ハートの海賊団


□難攻不落の天然装備
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「船長ー。」
「なんだ。」
「暇です。」
「出ていけ。」


 船長室で繰り広げられる二人のやりとり。ナナシはソファーにだらしなく寝転がりながら、ローはふかふかの椅子に座り、読書をしながら始まった。


「酷いな船長。いつでも来いって言ってたくせにもう追い出すの?」


 寝転がったまま肩肘ついてナナシはつまらないとでも言いたげな表情でローを見た。
一方のローはというと、相変わらず目線は本一直線。でも表情は険しい。


「あのなァ…おれは夜に来いって言ったんだ。」
「イヤよ。夜は寝たいもん。」


 暇じゃないのっとナナシが口を尖らせて言うがローはローでため息をついた。そういう意味じゃねぇんだよ、この鈍感。


「そうだ!船長、ちょっくらシャチをバラバラにしてくれません?」
「なんでだ。」
「バラしたパーツを一直線に繋げてみたくなったので。」
「シャチをオモチャにすんな。遊ぶなら他の玩具にしろ。」
「え゙ー!?普段ならノリノリでバラしてくれんのに何で今日はダメなのさ!?」


 そう抗議しながらソファーを跳び跳ねるナナシ。終いにはソファーのバネがぶっ壊れそうな勢いだ。


「お前さ、仮にも男の部屋にいるんだぞ?警戒心ってもんがねェのか?」
「え?」


 突然の質問に戸惑い二つの意味を含んだ"え?"になった。やっと読書をやめてかまってくれる気になった!!という喜びと期待の"え?"なんだその質問…という疑問と怪訝な"え?"の二つの意味である。


「別に…敵が隠れてるわけでもないし。シャチの部屋だって、ペンギンの部屋だって、ベポの部屋だって…色んなクルーの部屋にお邪魔したことあるけど、危ないことなんて何もなかったよ?」
「…。」


 そういう意味じゃない。


「…?船長?」


 急に黙りこんだローを変に思ったのかナナシはソファーからおりてローの顔を伺い見るために近寄った。その途中の一歩が山積みにされていた本に直撃。


「わぁ!?」


 見事バランスを崩した。前方に倒れる!!と脳内に信号が送られたナナシは反射的に目を瞑る。
 このままだと船長に倒れこんじゃう!!船長をクッションにしたあかつきには自分がバラされてしまうに違いない。イヤだよ。私はバラされたモノで遊ぶのが好きなのに…!!

 そんな心中穏やかじゃないナナシに対し、ローは慌てることなく余裕綽々と妖しい笑みを浮かべた。
 
 


ぼふっ!



 見事、ナナシはローの上へ倒れこんだ。あれ?意外と衝撃が弱い…。
 それもそのはず。ナナシはローに抱き止められているのだから。
 おぉ船長スゴい!!あの本を読んでいた体勢からよく変えれましたね!!………ところで。


「…。」


 あれからがっちり腕掴まれてるところを見る限り…これは逃がさないってこと?お、恐ろしくて顔があげれない…!!


「はぁ…。」
「Σ」


 た・め・息・!!まさか怒りマックス!?こりゃますます顔あげらんねぇ!!

 とんとんっと頭をつつかれたがナナシは頑なに顔をあげようとしない。


「…ナナシ。」


 嫌です。名前呼ばれても私は顔をあげない!!まだ死にたくないっ!!


「ナナシ。」


 今度は船長には珍しい、優しい声色で名前を呼ばれる。

 …だ、騙されちゃダメだぞナナシ!!これはきっと嵐の前触れだ!!気を抜いたら最期!!悪魔の微笑みをした船長がいるに違いないっ!!


「…おい、何で顔をあげねェんだ。」
「だ、だって…顔をあげたら船長絶対怒ってるでしょ?」


 下を向いたままの抵抗。この言葉にローは若干目を見開いた。


「…怒る?」
「そう、船長の上に倒れこんでタダですむわけない!!よって私はまだこのままの方がいいんです。」


 今度はナナシががっちりとローの腕を掴む。

 あー怖いよ怖い!!いつまでも船長にひっついてんのも恐ろしい行為だけど顔をあげる方がもっと恐ろしい…!!


「…。」


 ローはこのナナシの行動に内心舌打ちした。

 顔をあげないだと?せっかくナナシを手の内におさめたというのになんということだ。これでは掴んでいるだけでキスの一つや二つが出来やしない。


「ナナシ、何もしねェから顔をあげろ。」
「イ・ヤ」
「…。」


 チッナナシめ…何もしねェって言ってんのに。(←と、言いながらキスするつもりです。)


「ナナシ、そんなにおれにひっついている方がいいのか?」
「うん。」
「…。」


 今のはおれのそばにいたいと解釈するべきか、ただおれに怒られるのが嫌で顔を見たくないと解釈するべきか…ナナシのことだから後者なんだろうな。

 ローは再びため息をついた。せっかくのチャンスを本人に無くされるとは…。


「お前って本当、鈍いよな」
「鈍い?…何がです?」
「顔をあげたら教えてやるぞ。」
「遠慮しておきます。」
「チッ…。」


 難攻不落とはこのことだ。としみじみ思うローだった。





(…船長。)
(なんだ。)
(…怒ってない?)
(怒ってねェ怒ってねェ。だから顔あげろ。)
(…やっぱできない。)
(てめェ…無理矢理こっちに顔を向かせるぞ。)
(Σ(怒ってる!!)っいたたたた!!髪の毛引っ張んないで!!わかったから!!顔あげます!!)
(…よし。(今度こそ落城させてやる。))



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