[30〜37話]

□36話
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ゾロは朝っぱらからぐったりと神経をすり減らして、ルフィと共に自室へ戻っていた。
ゾロの育ての親ミホークと、恋人のルフィと、そして自分、という異様な組み合わせでの朝食風景を思い出し、またげんなりする。
今日はゾロの誕生日である。
だからというわけではないが、色々あって昨夜は(いやほとんど朝まで)ぞんぶんにルフィを抱いて充分過ぎるほど満たされ、今日もルフィと二人きりの時間だけは大事に過ごそうと思っていただけに、ミホークの乱入は予想以上にゾロの精神衛生上、よろしくなかったらしい。
ルフィはぶっちゃけ空気を読むタイプではないし人見知りもしないので、ミホークにあれやこれやと話かけていた。主に、ゾロの子供のころの話を聞きだすために。
自分の知らないゾロを知っている人、というだけでルフィはそうとう嬉しかったらしい。義父は言葉少なにだがそのルフィの期待に応えていたと思う。思う、というのは話の殆どを耳が自動消去したからに他ならない。
どうにか苦痛の朝食を終え、ルフィとふたりではみがきをして、ゾロの部屋へ戻ってくるまでの間ルフィと会話したかもよく憶えていない。
ベッドへどさりと腰掛けてハァァと息を吐いたら張り詰めていた緊張が切れたのだろう、どっと疲れが出たというわけだ。
ルフィとのセックス4回より体力使った気分……。
「ゾロー?」
「ああ」
返事をしたがゾロはぐてっとこうべを垂れたままだ。ルフィが隣へぎしっと座ったのはかろうじて解った。
「ゾロの父ちゃん渋いなァ!」
やっぱりルフィは空気を読んでくれない。今その話題はやめて欲しい。
「そうか?」
近所からは偏屈で通ってんだけどな。
ちら、とルフィを見たらにっこにこのいい笑顔で、ゾロはルフィが悪いわけでもないのに一瞥をくれて視線を逸らせた。
「そんでかっこいいな。強そうだ。おれずっとゾロのこっちの父ちゃんに会いたいって思ってたから嬉しかった! やっぱおれの思った通りだったなァ〜」
「へぇ……」
あまり聞いてない。
「おれさ、確かめようと思ってたことあって――」
ルフィが言い終わらないうちにゾロはルフィを肩をわしっと掴んで、力任せにベッドへ押し倒した。
「ブヘっ!?」
「……」
ルフィの顔の脇にひじをつき顔を近づけるといきなり唇を塞ぐ。同じ歯磨き粉のミントの香りがした。
「ん! んっ!?」
無理やり唇をこじ開けて舌を突っ込む。
ルフィがいやいやをしたが許してやらず、ミント味の舌を無遠慮に吸い上げた。
「――ン、んゃ、ん〜〜」
パジャマの上から体のラインをするする撫でると、咎める様にぎゅっと肩を握られたので、その手を取ってシーツへ押し付けた。が、もう片方の手にぽかっと頭を叩かれそっちもシーツへ。
貪るように口腔を犯していたらバカぢからのルフィが本領発揮し出し、手首を握っているゾロの手ごとゾロのあごを押し返してきた。
ぐぐ、ぐーっ。
「ちょ、と、待て――っ!!!」
ハァハァとルフィが肩で息をつく。そのルフィの濡れた唇にうっかりまた塞いでやりたくなっているというのに、これ以上キスさせてくれそうにない。
「ゾロ!!」
「ってェな、なんだよ」
不機嫌な声でもって返す。
「お、おれ、もう――」
スタンバイOK状態は終了してます、って言いてェんだよな?
