ハートの海賊団


□対面通行
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「惚れました。仲間に入れて下さい。」


 そう言いながら綺麗な土下座を決めて海賊になった奴がいる。
 名前をナナシ。酒場で呑んでる姿に見惚れ、その人物がいる海賊船に単身で乗り込み、上記の事をやってのけた。初恋なんです!一目惚れなんです!雑務汚れ仕事なんでもします!だから仲間に入れて下さい!そんなナナシを気に入ってしまった船長は「世話係はお前がやれ。」と人に押し付けてナナシの仲間入りを認めた。


「よろしくお願いします!えぇ…と…。」
「…ペンギンだ。こちらこそよろしく。」
「はい!」


 元々は無法者のホスピスで働いていたらしい。その為かこんな男所帯でもすぐに馴染み、医療関係の基礎ももうできていたので船での雑務はそつなくこなせた。これには自分の仕事をこなしながら教える身としてはとても助かった。
 
 一月もしない内に一人で作業が出来るようになったナナシ。おれは世話係を早々に終了し、今ではたまに間違っている所を指摘したり、一緒にやってあげたりする程度に。海賊としての仕事も男顔負けの成果を叩きだし、それは船長も認める程の好評価。世話係としてナナシを鍛えたおれ的にもナナシが誉められるとなんだか嬉しいものがある。


「ペンギン!私キャプテンに誉められた!!」


 こうやってわざわざおれにも教えてきてくれる。律儀で可愛い部下に育ったものだ。


「おぉ、見てた見てた。流石ナナシ!」


 労いの意味を込めて頭を撫でる。ナナシは嬉しそうに目を細め、次にシャチや他の仲間にも聞いて聞いて!と話をしに飛んでいった。
 その光景を眺めているとふと、ナナシの成長に誇らしくもあり、寂しくも思ってしまっている自分に気付いてしまった。今はまだ頼ってくれる事はあるものの、何時かはそういうのも無くなってしまうのか、と残念に思えてしまうのだ。


「だいぶ使えるようになったな。」
「船長…えぇ、飲み込みが早くて助かります。」
「そういうわりには複雑そうな顔をしている。」
「気のせいでは?」


 こんな事を考えている、だなんて船長に知られたら絶対に面白がられる。それだけは避けたい。しらを切れば船長は今はベポと戯れているナナシの元へと歩き、おれは戦利品の仕分けの為クルーを何人か呼び集め仕事に勤しんだ。

 
 しばらくして。ナナシはベポに次いで船長とよくいるようになった。惚れましたと大々的に宣言しただけにその行動力は凄まじい。船長は最初はとても迷惑そうにしていたがナナシの使い勝手を覚えて今ではこきつかう迄になった。我等の船長ながらに酷いと思う。


「おれのモノをどう使おうが勝手だろ。」
「キャーオレサマローサマーカッコイイー。」
「片言かよ。」


 船長にあんな事を言われてもナナシ自身はふざけてやり取りをするこの様子を見る限り、本人はコレで満足なのだろうか?とても不毛な恋をしているようにしか思えないのだが。一度、さしで呑んだ時に恋愛相談じみた事を行った事があるが…。
 

 
*****

「恋は振り向かせてなんぼ!」
「ふーん。」
「そーゆーペンギンはどうなん?」
「どーも何もこの船、女お前しかいないだろ。」
「私は別にペンギンがソッチ系でも気にしない!」
「ヤメロ。寒気しかしない。」
「イヒヒッんで。正直なトコどうよ?ワタシノコトスキー?キライー?」
「ハイハイ、スキスキダイスキダヨー。」
「片言!」


 あんなでも片思いをやめるつもりは更々無いらしい。ナナシって心も強いんだな、と感心すれば誇らしげに胸をはった。

 
「恋は振り向かせてなんぼ!」
「ハイハイ。サッキモキイタヨー。」
「また片言!酷いよペンギン〜!」
「はっはっは。」
 
 
 
*****
 
 
 ナナシがとうとう一人で完璧に仕事をこなせるようになり、他の仲間のサポートに回れる程になった頃。
 晴れて戦闘員としてナナシの仲間入りを祝う宴が開催された。安全な航路上で停泊し、甲板に酒やら料理やら持ち出してのどんちゃん騒ぎだ。主役の筈のナナシはというとせっせと想い人である船長に酒を注いではベポと一緒にお喋りをしている。


「なんだよペンギン、さっきからずーっとナナシばっか見て。もしかして惚れたか?」
「ばーか。見守ってるんだよ。」
「Σお前はナナシの父親か!」


 父親言うな。可愛い可愛い部下の恋愛模様がただ気になるだけだっつーの。


「可愛いって…お前まさかナナシ本人にもそんな事言ってんの?」
「そりゃあ、まぁ。」



*****

「ペンギンペンギン!可愛いって言って!そしたら私頑張れる気がする!!」
「おーおー。可愛い可愛い部下のナナシチャン。オマエハヤレバデキルコダヨ。」
「うおっしゃあああああああ!!!!力滾ってきたぁぁああぁああああ!!!!」

*****


 
「…言われたいって言うから?」
「うわぁお前、そんなキャラだっけ?」
「すっかり弄ばれちゃってるなァ…。おいたわしや。」


 失礼な奴らめ。ナナシ本人の許可を得ているんだからどう呼ぼうと此方の勝手だろ?

 酒を片手にペンギンはまだやいやい言っている周りの言葉を無視する。チラリと横目で見たナナシは何故か船長にベアーズクローをかけられていた。一体何をしたらあんな事になるんだ。


「そっちのおかずもらってもいい? 」
「おぉベポ!持ってけ持ってけ。ただし肉意外な。」
「えー!」


 いつの間にか船長の隣にいたベポが此方のグループに参加していた。どうやら食べ物を集りにきたようだ。


「ペンギン。ずっとあっち見てるけどどうしたの?」
「ナナシが気になるんだってサー。」
「コラ、誤解を招く発言は慎め。」


 その言い方だとおれがナナシの事を恋愛的な意味で気にしてるみたいになるだろうが。


「え?違うの?」
「当たり前だろ。そもそもナナシは船長に惚れて入団したのにここで俺まで加わったらどんな修羅場だ。三角関係酷すぎる。」
「えー?ナナシが好きなのキャプテンじゃなくてペンギンでしょ?三角にならないよ。」
「Σぶふぉ!?」
「おいこらベポ!バラすなよ!!」
「え!?ダメだった!?」


 気管支に酒が入って息が苦しい。声が上手く出ないので心の中でとりあえずもの申す。ベポ!!お前今なんて言った!?そして貴様ら!!何か隠してやがるな…!?
 むせながら懐から拳銃を取り出しトリガーに指を添える。だーれーにしーよーうーかーな〜?…よし、シャチ。貴様だ。そう震えるな。言葉にせずともわかるよな。吐け。
 
 シャチの弁明を聞きながら再びチラリと横目で見たナナシと目があった。笑顔で手を振られたのでおれもそれにならって手を振り反す。だが口の端が上手く上がらねぇ。ひきつってる。その上さっきっから頬が馬鹿みたいに熱い。ナナシの隣ではローがニヤニヤと手でハートマークを作っていやがる。読唇術『やっと気付いたか、バカめ。』そうですか。あんたもグルかよ!



(ナナシ、良かったな。)
(え?何がです?)
(ペンギンの進行方向がお前向きになってる。)
(Σマジすか船長!ちょっと行ってきます!ペンギンペンギーン!!お話しよ!!)


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