[38話〜連載中]

□38話
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始まりは当然と言えば当然かも知れないが、片想いだった。

見つめるだけで満足していた存在と顔見知りになり、会話をするようになり。
お互いの気持ちを知ってからは、奇跡にも付き合うことになった。
紆余曲折あって体を重ねるようになったのは1年前……。

「んぁ…あ、ハァッ……ぁあっ」
「ルフィ……きつくねェよな?」
「ぅん、んっ、ゾロ……っ」
ルフィはセックスのとき、いつもぎゅう〜っと目を瞑って真っ赤なほっぺたで、あふあふといっぱいいっぱいになる。
そんなコイビトの顔をゾロは覗きこみながら、広いおでこに貼りついた前髪をかきあげチュッとキスした。
以前ならば「きつくねェか?」と聞くところを、最近のルフィはとても気持ち良さそうなので。ただの確認作業となっている。
ルフィもルフィで「全部入ってる?」とゾロが気を使っていないか疑わしい目線を送ってきたものだが、最近は感覚で把握できるようになってきたらしい。
つまり自分の中のゾロの質量で……。
「ゾロ…ッ、あっん、おく……っ」
「わかってる」
皆まで言われなくともわかるようにもなった。ゾロは被さっていた上体を起こすと、ルフィの細っそい腰を両手で挟んで引き寄せ、彼の一番好きな箇所をゆるゆると突き始めた。
「ああああっ」
常からゾロががむしゃらにルフィを扱うことはない。彼にあわせて徐々に徐々に、だんだんと振り幅を大きく、強く……。
「ゃあ! あっ!……あっあっ!」
「ルフィ、」
ヤベェ今日も可愛すぎる……。
乱れ出したルフィは視覚的にも強烈に欲情するので、自制に必死なのだ。
ついつい、またぐんっと大きくなってしまった息子にゾロはしまったと思い、びくんと跳ねたルフィにちょっと申し訳なくなった。
「すまねェ……」
「ゾロ…って…どこまででも、でっかくなるなぁ……ハァ」
「さすがにどこまででもはねェよ」
今まで本領発揮したことねェから、わかんねェけど。
ずっとずっと大事にしていきたい、だから知らなくてもいいと思う。
なのに、
「ゾロ……ちゃんと中出せよ?」
とか上がる息でニカッと笑って言われると、コイツはホントどうしてこんなタイミングかな…とゾロは舌を打ちたくなった。
……自制できなくなるだろうが!
「お前には敵わねェよ!」
それだけ言い捨てまた腰を打ち付け始める。
「あ、や……っ」
やがて。
ルフィが達すると、ご所望通りに中出しをした。


「ずいぶん慣れたよな」
ベッドでけだるい体を横たえたままゾロはルフィになんとはなしに言ってみた。
うつ伏せのルフィが顔だけこちらに向けると、「ん?」と眼をパチクリ。
つやつやの肩をすりすり撫でてゾロはだから、と続けて、
「セックス」
「へ?」
「慣れてきただろ?」
大学生になって二人でいられる夜が増えて、回数も増えてきたからかもしれない。
今日は2限まで二人で学校にいて、昼飯を学食で済ませて、そのままゾロの家にやってきた。イチャイチャしてるうちに我慢できなくなったのはゾロの方だったが……ルフィが自然と受け入れてくれる回数も増えたので。
今までの苦労が報われてきたのかも、とゾロはしみじみ感動してたり……。
天然で豪胆な性格のルフィだが、こと体の交わりに関してだけはやたらとガードが固いのだ。
「慣れた……?」
「あぁ」
「……」
「……ルフィ?」
ルフィはハッとした顔をするとガバッと上体を起こして、なぜか慌ててベッドを降りた。
「おいルフィ?」
「おれ……バイト行く!」
「は!? 今日は休みだって──」
ゾロも慌てて起き上がるも、ルフィがすっぽんぽんのまま部屋を飛び出そうとするので帰したいわけではなかったが、
「服着ろ服!」
「あ……」
「いくら見られんの平気でもさすがにそれは……」
とゾロの頭がルフィの突然の行動を理解しないうちに、ルフィはわたわたと服を着込んでしまい。しかも、
「お、おれ! しばらくゾロとはえっちしねェ!!」
ありえない言葉を突きつけ呆然としているゾロを残し、ルフィはバーン!と出ていってしまったのだった。
ちーん……。
「なんでそうなるんだよ……」
思考が追い付かない。
どうしてアイツはああなんだ。いつだって捉えきれなくて掴みきれなくて振り回されまくって……。
「怒ってる顔じゃなかったしな」
じゃあ怖がらせていたのだろうか。
知らず知らず本性がむき出しになってたとか……?
それなのに慣れてきたとか言ったから、もっと凄いことをされるんだと恐れたのかもしれない。
「ぜってーそうだ。ああああ〜〜」
自分にガッカリ。コイビトのことなのに解ってやれてなかったなど。
「まだまだ要修行」
幸いルフィの行き先は解っている。ほとぼりが覚めたら、謝るべし。
ゾロは緑頭をガシガシ掻くとハァ〜っと深いため息を吐き、先ほどの泣きそうなルフィの顔を思い浮かべていた。



