ハートの海賊団


□以心伝心
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「買い出し部隊!準備完了であります隊長!」
「…………おー。忘れ物、ない?」
「無いよ!では、いざ出発!であります!!」


 お財布だけを詰めた今は軽いリュックを背負い、街中へと買い出しに出掛けたのはハートの海賊団戦闘員のナナシと白いフェイスマスクを付けているファントムの二名。


「…。」


 船から降りた途端に元から少なかった口数がゼロになったファントムに対し、ナナシは元気良く歌を歌いながら街道沿いを進んでいた。


「すっすめー!すっすめー!我ら行く道ただすっすめー…あ!ファントム!」
「…(゜-゜)?」
「あのねー買い出し終わったら甘いもの食べにいこ!」
「(^^)b」
「何食べよう〜今日はフルーティーな気分!」
「\(*´-`)ノ」


 ナナシは慣れたもので、ファントムの言葉と表情が見えなくても雰囲気で何を伝えたいのか理解できていた。
 元々喋るのが苦手なファントム。船内ではそこそこ会話ができるが見知らぬ人、見知らぬ土地では途端に持ち前の極度の人見知りが発揮され無言になってしまう男だった。

 ナナシが仲間入りした時も暫くの間会話が出来ず、ナナシが一方的に喋り倒す光景は中々異様だったに違いない。何せマスクで表情もわからない。ただただ無言に佇むその姿は海賊としては恐怖を演出するに充分な効果は得られるだろうが。


「街ついたー!ここは二手にわかれて買い物をしよ!ファントムは下半分の道具担当ね!」
「(`・ω・´)ゞ」
「んじゃ!30分後にこの噴水前で!散ッ!」


 ナナシとファントムはお互いに敬礼しあってからそれぞれ買い物へと駆けていった。





「ん、ま〜い!!」
「( ̄∇ ̄)ノ♪」


 買い物を終わらせたナナシとファントム。宣言通りスイーツタイムを満喫していた。
ナナシは苺パフェ。ファントムはコーヒーアフォガートを注文したようだ。


「あ、ファントムの一口ちょーだい!」
「?( ˘•ω•˘)ノ」
「大丈夫だよー!飲む珈琲は苦手だけどアイス入ってれば平気!てなわけで一口いただきっ。」


 自分が使っていたスプーンを、ファントムの目の前に置かれていたアイスにさして一すくい。そしてそれを自分の口へと運べば。


「…にっがぁあ。」
「┐(´д`)┌」
「ひっどぉいファントム!違うもん、こっち側が珈琲多めになってるのが悪い…反対側なら大丈夫だもん!ファントム、あーんするからそっち側のちょーだい!」
「Σ!?(゚Д゚;≡;゚д゚)」
「あーん。」


 狼狽えるファントムを無視してナナシは口を開けて待つ。身振り手振りで止めるよう伝えてみても、ナナシは目を瞑り『あーん』のポーズのまま動こうとしない。


「…………ッ。」


 ファントムは自分が使っていたスプーンで珈琲少なめ、アイス多めにすくってナナシの口元へと運んだ。


「あむっ。もぐもぐ…ん!んまい!」
「…。」
「えっへ♪ありがとー。おかわり!」
「(¬_¬)」


 再度、あーんのポーズをとるナナシ。
ファントムは今度はアイス少なめ、珈琲多めでナナシの口に運んだ。


「あむっ!Σうぐうぅぅ!!苦ぁ…!!ファントムのバカー!」
「m9(・∀・)」
「も〜!意地悪な恋人さんだよまったく!」
「…。」


 そう言いながらも怒った表情はすぐに消え、ナナシは自分の苺パフェで口直しをする。ニコニコと美味い!を連呼する姿は見ていて飽きないものだったが。ナナシの『恋人』の一言でファントムの瞳に曇りが生じた。
その異変に素早く気付いたナナシ。どうしたのかと首を傾げてファントムの様子を伺う。


「……………………ナナシは、…どうして、おれとつ、付き合っ…て、………くれたん…だ?」


 絞り出すように声が紡がれた。その内容はファントムが告白してナナシから了承を得た時からずーっと心の隅で思っていた、気になるけど聞きたくない。そんなジレンマを含んだ疑問。

 それに対し、目をぱちくりとしてパフェを食べる手を止めるナナシは然も当然と言わんばかりの口調で答えを出す。


「どうして、って。好きだからだよ?」
「…………でもっ!」
「雰囲気が好き。仕草が好き。たまに聞こえる声も好き。マスクの奥から見える瞳が好き。人見知りなトコも好き。繋いでくれる暖かい手も、並んで歩いてくれるその脚も、ファントムの一挙一動が好き。全部好き。」
「………ッ」
「…これ以上欲しがるなんて、ファントムってば意外と欲張りね。」


 不意に微笑まれ、出かけた言葉を飲み込んだ。


「ファントムは?」
「Σ」
「私と、どうして付き合ってくれたの?」
「…………おれも、ナナシと同じだ。全部、好き…なんだ。」


 この返しはズルいだろうか?しかし、それ以上に返せる言葉が思いつかなかったファントムにはこれが精一杯の返事だった。

 伺い見たナナシの様子は、そんな返事でも満足なのか満面の笑みを浮かべていて。


「ありがとう!ファントムだーいすき!」


 テーブルを越えてファントムの胸の中へと飛び込んだ。










(…ナナシっナナシ…!!ココ店だから…!店の中だから!!だきっ抱きつくのはやめろ!!)
(へっへ〜♪慌てると言葉が流暢になるトコも大好きっ。)
(…ッ!わ、わかったから!!離れてお願い!!)


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