[30〜37話]

□35話
1ページ/2ページ


待ちに待った11月11日まで、あと少し――。
「この部屋来たの2回目だな! やっぱおれこっちのが好きだー」
ルフィがゾロの部屋の真ん中で「う〜ん」と伸びをするのを眺めながら、ゾロはジャケットを脱いで椅子の背に掛けた。

ルフィの希望でこっち≠フ家――ゾロが育った家へと来ることになったのだ。母親はいい顔しなかったけれど、誕生日の前日だけ、ということでどうにか納得させた。なので明日の夜は現自宅でいい年してバースディパーティが執り行われるらしいのだが、ゾロにはえらい迷惑で、今からどうやってフけようかと考えていたりする。しかもルフィも呼べというから驚く。ゾロはともかくルフィがボロを出してしまいそうで怖ろしい(自分たちが付き合っていることについて)。まぁ、その時はその時だとも思っているが……。
「そうか? こんな古いうちがいいのか?」
ゾロとて居心地がいいのは確かにこっちなので、実はちょっと嬉しかった。
「うん! なんかゾロっぽい。古風で」
「なんだそりゃ。おれそんな古臭ェかぁ?」
「そうじゃねェんだけど……。なんつーか、ゾロはこの家で育ったからおれが好きなゾロになったんだなーって思うんだよ。だから気に入ってんだ!」
ルフィが赤いパーカーの上着を脱いでその辺に放り投げるなり、ゾロのベッドへ前来たときのようにジャンピングダイブした。俯せのまま細長い手足をのばして、ゴロゴロしたりバタバタしたり。
夜はすっかり寒いのにルフィは膝丈のジーパンなので、足をプラプラするたび締まったふくらはぎがゾロの目の前でちらちらする。この季節になると殊更白いから、ルフィ不足だったゾロには残念ながら目の毒と申しましょうか、目線を逸らす他ないのだ。1年前でもあるまいし情けない話……。
と思っていたら気が付けばルフィが目の前まできていて、ばふりとゾロの胸に飛びついてきた。
お、あったけェ。――じゃなくて。
ルフィがぎゅっと抱き着いてくるので「離れろ」と引き剥がした。例の罰ゲーム(前話参照)はまだまだ有効なのだ。途端すねすねモードになったルフィがぷくっとほっぺたを膨らませて、睨みつけてくるのにゾロは頭を掻いた。
そんな顔も可愛いのだから始末に悪い……(むしろ己が始末に悪い)。
「あとちょっとじゃん! 抱き着くくらいいーだろ!」
実はあと20分少々で0時だった。さっきまでありきたりなデートコース≠ニいうものを二人で体験してきた。ドライブして外で食事してゲーセン行ってカラオケで歌ってetc……。なにげに初めてのことなので、二人とも思いのほか楽しんで帰宅がギリギリになってしまったのだ。付記するならカラオケは専らルフィの独壇場で、ルフィが案外プロ級に歌がうまいことに何となくショックを受けたゾロである。なんか、もったいねェことしてた……という方向で。ちなみに今までは勉強するほかで会うとすればラブホ直行の不埒なカップルだったわけで。
