ハートの海賊団
□振りかぶって投げたら
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何故だろう…。
「ペンギンはどうする?」
何故…。
「ペーンギン?聞いてるの?」
「Σっ!!…聞いてる。シャチのサングラスの話だったか?」
「Σ全然違うよ!?も〜やっぱり聞いてないじゃん。メニュー何にするのって聞いたんだよ?」
変なペンギンっとふんわり笑うのはハートの海賊団船員のナナシ。天真爛漫な性格で、いつも明るく、シャチに次いでのムードメーカーだ。
「おれはコーヒー…。」
「オッケー!じゃあ私はチョコパフェにする!」
「かしこまりましたー。少々お待ち下さい。」
「えっへへ〜楽しみだなーチョコパフェ♪」
「…。」
何故…!!おれはナナシと一緒にこんなところにいるんだ…!?
こんなところ、とはペンギンとナナシが今いる場所…喫茶店のことを意味していた。
「お待たせしましたー。チョコレートパフェとコーヒーです。」
「わーい!!」
テーブルにやけに早く運ばれたチョコレートパフェ。それとコーヒー。ナナシはさっそく一口頬張った。
「ん〜おいしっ!」
「そうか…。」
ペンギンはコーヒーを口元によせながら考える。
おかしい。何故。おれは自室に戻ったはずだ。…なのに何故ここにいる。何故ナナシと二人っきりで喫茶店なんかにいるんだ?これではまるで…。
「デートみたいですね!」
Σごふっ!?
盛大にむせたペンギンにナナシはいそいでそばに備え付けられている箱から布巾を取り出す。
「(まさか読心術…!?)…!!っ、げほっ!」
「大丈夫!?」
「大丈夫…っだ!ぢ…ゴホッ!!、ちょっ、と熱かっ…!!」
嘘を織り交ぜながらナナシから布巾を受け取り、口元を拭いてテーブルの上にあったグラスを掴み、水を一気に炎症に近い症状を起こしている喉に流し込む。
テーブルの上は少しこぼれた程度でツナギも奇跡的に無事だった。
「もー今度はさましてから飲んで下さいよー?」
「あ、あぁ…。」
驚いた。まさかナナシに思っていることを言われるとは…。
ペンギンがこんなにも動揺するのは何もナナシに思っていることを言われたからだけではない。
『デートみたいですね!』
(本当に、そうだったらよかったのにな…。)
答えは単純明解。ペンギンはナナシに対してひっそりと、淡い想いを抱いているのだ。
気持ちを伝えるのは…難しい。これは己の性格の問題と邪魔者(『せ』から始まり『う』で終わる人物)のせいである。
好いている女と二人っきり。この状況ははっきり言って好機だ。千載一遇の大チャンス。何より邪魔者がいないってところが特に。
だが…。
勇気というものがどうも今一つ足りない。
「ペーンギン。」
「何だ?」
どのように伝えるべきなんだ?
ストレートに?
マイルドに?
それとも相手の気持ちを確かめてから?
そんな勇気、こんなおれにあるわけがない。
今はとりあえず、このさっきからうるせェ心臓を大人しくさせてから考えるか…。
「はい、あーん♪」
「Σはぁ!?」
無理。
余計に酷くなった。
「え?何で?」
素直すぎる返し。
「いや、何でって…そういうのは男にしてはいけないというかなんというか…そもそも恥ずかしくないのか?」
「んー別に?弟にもよくやってたから平気です。」
Σおれは弟と同等なのか!!
まさかのカミングアウト。(しかも嫌な意味で、だ!)
「変なペンギ〜ン。なんかいつもと違うね。」
「ははは…。」
もはや乾いた笑いしかできない。
「ほォ…食わないのかペンギン。」
「あ、船長!!」
最悪。何故このタイミングで船長が出てくるんだ。
「…何で、こんなところにいるんデスカ。」
「フフ…何処に居ようとおれの勝手だろ?ナナシ、おれにもくれるか?」
「はい、もちろんいいですよー。」
よくない。全然よくない。何馬鹿な事をぬかしているんだ船長!!そして何故了承しているんだナナシ…!!
