ハートの海賊団


□とある朝の一コマ
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 時は早朝。場所は甲板。

 
「ズル厳禁だかんねっ!!」 
「お前もな!!」
「早くしようよ。お腹すいた…。」
「…それじゃあ始めるぞ?」
 
 
 輪を描くように並ぶナナシ、シャチ、ベポ、ペンギン。空気は張りつめ、皆の目は真剣そのもの。お互いに見つめあい、せーので息を合わせ、力強く腕を大きく振りかぶった。





「「「「じゃんけんぽん!!」」」」





ナナシ:✌️
シャチ:✌️
ベポ:✊
ペンギン:✋





「「「「あーいこーで、しょっ!!」」」」





ナナシ:✊
シャチ:✌️
ベポ:✋
ペンギン:✌️





 毎日恒例、『船長を起こしに行く人選抜大会』の開始である。
 選抜方法は文句無しの平等の『じゃんけん』。腕相撲はナナシが不利、喧嘩ではベポ圧勝、頭脳戦ではペンギン有利…なのでシャチとナナシがじゃんけんを提案したのが始まりであった。





「「「「あいこで、しょっ!!」」」」





 何故こんなにも皆が必死にじゃんけんをするのかというと、船長の寝起きの悪さにとても関係している。なんせ船長を起こしに行く人は必ずバラされる。運が良ければ腕一本、はたまた運が悪ければ全身をバラされるのだ…毎朝毎朝これでは、その日立てている各々の計画が台無しになってしまう。
 そこで、なんとしてでもじゃんけんに勝たなければと真剣になるのだ。





「「「「あいこで、しょっ!!」」」」


「「「「あいこで、しょっ!!」」」」


「「「「しょっ!!」」」」


「「「「しょっ!!」」」」


「「「「しょっ!!」」」」


「あ゙!!お前今後だししただろ!!」
「してないし!!」
「あいこで…。」
「「そこ!!もめてる隙をついて勝手に始めるな!!」」」
「…チッ。」
「ダメだよペンギン。」





それでは改めて…。





「「「「あーいこーで、しょっ!!」」」」





ナナシ:✊
シャチ:✊
ベポ:✋
ペンギン:✋





「よし…!!」
「やった!!」
「あ゙ー!!」
「今の無し!!無しだ!!」
「残念だが今のは正当なじゃんけんだ。あきらめろ。」
「くそ〜…!!ナナシ!!続きやンぞ!!」
「のぞむところよ!!」

 
 ペンギンとベポは手すりの方に移動。メインステージ(甲板)にシャチとナナシが向かいあって拳を構える。

 
「ちょい待ち。」
「何。」

 
 シャチはナナシに待ったの声をかけると腕をクロスして組み、ぐるんと内側に持ってきて組んだ手のひらと手のひらの間に出来た隙間を覗きこんだ。



「何してんの?」
「こうするとじゃんけんに勝てる手札がわかるんだ。」
「マジでか。」

 
 ナナシもシャチと同じように腕を組んで覗きこむ。このやり方にベポはへぇ〜!と感心の声をあげた。しかしペンギンは…確率の問題だからそんな効果は無いだろ。と心の中で呆れていた。

 
「ぅっし!!見えた!!」
「…私もオッケー!!それじゃあ始めるよ?」





両者共にふりかぶってー…。





「「じゃんけんぽん!!」」


「「あいこでー…しょっ!!」」


「「しょっ!!」」


「「しょっ!!」」


「「しょっ!!」」


「「しょっ!!」」


「「しょっ!!」」


「「しょっ!!」」


「「しょーっ!!」」





「…もう二人で行った方がいいんじゃないか?」

 
 何なんだこのミラクル的なまでの連続あいこ。

 
「お腹すいた…。」

 
 空腹のあまりベポは悲しげに座り込む。

 
「シャチ!!あんたいい加減あの船長起こしてきなさいよ!!」
「じゃんけんで負けてねェのになんでおれが行くんだよ!?お前が行ってこい!!」
「あ!じゃあ一緒に行こ!!私も行くからシャチは逝って!!」
「Σ字が違ェェェ!!明らかにおれだけ起こしに行かせる気だろ!?お前戸口で頑張ってとか言って済ますつもりだろ!?」
「チッ。バレたか。」
「ナナシー!!」
 