「すまんがダメだ。切りがなくなる。おれが」
「お、おれが? ゾロが? んん〜〜、なんか去年と逆だな……。おれあの頃はゾロにぎゅってされても逃げてばっかだった。でも誕生日は頑張った!!」
「去年のあれか……。懐かしいな」
ルフィに『プレゼントなにがいい?』と聞かれて、ゾロは『いっぺんだけ抱きしめさせてくれ』と頼んだのだ。ルフィは逃げ腰だったけれどじっと抱かれててくれたのを思い出す。
「おお、あのプレゼントはおれ、楽しちまったから後ですっげー後悔したんだぞ!!」
またぷっくり、とルフィの頬が膨らんだ。
「すまん……」
ついつい全面降伏してしまうのは惚れた弱みか既に条件反射か。
「うわ。おれまたゾロ悪くねェのに怒っちまった……。ご、ごめんなさいっ」
今度はぺこっと頭を下げられる。全くルフィは忙しい。
「謝ることねェんだぞ。そういうトコも気に入ってんだから、おれの責任だろ」
「えっ、そ、そんなことねェと思うけどな……」
「あぁ! ルフィ、もしかしてそれで『あんなのプレゼントじゃねェ』つってたのか!? おれはてっきり嫌だったのかと」
「嫌だったわけねェよ! ただドキドキすんのはダメだと思ってたから……。ん〜でも、おれホントは怖かったんかなぁ……」
「知ってる。だから去年は抱きしめたらそれでお前のことは諦めようと思ってた」
「えええ――っ!! そんなん聞いてねェ!!」
ルフィが異様に驚くので、ゾロまで驚いてしまった。そんなに驚くことだろうか。
「あっさりと徒労に終わったけどな」
だからニヤ、と笑って言ってやる。
「なははは! ま、ゾロが諦めてもおれが諦めなかったけどなー」
「かもな、お前なら」
「でもおれ好きな人だから怖かったんだと思うぞ?」
そう言ってチロッと見上げて来たルフィの上目遣いは思ったより真剣なもので、真理なのかもしれない。
「けど振り返るとおれはホンット、できの悪い彼氏だったよなぁ。お前のこと泣かしてばっかでよ……」
誤解させては泣かし、心配させては泣かし、抱いては泣かし、怒らせては泣かし、不安にさせては泣かし。
「軽く凹んできた……」
「もう。凹むなよゾロはー。だっからァ! それも好きな人だからじゃん!! おれなんかきっとゾロがいなくなる≠チて想像しただけでも泣くと思うぞ? よし、待ってろよ!?」
「は、はい?」
待つとは、いったいナニを……?
ゾロの当惑をよそにルフィがなにやら「ぬ〜〜〜」と目を瞑って考え始めた。そして、
「う゛う゛ホラな……。そんなんヤダッ! 泣けるっ」
ぐじぐじ鼻を鳴らしだすので、ゾロは大いに焦らされてしまった。
「わ、わざわざ泣くなアホ!!」
「だって想像しちまったんだもんっ。えぐっ」
「ここにいんだろうが……」
だから、泣き顔は卑怯なんだって……。
そっと抱き寄せたらルフィの両手が背中に回ってきて、慌てて引き離したらやっぱりルフィがぶうっと膨れた。