「ハァ〜〜っ」
「すごいため息だな、麦わら屋」
「トラ男……ワリィな、いきなりシフト替わって貰って。仕事でもしてねェと気が紛れそうにねェからよ……」
バイト先「マリーン3号店」の制服を着たバイト仲間が意気消沈した様子でまたため息を吐くのを、トラファルガー・ローはちょっと心配で立ち去れないでいた。
バイト時間はあと3時間もあるが、しばらく様子見だなこれは、とルフィと同じくレジに並ぶ。
これでもコイツのことは結構気に入っているので、タダ働きもいとわない。
「もう帰っていいんだぞ?」
おっきな目がちろんとローを見上げてきて、ますます放っておけなくなった。
「暇だから付き合う」
というのは嘘だが。まぁいい。
ちなみにローが麦わら屋と呼ぶのはルフィが入学式の日に麦わらにスーツという印象的な格好をしてきたからで。あと、同じ講義を1つ取っている学友でもあるから。
「トラ男はいい奴だな」
ニヘッと笑った麦わら屋に庇護欲を掻き立てられながら、ローは「そんなことはない」と事実を告げた。
周りからの評価は、一定して昔っから「残忍な男」である。
高校の頃は暴力団幹部に見初められ散々勧誘を受けていたこともある。だがローの夢は医者になること。しかし名のある医大を選ばなかったのは諸々の事情があるから……だが今は割愛。
それよりルフィだ。
「ハァ〜〜」
客がいないからいいようなものの、クソ真面目な店長のたしぎにでも見られようものなら大目玉だ、とローは思いながらも、ぽてっと寄りかかってきたルフィをそのままにしておいた。
「麦わら屋がそんなに弱るなんて珍しいじゃねェか」
「ハァ……」
「聞いちゃいない、か」
ローがルフィの髪をぐちゃぐちゃと撫でても、反応なし。
二の腕辺りにある顔をチラッと盗み見ると、少し動悸の狂う心臓にローは舌を打った。
コイツは男……なんだがなぁ。なぜだろう。
触れている腕が心なし熱を持っている。それは自分のせいじゃなく、彼の体温の高さらしいが……。
「疲れてんのか?」
「ん〜〜ちっと腰痛い」
「部活のせいか?」
「ん〜〜〜」
「いったい何したんだ?」
部活で、と聞いたつもりだった。
「えっち」
「……は?」
「ハァ〜〜〜っ」
コイツ……自分が今なに言ったか自覚してねェだろ……。
そうか、女がいたのか。そしてそっち関連の悩みかなるほど。
「ちっ」
早く別れろ、とか思っている自分はやっぱりコイツのことをそういう目で見ているのかもしれない。
「あ、なぁトラ男はよ!」
「!? いきなり復活したか?」
パッと自分から離れたルフィが両手を握りこぶしでいつもの強い視線で、しかしゆらゆら瞳を揺らしながらアップで見上げてくるから思わず引いた。
……何かしちまいそうで。
「トラ男さ、彼女とえっちしすぎて飽きたことあるか!?」
「昼間っから下ネタかよ」
「う、ごめん……」
「お前は好きな奴に飽きるのか?」
「な、ないぞそんなのっ! でも向こうがなぁ……」
「向こうが飽きたんだとしたら、麦わら屋が単調で変化ねェからだろう」
「お、おれ変化ねェんかな?」
「そんなもん知るか」
「確かにそうかも。あんまし見れねェし、顔とか……。だっていっぱいいっぱいだもん」
「……想像しちまうからやめろ」
「ん?」
「いや。飽きたって言われて、それでそんなに凹んでんのか?」
「ううん、慣れてきたなって」
「?」
「あ! いやなんでもねェ忘れろ!!」
うぎゃ〜とか喚きながら、ルフィが自分の顔を覆って慌てまくるので、ローはいよいよ理解不可能だった。
忘れろと言われて忘れられる事柄じゃない。
セックスする麦わら屋とか……意外すぎて。
しかしその後は、下ネタのしの字もないまま小1時間が過ぎた。
麦わら屋にはありがたいことだろうお客が後を立たず、気も紛れたろう。
しかしローの頭の中では……。
裸のルフィが女を組み敷いてあへあへなシーンが浮かんで笑いたくなったりこれが現実かと思うと凹んだり。
とにかく、今はニコニコ接客しているルフィの笑顔はやっぱりいいよな、とついつい目がいって困っている。
「おい麦わら屋。このあとおれの部屋に来ねェか? 昨日引っ越してきたばかりでまだなんもねェけど……」
「ホントか!? 行く行く!」
「いやお前こそ本当か?」
「??」
「ごほん……。じゃあなんか買って帰ろう」
「うん!」
ぺか、とお日様のように笑うルフィにやはり自分はコイツに気があるのかも、とざわざわする胸のうちを無視し、ローはにやりと口角を吊り上げた。
ちっとも爽やかに笑ったことのないローだが、ルフィは最初から気兼ねなく話しかけてきたものだ。
しかしこのあと登場した男のせいで、全ての予定は丸崩れするのであった。