ナナシはすくったアイスをチョコレートソースに絡め、それを隣の席に座った船長の口元に運ぶ。この光景はまるで…。
「…ッ!!」
ガタンッ!
─────…。
「…何の真似だ?」
眉間にシワ、額には青筋。船長はペンギンに向けて射殺すような視線と殺気を注ぐ。理由は先程、ペンギンが立ち上がり、ナナシの腕を掴み引き寄せて後数センチでローの口に運ばれるはずであったアイスを、自分の口に持っていったからだ。
「これは…おれのだから、駄目なんです。」
「へェ。」
睨み合いが続く。どちらも殺気を惜しみ無く出しているので周りの空気がピリピリとしてきたのを肌で感じとった。
腕を掴まれたままのナナシはそれをもろに当てられ、怯えたような表情をしている。
「…行くぞ。」
「え!?」
腕を掴んだままナナシを半ば無理矢理席をたたせる。
何か後ろで色々言ってるようだがすまんナナシ。今、頭の中ぐちゃぐちゃで整理するのに忙しいんだ。整理するって何を?さぁ?とにかく、色々だ。唯一わかっていることは、今のおれは全くクールじゃないってこと。
去り際に船長を垣間見たら何か満足そうにニヤリと笑っていた。おれがこの理由を知るのはもう少し先の話。
〜時が流れて一ヶ月後〜
「ペンギン〜!!」
そう、おれの名前を叫びながら明るい足取りでかけてくるのはハートの海賊団船員のナナシ。
天真爛漫な性格で、いつも明るく、シャチに次いでのムードメーカーだ。
「どうした?」
先ほどいれたコーヒーを飲みながら海図を紐解くおれ。名前を呼ぶ声を聞いただけで思わず緩む口元をカップで隠しながら問いかける。
「あれから一ヶ月だね〜。」
「そうだな…。」
一ヶ月前、ムードなんて欠片も無いような状態でいつもの船に向かったおれはナナシに気持ちを伝えてしまった。
見ているだけじゃ、ダメだった。
あんな事、他の奴にしてほしくなかった。
とにかく嫌だという気持ちを伝えてしまった。あれでは告白のようなものだと今は冷静に考えられる。
そんなおれの言葉に、ナナシは頬を赤らめて返事を頂いたあの日から、晴れて恋仲として付き合うこととなり…そんな彼女が満面の笑みで言い放つのは相変わらず豪速球。
「そこでっ!一ヶ月記念として一緒にポッキーゲームってのやらない!?」
Σごふっ!!
盛大にむせたおれにナナシは慌て駆け寄り、大丈夫!?と心配の言葉をかけながら背中をさすってくれる。
「(まさかのデジャブ…!?)…!!っ、げほっ!」
今回のコーヒーは残念ながらこぼれた。ツナギにも、海図も。
さらにおれの気管支と心臓もヤバい。
「よかったー。それじゃ、やろうよポッキーゲーム!」
「ん゙…ゴホッ!!ナナシ、意味、わかって言ってるのか?」
「知らないから教えて。」
「…。」
「なんかねー。『恋人なら記念日にはポッキーゲームだよなァ。』って船長が言っててね!面白いのか聞いたらすんごく面白いって言われてやりたくなったのー!」
ニコニコしながらネタ元を明かしてくれる、この天然爆弾彼女に教えるべきか。教えないべきか。…ここは教えておくべきだよな?(ニヤリ)
「ナナシ。ゲームのやり方教えてやるよ。」
この言葉に顔をパァ…!!っと明るくするナナシ。ペンギンはその様子を見てニヤリと怪しい笑みを浮かべた。
その後、ペンギンの部屋から顔を真っ赤にしたナナシが飛び出してくるのを数人のクルーが見かけたそうな…。
(ペンギンのばか!!口で教えてよね!!)
(お前はやってみなきゃわからないだろ?)
(ゔ…確かにそうだけど〜…。)
(これからは他にもわからないことがあったら何でも聞いていいからな?)
(も、もう聞かない!!)