 
 じゃんけん大会は中止。急遽、二人の口喧嘩大会を開催。

 
「…っ!!だいたいさぁ!!なんで起こしただけでいちいちバラされなきゃなんないのよ!!」
「知るか!!今日おれ島に着いたら色々と買い出しあるからバラされたら困るンだぞ!!」
「それこそ知らないわよ!!私だって買い物して買い食いして観光する予定なんだからね!!」
「お前の方が知るかァ!!全部遊びじゃねーか!!!!!!」




















「…いつになったら終わるの?」
「…暫くはかかるだろうなァ。」

 
 ベポとペンギンはすっかり傍観者である。

 
「っと、おい二人共。そろそろ止めないと…。」
「何!?」
「ペンは黙ってろ!!そもそも船長のせいでこんなこと毎日毎日してンだぞ!?」
「そーよ!!船長がもう少し寝起きが良ければこんな毎日苦労しないのよ!?」

「おれが何だって?」































…え゙?

 
「…そろそろ止めないと船長来たぞって言おうとしたんだが、遅かったな。」

 
((ペンギン。そういう重要な話はもっと早く言って…!!))

 
 二人の心の叫びがシンクロした。

 背後からどす黒い、威圧的な気配を感じながら、油のきれた機械のように軋む音をたてつつナナシとシャチは恐る恐る振り返る。…あぁやはり。そこには我らの船に住まう三白眼の悪魔が…!!
 

「お、おはようございます船長!!」
「ききき今日は随分とお早い起床で…!!どどどどうしたんッスか?」
「昨夜からずっと本を読んでいたからな…一睡もしてねェんだよ。」

 
 あーなるほどー。どおりで今日の隈はいつにも増して黒いわけで…。

 
「あーっともう朝ごはんの時間だー!!早く食べにいきましょうよ船長!!」
「だよなァー!?おれも腹ペコだしィー!!…ささ、船長も早く食事をしにいきましょ!!」
 
 
 ひきつった笑顔で二人は食堂に向かって回れ右。右手右足同時に踏み出していて動きはぎこちない。

 
「まァ待て。」
 
「「Σ」」

 
 心臓が一瞬にして大きくはねた。その後、冷や汗がだらだらと流れ始める。

 
「今、お前らはおれの悪口を言っていたよな?」


………………まずい!!!!!!


 咄嗟にペンギンに助けを求めようとしたが…時すでに遅し。ベポと一緒に去った後だった。うわぁん(泣)

 
「気を楽にしろ…すぐに終わる。」








































「「ぎゃあああああああああああああ!!!!!!」」
















 船長が立ち去った後、清々しい朝日に照らされたのは


 掃除されたばかりのきれいな甲板と


 白目をむいて気絶している、二人の可哀想ーなバラバラ体だった…。

 

 
 
〜その後〜

「シャチ!!それ私の手首!!」
 
「痛たたたたた!!今さら引っ張っても取れねェよナナシ!!ってコラおれの足変に繋げんなァ!!左右逆だぞコレェェェ!!」
 
「うわぁん私の右手ェェェ!!船長ごめんなさい元に戻して下さいぃぃぃ!!」


 ナナシとシャチが元に戻るのにまた色々とあったのだが…それはまた別の話ということで。


「別に話をする程何かやったワケではないだろ。」
「Σ酷っ!!どんだけ苦労したと思ってんだよ!?」
「そうだよ!!船長のバカやろー!!」
 
「そうか、そんなに消されたいのか。」
「Σせ、船長!?」

 
まさかのデジャブ!!

 
「ちょちょっ!!おれは関係ねェぞ!!」
「あ!シャチズルい!!!!」
「フフ…仕方ねェな。今回は特別に力を使わずに斬ってやる。」

…。


「Σそれってマジ斬りじゃないですかぁ!?」
「死ぬって!!力無しは確実に死んじまうって船長止めてくれェェェェェェ!!」




今日もハートの海賊団は平和である。


「「どこが!?」」


end


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