「いらっしゃいま──…あ、ゾロ……」
ゾロ、と呼ばれたルフィの知り合いをローは何度か見たことがあった。学校やこのコンビニで、ルフィとセットでだ。
ゾロはルフィの目の前までズカズカと近づいてくるなりガバ、と彼に頭を下げた。
「すまんルフィ……とにかく、おれが悪かった」
「なんでゾロが謝るんだ?」
「それは……お前に嫌な思いさせたんならおれのせいだろう?」
「嫌な思いっつーか……嫌だけどよ、そりゃあ」
「だろ、だから許してくれ」
「……ムリ」
「ル、ルフィ……」
緑頭は顔をあげるも切れ長の眼をいたましげに細め、あからさまにしゅんとなった。
そんな様子の彼にハッとなったのはルフィの方で。
「ゾロのためなんだぞ!? だからしばらく我慢しろ!!」
「我慢するなっつったくせに……」
「でもこれはゾロのためなんだ。おれちゃんと勉強すっから」
「なにを……?」
「練習はできねェけど、きっとなんとかなる!」
「はぁ」
「ナミとかビビに聞くし」
「……なんか嫌な予感がするんだが」
「なんだと失敬な」
「おいお前ら」
と、割り込んだのはローだ。当たり前だ後ろに客が並び始めたのだから。
「わっ、ごめん! トラ男あとは頼んだっ」
「はぁ!?」
ルフィはそれだけ言うと控え室に消え10秒で戻ってきて、緑頭を連れてあっという間に消えた。
「おれとの約束は……?」
もちろん、すっかり忘れ去られたのである。
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