キッド海賊団

□甘いあまい
1ページ/1ページ


 屋上から見下ろせる中庭のベンチ、木陰、噴水前。至るところでお互い持ち寄った弁当片手にイチャつくカップル、カップル、カップル。そんな奴等を見れば見るほどに。
 
 
「あー。甘いわぁ甘酸っぱいわぁー。」
「なんだネーム。お前も興味あるなら作ればいいじゃないか。」

 
 飲み物を飲むのに失敗したらしいむせるキッドの隣で、フェンスに寄り掛かりながら焼きそばパンを頬張るキラーの返答にネームはそれが出来たら苦労はしない、と言葉を返す。彼氏の事を語る女子友を見てキラキラしてていいな、って思うけどさ。でも自分に当てはめるとなんか違う気がする。そもそも想像ができないんだよね。好きな人が出来た事が無い私には特に。 

 
「彼氏なんざ無理して作るもんでもねェだろ!」
「まぁそうだけどさ〜。」
「ほーん…。」
 
 
 何やら言いたそうにキッドを見るキラー。キッドの方はなんかピリピリとした空気を出している。あぁそっか。ここにいる面子は何だかんだ恋愛というものに縁遠い人種だった。キッドは見た目の怖さから、キラーはパスタ狂いのその嗜好で。他の皆も似たり寄ったりの理由で恋愛にはお近づきできていない。でもさ、そうは言っても年頃の男子諸君よ。恋愛には興味はあるでしょう?
 
 
「そりゃあな。可愛い彼女欲しい!」
「手作り弁当食いたい!」
「毎朝一緒に登校してー!」
 

 話をふれば各々の夢希望を暴露し合う。いいねいいね〜青春だね〜。あー私も人生一度でいいからモテたいわぁ。ハーレム築きたいわぁー。
 
 
「…おれ、……達がいるんだから別にいいじゃねェか。」
「あっはっはーありがとう。みんな良い友だわぁ…ちょっと。何で急に地面めっちゃ踏みつけてんのさ。」
「なんでもねぇよ…!」
「…っ!くくっ…!」
「笑うなキラー!!」

 
 キッドの言う通り、私の周りには男子が溢れている。端から見ればハーレムだ。でも違くね?どちらかっていうと男友達の集まりっぽい。馬鹿ばっかやってつるんでる男子の一部ってのほうがしっくりくる。あぁ本当、一度でいいから誰かに告白されてみたいわ…。
 
 
「…?ネームって見た目かわいーんだからモテるだろ?告白の一つや二つあるだろうに。」
「えー?ないない。」
「はぁん?この嘘つきが!この間だって呼び出されてだろ!?」
「そうそれなんだけどね!待てども待てども誰も来ないの!新手の嫌がらせかね?結局たまたま通りかかったキッドと一緒に帰っちゃったんだよね。」
「「「…。」」」

 
 キッドに皆の視線が集まる。当のキッドは苺牛乳を飲んでいる。こらこら。キッドじゃなくて私を見なさいな。話をしているのは私だろうに。
 
 
「…なぁネーム。お前、今年のバレンタイン何をしたっけ?」 
「皆にチョコレートあげたじゃん。キッドに味見てもらいながら作った御墨付きの。忘れたん?」
「ホワイトデーは?」
「皆からお菓子いっぱい返ってきてうはうはだったー。そういえばキッドのなんか私が好きな店のお菓子わざわざ用意してくれてさ!数日幸せ噛み締めながら食べたわー。また食べたいな〜。」
「文化祭。」
「知らない人から初めてアドレス書かれた紙貰ったって皆に自慢したじゃん?けど連絡してみたら宛先不在で繋がらなかった。あれって思い返せば悪質な悪戯だよね。めっちゃ文章時間かけて書いたのにさ!」
「「「…。」」」
 
 
 再び皆の視線がキッドに集まる。キッドはまだ苺牛乳のストローに口をつけたままだ。おーいキッド、苺牛乳のパックがこれ以上にないくらい潰れてるよ。それってもう中身無いんじゃないかな。

 
「ヘタレ。」
「意気地無し。」
「純情ぶっこくなよそんななりで。」
「うるっせぇぞてめぇら!!!!!!」

 
 こらキッド。屋上のゴミのポイ捨ては禁止だぞ。それから皆と喧嘩するなら他所でやりなさいな。
 
 
「あ、今思い出したんだけどそういやこの間トラファルガーにも『彼氏いないのか?』って聞かれたよ。」
「はァ!?」
「いないって言ったらさ〜『そんなんだとキスのやり方も知らないだろ、してやろうか?』って。」
「まさかとは思うがされてねェだろうな!?あァ!?」
「痛い痛い!肩外れるからガクガクしないで…!!『さっき梅干しおにぎり食べたんだけどそれでもするの?』って答えたら舌打ちされれれれれれれちょっキッドマジストップ吐くよ吐くって!」

 
 胃の中が色んなものでミックスされる!なんでキッドが舌打ちすんのさ!お前のせいで吐きそうなのに!!理不尽!

 
「お前、今後毎食梅干し食え。いいか、朝昼晩全部だからな!!」 
「嫌だよ!飽きるじゃん!!なんの拷問よソレ!?」
「自己防衛だ!!」
「逆に身体悪くするわ!!」

 
 ギャーギャー叫ぶ私とキッドめがけて、急にキラーとその他の仲間達は手に持ってるゴミを投げつけてきた。いや、だから屋上はポイ捨て禁止だよ!?
 
 
「いい加減にしろよお前ら!!」
「そんなに心配するなら腹くくって直球で言ったらどうだ!!」
「他人の邪魔ばっかしやがって!!」
「ネームも気づけよ!」
「はぁ!?意味わかんない!!」
「余計な事言うんじゃねーよボケ!!」

 
 未だに止まぬゴミ攻撃に耐え兼ねたネームはキッドの腕を掴んだ。何か知らんけど皆の狙いは私とキッドだ!
 
 
「キッド!!戦略的撤退!!」
「はァ!?ふざけんな!!手を掴むな!引っ張るな!」
「おーおー行け行け!!」
「二人で愛の逃避行でもしてこい!!」
「暫く戻ってくんな!!どうせなら朝帰りしてこい!!」
「お前らァ…後で覚えてろよ!!」
 
 
 後ろでものすごいヤジと一緒にゴミが飛んでくる。キッドは悪役みたいな台詞出すし。もう本当意味わかんない!!

 
 

(全く…!ゴミ投げつけるとかマジありえん。教室に戻ってもまた投げつけてきそうだし今日はこのままサボろ。)
(…。)
(どしたのキッド。)
(…お前、まだ彼氏欲しいとか思うか?)
(え。………いや、もういいかな。なんかめんどくなった。)
((こんな奴相手にどーしろっつーんだよ…!!))


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