ハートの海賊団


□四天王
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 魔王討伐の最終局面の手前。魔王配下の四天王の先鋒が主人公に倒された後にある台詞で良くあるものがあるだろう?

 
「フフフ…奴は四天王の中でも最弱よ…。」 
 
 
 これ。おれはその最弱と言われる四天王を勤めている。所詮、かませ犬という奴だ。まぁ場を盛り上げる役だと割りきって職務を全うしているので気にしない。意外と給料も良いし?…話がそれたので戻すが、その最弱たる役を全うする為、今まさに魔王討伐に来た勇者に対峙し絶賛戦闘開始中なのデスガ。
 
 
「ひゃあああ!」
 
 
 ぺちん。(剣が折れた。)
 
 
「ならば!これならどうだぁ!ファイア!」
 
 
 ぽひゅん。(弱火)
 
 
「あー…。もうやめない?」
「まだまだぁ!!へぶし!!」
 
 
 折れた剣を真っ正直に、正面向かって振りかざして来たので右に避けたら、そのまま地面に落ちていく勇者。うわー痛そうだなー。
 
 
「避けないでよ!」
「いや、避けるだろ。折れた剣でも当たったら痛いし。」
「ううう…!!もう嫌だ!!あんた強過ぎる!さては魔王だな!?幹部のフリして油断させて殺すつもりでしょ!?」
「いやァ本当に四天王の中でも最弱者なんだけど。」
 
 
 まさかここで苦戦する勇者がいるとは思わなかった。此方が一切手を出さなくても自滅していくスタイル。おれの最初の登場シーンで高笑いしながら派手にポーズなんて決めなきゃよかった。今になって滅茶苦茶恥ずかしい。
 
 
「オジョーサン、街の人に騙されてない?」
「オジョーサン言わないで!騙されてないもん!ちゃんと神の啓示受けたし!神父様も『何かわかんないけどものスゴい力を秘めている!』っている言ってたもん!」
 

 何かわかんないんじゃねーか。街の神父適当だな。勇者は折れた剣を捨てて、殴る蹴るの直接攻撃にでてきたのだがこれが全く痛くない。いや、地味に1ダメージは出てるかな?
 
 
「てかいいのか?この後おれより強ーい奴が控えてるのに唯一の武器を放り投げるなよ。」
「うるさい!なんで効かないの!?この拳に付けてる指輪には魔を滅する力あるんじゃないの!?」
 
 
 ほーん?どれどれ……………あるよ。確かにその指輪は『魔を滅する』効果が付いてるな。
 
 
「でもな?それ直接攻撃用の装備じゃねーの。魔法にその効果を付加させるアイテムなの。」
「じゃあ魔法!…!!あれ!?魔法出ないよ!?」
「MP切れてるなァー。」
「なすすべなし!!」
 
 
 どうしよう。ここまでポンコツ勇者初めてだわ。とどめさしたらおれスッゴいカッコ悪くね?弱いものイジメみたい。それってかなりカッコ悪い。
 
 
「なァ勇者よ、一度撤退しな。今回だけは見逃すからさ。」
「イヤだ!戻る時は魔王を倒した後だと街の人達の前で宣言しちゃったもん!」
「Σ心意気は立派だな!!」

 
 その実力でよくもまぁ言えたもんだ!!つうかその実力でよくもまぁ四天王の所まで来れたな!!
 
 
「勇者です、魔王に会わせて下さいって言ったら『じゃあまずシャチから。』って通してくれたよ?」
「アイツら仕事しろよ!!何普通に通してんだ!!」

 
 さてはサボる口実にしたな!?後で魔王にチクってやる!
 
 
「すきあり!」
「うお!?………何してんのかな?」
「…きゃらめるくっきー?」
「…キャラメルクラッチな。だけどもそれはうつ伏せ状態になった相手の背中に乗って、首から顎を掴んで相手を海老反り状になるようにするんだぞ。」
 
 
 お前のそれはただ背後からのしがみついているだけだろ!!

 
「ううう!じゃあどうすれば死ぬのさ!?」
「言葉だけは物騒な勇者だな!!もう諦めろよ!!」

 
 しがみついたまま離れない勇者。どうしよう。もういっそ転送魔法陣の上にでも放り投げようか。
 

「イヤだー!まだ帰らないもん!」
「遊びに行った子どもか!?」
「殺すか殺されない限り戻らない!!この穀潰しが!!とかもう言われたくないのー!!」
「…お前、そんな事言われてんのに街の奴等の為にココ来たのか?」
「…街の為とか良くわかんない。勇者になれば皆助かるって。妹達にも美味しい物くれるって言うから来たの。」
「………そっか。」
 
 
 なるほどね。こいつは神に選ばれた勇者でも何でもない。ただの口減らしの口実で、魔王に献上された人柱だ。…これだから人間は嫌いなんだ。
 
 
「一個聞きたいんだけど…お前の助けたい奴等って誰?」
「え?んー…教会にいる子達かなぁ。あ、でもシスターは嫌だ。ご飯自分だけたくさんとっちゃうから。」
「りょーかい。」
「あれ、何処行くの?」
「魔王の所。そんで次はお前の街。」

 
 街一つ潰す許可と、何処かの土地を借りる手続き。それが終わったらお前の助けたい奴等を引き取る事を街の長に交渉する。大丈夫。おれも元”勇者”だから。人間との交渉は慣れてる。
 
 
「なァ勇者、お前の名前は?」
「ナナシ…だけど。魔王やっつけなくても皆の事、助ける事ってできるの?」  
「おれはシャチ。四天王の中でも最弱だけど、これ位の仕事なら楽勝にこなせる、四天王の一人だ。今から魔王をやっつけないで"大事な人"を救うトコロ、見せてやるよ。」
 

 
 
*****
 
  
「………"大事な人"を救うトコロ、見せてやるよ…!」
「買с<鴻Hォォォォォ!!おれそんなにドヤ顔してねェよ!!!!!!」
「こうして四天王にして最弱な男、シャチは私たちを救ってくれたのでしたっ。おしまい♪」
「オニーチャンかっこいいー!!」
「スゴいー!!ナナシお姉ちゃんもじょうずー!」
「ぐぬぅううう…!(怒るに怒れねェ!!)」
 
 
 こうして"勇者"だった少女は、最弱と呼ばれる四天王の一人に倒されたのです。その少女は、新しくできた小さな村の、中央に佇む教会の広場で。今日も楽しく過ごしています。
 
 
 
(次は四天王ごっこしたいー!)
(いいよー!ぐあああああ!ぱたり。) 
(ナナシがやられたようだな…。) 
(フフフ…奴は四天王の中でも最弱…。)
(人間如きにやられるとは魔族のツラ汚しよ…。)
(上手だなてめえら!)


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