ハートの海賊団


□脈打つ心臓
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(『落ちた心臓』の続編。)

 トラファルガー・ロー。面識は無くても誰もが名前を知っている位の学校内の有名人の一人である。まずめちゃくちゃモテる。将来は医者を目指しているだけあって毎回テストは学年一位。運動させれば大会に呼ばれる位ピカイチという典型的な文武両道で、両親はこの学校の校長と理事長というエリート一家。
 そんな華やかな経歴の裏側では彼女は取っ替え引っ替えする遊び人、両親はお互いに愛人を持つ仮面夫婦…など黒い噂も流れてはいるが、事実はどうか本人に聞いてみないとわからないだろう。
 そんな遠い存在であった彼がある日突然、めちゃくちゃ身近な男になったらどうなると思う?
 
 
「肩身が狭くなるわぁ…。」
「別に体型は変わってねェぞ?」
「いや。そういう意味ではなくて…ってトラファルガー君?肩をまさぐるの止めて?」
 

 両肩から脇にかけてさする動きが止まり、ため息をつかれた。
 
 
「ローって呼べよ。」
「いやいや、呼べませんって。」
 
 
 そんな事してみなさいな。教室の二ヶ所の出入口でぎゅうぎゅうにたむろってる女子の皆様に狩り殺されちゃうじゃない。
 
 
「名前ぐらい呼んでやればいいじゃない!ねー、ロ・ー・く・ん?」
「お前に呼ばれたくねェ。」
「あら?この写真欲しくないのかしら?」
「いくらだ?」
「こらこらこらぁ。ナミ、その写真いつの間に撮ったん?トラファルガー君も財布しまいなさい。」
 
 
 抗議も虚しく、目の前で闇取引が成立してしまった。無情なり。個人情報保護法はどうなった。
 
 
「次も頼む。」
「まいどあり!」
「まいどじゃないよナミ。」 
「そんなナミすわんも大好きだよ〜!」
「うるせェ黒足屋。ナナシがびっくりしてるだろうが。」
「あぁん!?ナナシちゃんは寧ろお前がべったりしてるから嫌がってんだろうが離れろごらぁ!!!」
 
 
 一体どうしてこうなったんだろう。この目の前でニヤニヤしながら写真を見つめる男とは、二週間程前に屋上で。しかも一回しか喋った事がないのに。
 
 
「まさか同学年だとは思わなかった。見た覚えがねェ。」
「そりゃ影が薄い一クラスの一人ですから。」
「同じ学年女子全員覚えたと思ってたんだがな…おれもまだまだだ。」
「いや、なんで一学年分女子全員の顔情報知ってるん…。」

 
 ニヤリ、と笑われた。いやいや何それもっと怖いわ。なんで言葉にしないの?怖いよー。
 
 何故この有名人に私が固執されなきゃならんのだ。あれか、授業をサボってた罰的なやつか。仕方ないじゃないか。遅刻登校時の入室ってすっっっっごく勇気がいるんだぞ。だから次の授業が始まるまで時間潰ししてただけなのに。
 
 
「まさかこんな目にあうとは…。」
「おれは運命の出会いを果たせて幸せだがな。」
「…こっ恥ずかしい台詞急に言わないでくれる?」
「聞きたいならいつだって囁く。」
「いやいや誰も聞きたいなんて言ってないよ?」
「いやぁまさかナナシとあのトラファルガーが付き合うなんてなぁ。」
「ウソップー?付き合ってないよ?付きまとわれてるのよ?」
「何が違うんだ?」
「大いに違うよルフィ。肉と魚くらいに。」
「どっちも美味ぇぞ?」
「…ごめん。例えが悪かったわ。」
 
 
 キンコンカンコン。休み時間の終了を告げる鐘の音が響く。ローはとても名残惜しそうに目の前の席から立ち上がった。こっそり回収したハズの私の写真をしっかりと、胸ポケットに仕舞いながら。ちくしょういつの間に…。
 ローが出ていくと同時にドアの前の雌豹達も一緒に消えてった。話かけられても無視する男に群がって。一体何が楽しいのだろうか。
 
 
「で、ナナシ。ほんとーに付き合わないの?」
「いやぁ、無理無理。」
「無理かどーかなんて付き合ってもないのに何でだ?」
「ルフィ。"お付き合い"ってそう簡単にホイホイするものじゃないんだよ?」

 
 後、机に座るんじゃありません。弁当も早食いしちゃダメだよ。もうすぐ先生も来ちゃうよ?
 
 
「ふーん。お互いに好きだから"付き合う"んだろ?お前らそーなのにしねーなんて変だな!」
「…へ?ちょ、ルフィ何を言って…。」
「お前らー!授業始めるぞー!ってルフィ!!また早食いしてんのかいい加減にしろコラァ!」

 
 先生の怒号でルフィが慌てて弁当をかっ込み、喉に詰まらせて引っくり返る。一緒に倒れた机と椅子の喧騒がけたたましくて、先程のルフィの言葉について聞く暇が無くなってしまった。

 
「ルフィの言うことも一理あるんじゃないの〜?」
「ナミ…。」
「ま、お付き合いしないならしないで、写真の売り上げがあるから私は構わないけどね。」
「ナミ…!」
 
 
 それはそれでどうかと思うんだけどな…。
 
 
 
 
 

キンコンカンコーン
(ナナシ、寂しかっただろ?会いに来たぞ。)
(何時も思うんだけど、トラファルガー君ってこんなキャラだったっけ?)
(ローって呼べと言っただろうが。)


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