止めたのだけれど。
「やっと二人きりで旅行できたなー、ゾロ!!」
「ああ」
ひとしきり遊んで体もピカピカに磨いて、またのんびり浸かっていたらルフィが唐突に話し始めた。
「おれすっっげェ楽しみにしてたんだ。だから勉強がんばれた」
「おれもだ」
「ゾロもか。よかった」
「当たり前じゃねェか。それにやっと約束も果たせてホッとしてる。ルフィの誕生日の」
「うん! ありがとう!!」
ルフィが勢いよくゾロの腕に自分の腕を絡めるので、ゾロの顔に湯がぱしゃっとかかった。それでも悪びれた風もなく彼はニコニコよい笑顔だ。
ゾロは片手を伸ばししっとり水気を含んだルフィの黒い髪を指で梳き、それからほんのり赤く染まった頬に触れた。
「でもごめんなルフィ」
「なにが?」
「お前の決めた宿に辿り着かなかった……。キャンセル料も取られちまうな」
「なんだそれ」
「予約してたんだろ? ドタキャンは100%のキャンセル料をとられるんだ」
「予約なんかしてねェぞ?」
「は……?」
「そっか。予約するもんなのかー」
「……お前ってやっぱ大物だなァ。道理であっさり『他探そう』って言えたわけだ」
しかし吉とでたから良しと……って今日このパターン多くねェか。
「ゾロと泊まれたらホントはおれどこでもいいし!」
そう言って不意にルフィの熱が近くなって、気付いたらちゅうとキスされていた。ルフィからこんな風に自然なのは初めてではなかろうか。これも旅行効果ならスバラシイ……。
「ルフィ……」
もちろん腰を抱き寄せお返しのキスをした。大輪の蘭の花に囲まれ、うっすらピンクに色づいたコイビトを目の前にして手を出さない彼氏がいたら、それは不能じゃないだろうか。
そういえばさっき抱いたときキスしたかな……。……してねェかも(サイテー)。
その分もという意気込みで、ゾロはルフィの足を掴んで自分の膝に跨らせた。至近距離で瞳がぶつかる。ルフィが何か言いたげにするも、頬を優しく何度か撫でそれから後頭部に添えた。
ゆっくりと唇を寄せていけばルフィが一度瞬きして、大きな瞳を伏せた。
それを合図にゾロは噛み付くようなキスを送る。ルフィの両手がゾロの首に回ってきて、堰を切ったように互いの舌を絡めあった。
ルフィもこうしたかったんだろうか、そんな都合のいい考えにゾロが自重するも熱くて甘い彼の口腔に理性はだんだん言うことを利かなくなってくる。
しかしゾロの腹に当たっていたルフィの柔らかだったモノが、長い長いキスの間にじょじょに硬度と角度を増し、ゾロにその劣情を訴えるのにまんざら独りよがりではないと知った。
また、ゾロの欲望がザワザワと頭を起こす。
ゾロがルフィの脇に両手を差し込んで勢いよく抱き上げたらルフィが「おわっ!?」と焦った顔でゾロを見たけれど、ゾロは構わず、浴槽の淵に彼の体を横たえた。
拍子にくっついてきた白い花がいくつも、そのなまめかしい肌を彩りいっそう凄艶に飾って──。
「キレイだな」
素直な感想を述べていた。
「ソレおれにはいっちばん似合わねェ言葉だと思うけどっ!」
そうルフィは怒ったように照れたように怒鳴ったけれど、ゾロからすればルフィは自分を知らなさ過ぎると思う。
こんどは、
「また今からやらしいことすっけど、いいか?」
「……いい、ぞ」
ゾロは了承を得て、その体を貪ることに夢中になった。



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