眉根を寄せたルフィの心もとない表情にその真意はすぐ読めたのだが……。
逡巡。
ここで「知るか」と跳ね除けられればどんなによかったか、そんなことは(ルフィ限定で)できないゾロなので、ルフィの手首を離してしぶしぶベッドへ座りなおした。
それでもしょうがねェな≠ニいう態度は崩さない。
飛びのいたルフィがじとっとゾロを見てくるけれど、ゾロはその瞳を見返すことができなかった。
ルフィに八つ当たりしちまった……。最低だ。
「ぐずっ」
「ル、ルフィ……?」
恐る恐るルフィを見たら途端ぽろっと一粒ルフィの目から涙がこぼれて、ゾロは一気に覚醒した。
「悪ィ……! おれそんな怖かったか!?」
昨日たっぷり抱いたせいかまた麻痺していたらしい。けれどルフィはぶんぶん首を横に振った。
「違うっ!! 今、おれんこと考えてなかっただろ……」
「は?」
「ゾロおれんこと考えてなかった!!」
まぁ、その通りですが……。
「そんなんで、キスとか、えっちとかできねェもん!!」
どーん。
「ですよね……」
すいませんでしたホント、と頭を下げる。
ルフィは、ゾロを受け入れるのがムリなわけじゃなくて、心ここにあらずのゾロを拒否していただけだったのだ。
なんてこった……。
「ホントにすまん」
「いいよ、ゾロのバカちん」
いいとか言っといてバカって……。バカだと思うけど。
ルフィが空けていた間をつめてきて、ぴとっとゾロにくっついてきた。ルフィの子供体温が気持ちいい。
そろそろとルフィの体を抱きしめて、さらさらの黒髪に鼻先をうずめた。
「反省したか?」
「…した」
「んならいい!」
ちょっと理不尽な気もしたがルフィに真情を吐露するよりマシだ。
「おれなぁ」ともうルフィはいつものルフィに戻っていて、この切り替えの早さに今回は救われた気がする。
膝に抱えて顔を覗き込んだら、冒険のあとのような興奮気味のルフィがゾロを見上げてきた。まだちょっと目の淵に涙が残っているせいか3倍増しでキラキラして見えて、可愛いなぁと取り留めなく思ってしまう。骨抜きで困る。
「あ?」
「おれ、ゾロはこっちの父ちゃん似だと思ってたんだ。やっぱりそうだった!!」
「はー??」
今ありえないことを聞きましたが空耳でしょうか。
「箸の持ち方一緒だった! 食べる順とか! それからなんつーかな、ちょっとした仕草とか? ん〜〜? とにかくゾロは父ちゃん似だった!!」
「いやそんなこと……」
あるのだろうか、もしかしたら。なんとなく心がほっこりする。
「ゾロは嬉しくなかったんか?」
「オヤジと会えてか?」
「うん。だってゾロ、こっちの父ちゃんの方が好きだろ?」
「……考えたこともなかった」
母親についても親父についても、好きとか嫌いとか考えたことはなくて、血の繋がり関係なくこっちの家の両親がゾロにとっては本当の親だというだけだ。
反発しても迷惑かけてもいい存在、わがままを言える存在。けれど絆が絶たれることはない。それが親、肉親の情というもの。
「ソンケー、してるだろ?」
「……してるかもな」
実の親よりも。その辺は。
「もっと甘えればいいのに」
「お前の前で甘えられっか! つか甘えた記憶もねェけど」
これでも厳しく育てられたのだ。
「そうなんか!? おれなんか今でも甘えっぱなしだぞ?」
ふとゾロの脳裏にシャンクスの顔が浮かぶ。
「どんな風に……?」
それからルフィが抱っこされたりおんぶされたりしている絵が浮かんできて、慌てて打ち消した。
んなわけねェだろ……。
「おれもう高3なのにわがままばっか言ってるもんよ。無茶言って困らせて、迷惑かけて心配させてる。でも親だし! エースもな、おれんこと不肖の弟って言うけどおれんこと大好きだぞ! おれもなっ!」
「ああ……そういうのは解る。それが本当の家族ってやつだ」
「だよな!!」
「そういう意味でならおれはこっちの親のが好きだ」
「よかった。しししっ」
「おれにこんなこと言わすとは……。ルフィ侮れん」
いやいつも負け負けだったか。
そのとき、控えめなノックの音が聞こえた。
「オヤジだな」
「え」
ごしごしとルフィが目をこすった。
ドアが開くと同時にゾロはルフィから離れて、「なんか用か」と現れた父にぶっきらぼうに返す。
「……取り込み中だったか?」
ルフィの涙の痕を見咎めてだろう、鷹の目のように鋭い視線をミホークが送ってきた。
「いや……」
「昨夜も泣かしていただろう、その者を。言い合う声が聞こえたぞ。立ち入るべきではないと引き返したがな」
「取り込み中ってあんときかよ……」
ゾロはまたガクリと膝をつきたくなった。てっきり真っ最中(セックスの)だと思っていたのだ。
「あ、これはおれが勝手に泣いてんだからいいんだおっちゃん! おれさー、ゾロんことになるとすぐ泣いちまうんだよ……ダメだよなァ」
「ゾロを大事に思ってくれておるのだな」
「おう!! 大好きだ!」
「そうか……。ゾロもそんな相手を見つけたか」
「もういいだろ、用件言えよ!」
なんだかいたたまれなさ満載だ。
「近々時間を作ってもらいたい。話がある」
「話し……? 今じゃダメなのか?」
「少々込み入った話なのでな。お前にも承諾を得たい」
「……わかった」
腑に落ちないものを感じたが、ゾロはひとまずうなずいておいた。


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