――そうこうしている内に。

カウントダウン開始。

「10、9、8、7……ゾロも一緒に!」
「お、おれはいいよ」
「5、4……ダメ!!」
最後だけ、一緒にハモって。
「2、1……、よっしゃ11日だ――っ!!!」
ばんざーい! ばんざーい!! とルフィは感極まって両手を何度も振り上げてしまった。
「誕生日に万歳?」
ゾロのベッドに並んで腰掛け、ゾロのアナログ式腕時計を一緒に覗き込みながら今か今かとカウントダウンしたのだ。
「うんやったァ! おめでとう――っ!!!」
今度こそぎゅうううっとルフィは隣にいるゾロに抱き着いていった。
ふあ〜、ゾロだァ〜〜……。ぬくぬく。
「一体どっちにおめでとうなんだよ」
「おれ!!」
「おいおい」
「うそジョーダン! ゾロにっ!!」
「信憑性が薄い」
「難しいこと言われてもわからん」
「それよかルフィ……」
自分の胸元ですりすりしているルフィの肩を掴んで顔を上げさせたゾロが、じぃっ、と見下ろしてきた。何かを訴えるような、燻すような切れ長の双眸……。
「ダメ」
「はい?」
「チューすんなよ!?」
「そんなお前……」
「おれがする! おれからチューしていい!?」
「あ!? あー……。……もちろん」
その返事にルフィはにっこり笑って、立ち上がるとゾロの両肩に手を掛けた。ゾロが立とろうとするのを制し、「そのまま」と告げる。
「ゾロ、背伸びたから。立たれっと届かねェ!」
20過ぎても伸びるんだから羨ましいったらない。ルフィなんか、とっくに成長がとまっている。ふーんだ!
「あぁそうか!」
けれどまたゾロが何かを閃いたらしいのだ。ポンッと手を打つからビックリした。
「んん!?」
「だからお前、前より可愛く見えるんだなぁ。いや確実に可愛くなってるとは思うが」
「なっ、なに言い出すかなゾロは! おれもう18だぞ!? 結婚もできるし大人だもんよ!!」
「あぁそうだな。可愛いばっかでもなくなってきたもんな、特に抱いてるときとか――」
「もう!! ゾロは黙れっ! こ、この話は終わり!!」
「照れてんのか? やっぱかわ――」
ゾロが言い終わるまでにルフィは唇を奪ってやった。うちゅっとぶつけて、でもすぐに離す。案の定ぽかんとしたゾロの顔がすぐそこにあってしめしめだ。
「しししし!!」
「スイマセン、もう一回お願いします……」
「ぶっ。なんだそれ。おおいいぞー!!」
ルフィは今度こそゆっくり顔を近づけていく。しかしなぜかゾロがなかなか目を閉じてくれないので、本当に唇が触れる直前になっても互いの瞳を見つめ合っていた。
そしたらゾロがしみじみ「でかい目だよなぁ」とかいうので、ゾロはキスされるくらい大したことじゃねェんだろうなぁ、と思った。
でも、ルフィには一大イベントなのだ。
「ゾロ、目ェ閉じて」
「ああ」
やっと閉じられた切れ長の瞳にちょっとホッとしながら(それからドキドキしながら)ルフィはようやく、今日2度目のキスを自らゾロに贈った。
ちゃんと感触が解るくらい。
温度を分け合えるくらい。
そしたら、ゾロのイタズラな手がルフィの腰を挟み込んでやわやわ撫でてくるので、ぺっと叩き落とす。今日は大好きなゾロの誕生日なんだから、自分からイロイロしたいのだ。
怖ず怖ず舌を入れてみたら当たり前のように吸われ、ルフィはぷはっと顔を離した。
「ダ、ダメじゃん!」
「またダメ出し……」
「おれがするって言ってんだろ!!」
「1年で成長したなァ……」
またしみじみと。
「おれだってできるもん」
言ったからにはやり遂げる!
ルフィはまたむちゅっとゾロにキスして再び舌を突っ込んだ。ゾロの舌先を舐めて掬ってちゅうと吸ったら、背筋がぞくっとして堪らない。
される気持ちヨさしか知らなかったルフィだけれど、これはする気持ちヨさも知ってしまったかも……。
夢中になって絡めたり吸ったりしていたらゾロに膝の上へ座らされ、安定がよくなってゾロの首に腕を巻き付け、思う存分ゾロにキスした。
好き≠ニいう気持ちがむくむく溢れてきてもう尽きることがない――。
「ん…っ?」
しかしぎゅっと抱きしめてきたゾロにくるんと場所を反転され、ルフィはばっふんとベッドに押し倒されてしまった。
離れた唇を追ってきたのは、今度はゾロだ。
激しく啄まれて何度も何度も角度を変えキスされて、あぁこれが大人のキスなんだよなぁ〜…とあっという間にオーバーヒート気味の心臓をドキドキ高鳴らせる。
それからゾロの唇が頬に耳尻にと滑っていって、今度は柔らかい首筋を吸うと、次に薄手のセーターの上から体のラインを辿られた。
「ちょっ、と、待って……」
何となく、ルフィは不安に駆られてゾロの手を止めた。
すぐにゾロの顔が上がってちゅっとおでこにキスしてくる。そして言うのだ。
「乱暴にしたら、ごめんな?」


.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