ハートの海賊団


□この世界で最期まで
1ページ/2ページ


 私の運命の人とは、合コンで出会った。合コンって見知らぬ男女が友を通じて集まって、好い人いないかな?って期待して、好い人がいたら友に出し抜かれないよう腹の探りあいして、相手にこの日で意識してもらえるよう技を仕掛けたり。目に見えない戦いをするの。そうして、私も運良く意識して貰えて。過ごす時間が多くなるにつれて付き合って。結婚して。幸せだった。 
 スーパーでの買い物ですら二人でのお出かけだからと”デート”と称して。時にはケンカもしたけど、大抵先に折れてくれるのは彼で。だって私、意地っ張りだからさ。凄く優しい人だったの。
 
 そんな優しい彼の仕事が休みの時、新しく出来た水族館に”デート”しに行ったの。沢山お魚が水槽に入ってて、キラキラ光に輝いて、とてもキレイだった。お土産コーナーにも色んなグッズがあって。見てるだけで楽しくてね。全部欲しいって言ったら『ばーか』って言われたっけなぁ。


 
 
*****


「ねぇねぇあっくん!これ、うちの子にしたい。」
「ん、いいよ。」
「ほんと!?ぬいぐるみ買っていいの!?いっつもダメって言うのに珍し。」
「今回だけ特別に許可しましょう。」
「よっしゃ!やったね八太郎!」
「Σ名前もうついてる!!ってなんで八太郎?」
「今日が八日で、この子が男の子だから八太郎ー。」
「そいつ男なのか…。」
「はいそこぬいぐるみに嫉妬しないで下さいー。あ、一度許可したんだから取り消し不可だからね。」
「く…!!」
「お会計いってきまーす。」

 
 袋に八太郎をつめてもらい、ご満悦に抱き抱えるナナシ。


「あっくんは何か買わないの?」
「おれはいいかなー。ナナシの好きなもの買えるだけで満足。」
「良き旦那様じゃ。ありがたや。」
「でしょ。よきにはからへ。」


 そんな言葉の掛け合いも楽しくて、買い物が終わった後もお土産コーナーに暫く居座った。


「やっべこれちょー可愛い。」
「え、何何?」
「チンアナゴ。」
「却下!!にょろにょろ反対!気持ち悪い!可愛くない!」
「え〜?こんなに可愛いのに…。」
「変だよ可愛くないよ。」
「『ぼくかわいいよ』」
「無理無理無理無理!近づけないで!腹話術しても可愛くない!」


 できるだけ距離をとってあの生き物から離れる。デフォルメしてようが何をしようがあの生き物はダメ。名残惜しそうに戻すのを見届けてから彼の傍へと駆け寄った。

 …次の瞬間、耳が裂けそうな位甲高い音に続いて轟き響いた破壊音。お土産コーナーの正面にあった、出入口に突っ込んできた乗用車が、蛇行しながらも此方へと向かってきているのに気付いた時にはもう遅くて。


「っ!ナナシ!!」
「あっく…!!」


 そのあとの事はわからない。
 
 あっくんが間に合って。私を抱き締めて一緒にはねられたのかもしれないし。私だけがはねられたのかもしれない。
 

*****

 

「それがアンタだ…って話なのか?」


 賑わう花街の一角。遊郭街と呼ばれる中のとある一つのお店で、テーブルを挟んで食事と酒を嗜みながら二人の男女が会話に花を咲かせていた。


「そ♪意識が戻ると彼はいなくて、私とぬいぐるみだけがそばに転がっててね…ほら、あの白黒のぬいぐるみがそれだよ。」


 指さした先にはくたびれ、薄汚れてしまったぬいぐるみが大事そうに飾られていた。


「へェ…噂に聞いた通り、話が上手いんだな。」
「そぉ?ありがとー。」


 笑いながらワイングラスを片手に料理を摘まむ。
 このお店では料理、夜の相手どちらも提供する少し変わった娼婦館だ。中で待つ女も美人というだけでなくそれぞれ特技を持っている事を看板に掲げており、料理が得意な者、ダンスや歌が上手な者と様々だ。
 そして私は、”創造に富んだ話上手”を売りに日々稼いでいる。


「聞いていて楽しかったよ、えーっと…”イロワケイルカのハチタロー”さん?」

「えぇ、その名前覚えてまた指名してね。ただみんな省略して"イロハ"って呼ぶからそっちでもいいよ。…呼んでくれたらまた新しい”お話”してあげる。ご飯はもういい?ペンギンさん。」
「…あァ。ごちそうさん。」


 テーブルの上に出していた料理はキレイに無くなっていて、僅かに残っていた赤ワインもいましがた全て無くなった。イロハは椅子から立ち上がるとベッドの方へ腰掛ける。ペンギンも後を追いかけるように隣に腰掛け、イロハの髪を左手ですいた。


「ねぇ、知ってる?」
「ん?」
「この世界ってね、漫画の世界なんだよ。」
「へェ。」
「麦わら帽子の海賊が活躍するお話なの。」
「それって今話題の”麦わらのルフィ”の事か?」
「そう、知ってたの?」
「まァ、な。おれも海賊だから。」

 
 ギシッとベッドが軋む。イロハは髪を撫でるペンギンの手に自分の手を添えた。
 大抵のお客はここいらで『よくまぁポンポンと話が作れるなァ。』と笑ってベッドへとなだれ込む。私も笑ってそれに応じるのだが…今回のお客は余程話が好きなのか、話だけが進む。このまま話だけで済むのならそれに越したことはないけども。
 ここはそういう店なのだ。そうは言っていられまいとゆっくりと流れるようにベッドへ寝転がろうと手を引く。そんなイロハを抱き抱えるように、腕でペンギンは邪魔をした。その行動に少し驚いていると、今度はペンギンが口を開いた。


「おれも一つ、話をしようか。」
「あら嬉しい。どんなお話?」
「…先程の、女の方じゃなく男の話だ。」
「…?」
 

次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