ハートの海賊団
□想い想われ
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「ナナジー!!!!」
ドタドタと、静かな船内を爆走する音と涙声。
…パタン。
静かな自室で読書をしていたナナシは本を静かに閉じた。思わずこぼれたのは深いため息である。
ナナシは本を机の引き出しにしまい、これから入ってくるであろう人物の事を思いながらドアを見つめ、心の中でカウントを始めた。聞こえてくる足音で、相手との距離をはかる為だ。
三秒………
二秒………
一…。
ガチャッ!!
「ナナシッ!!」
「何よシャチ。そんな汚い顔して。」
「Σ汚いってヒド!!まァいいやそんなことより聞いてくれよォ!!おr「あーハイハイ…どーせまたフラれたんでしょ?」
ドスッ!!
シャチに今、見えない大きな槍が突き刺さった。
「また…とか、そんなんじゃねェし。確かに、フ、フラれたのは……う゛…ぁっ当たてるけどさァ!!もう少し言い方ってもんがあるだろォ!?」
両方の目から涙をぼろぼろとこぼすシャチ。…いや、これは両方の目って言うよりもサングラスから涙をこぼしてると言ったほうが正しいか。サングラスつけてて目がそもそも見えないし。
「あのねシャチ。オブラートに包もうが布で包もうがラップでくるもうが段ボールに詰めようが結局はフラれた事にはかわりないの。」
「慰めって言葉はないのか!?」
「何十回もかけてりゃあ尽きるに決まってんでしょ。」
そう、この男。寄った島々で美人を見つけてはナンパ、一目惚れをして告白をしてはフラれるを繰り返しているのだ。そしてその愚痴を言いに私の元にやってくる。
「ナナシ〜!!何故だと思う!?何がいけないんだ!?どうしておれじゃ駄目なんだよォォォォ…。」
「あーハイハイ。床に座り込まないでこっちに来な。とりあえず、何か飲む?」
はっきり言って超迷惑。まず、こんな状態のシャチはかなりウザい。愚痴りに始まり、相談やそのおとそうとしていた人がどれくらい美人であったのかをべらべらべらべらと、クダをまきながら喋り、私の部屋にある酒も飲み干すわ終いには泣き疲れてそのまま寝るという邪魔以外何者でもない。
元々は船長やペンギンのところへ駆け込んでいたらしいのだが…あまりにも回数が多いためか『シャチ、入るべからず』の貼り紙が各々のドア前に貼られた。
そこで次のターゲットになったのが私。
カウンターテーブルに突っ伏し、さめざめと泣き続けるシャチの頭をよしよしと撫でる。何故こんな見ているだけであーうぜーって思うようなシャチを、私は今の今まで慰め場所として、この部屋を提供しているのかというと…。
「うぅ…!!ナナシ、おっお前だけがっ!おおおれを見捨てねェよなァ…ありがとう!!」
「ど、どういたしまして…。」
私が、シャチのことが好きだから。所詮惚れた弱味というヤツだ。
この船に乗って早幾年月…その過程でシャチに恋をしてからというものの。どうやってアプローチしようと考えて、最終的に手にいれた地位がこれ。
きっかけは大分昔、シャチがさめざめと泣きながら、甲板の隅っこで湿ったキノコを栽培しているところを私が見つけたのが始まりだった。
*****
『一体どうしたんですかあれ…。』
『いつもの事だ。』
『気にする必要は無い。』
船長とペンギンが冷めた目で、そしてこれまた冷たい言葉で通りすぎる。
『あの状態のシャチ、おれじゃ治せないんだ…ねぇナナシ、かわりに慰めてくれない?』
『え?う、うん…。』
ベポの魅力で治らないとは一体何があったんだ?…まぁシャチとお近づきになるチャーンスだから別にいいかっ!
そんな軽い感じで、シャチに近づいて話しかけたら───…
『シャチーっ。』
『Σ…!!ナナシ…。』
『一体どうしたの?…私でよかったら力になるよ!』
微笑みながら肩に手をおく。やっべー今の私、超ポイント高いんじゃね?なーんて事を思いながらシャチに話しかけた。
『ほ、本当か!?』
うんうん。
『ナナシ…!!』
シャチはパァッと表情を輝かせて『ありがとう!!』と礼を述べた。やったね好印象ゲット。心の中でニヤリと笑うナナシ。
一度は顔色が明るくなったものの、それでもシャチは最初、言いにくそうに口を濁した。そこでナナシは大丈夫、話して?と優しく説得を続けたところ…とうとう決心したのか涙声で話し出した。
『お、おれ……っ!』
うんうん。
『実は、失恋しちまったんだ!!』
ビシッ
思わず笑顔が凍りついた。
「それで!き、っっ!昨日行った酒場のっ…………で……おれ…、…!!』
*****
そこから先の会話は脳ミソが拒絶反応をおこすため思いだせない。というか機能停止したからね。記憶自体がないのかもしらん。