キッド海賊団

□解釈違い
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 私は私がキライだ。生まれつき黒目が小さくて、白目が多く見える自分の瞳が嫌いだ。病的なまでに白いこの肌も、年寄りのように色が白く抜けた毛髪も。骸骨みたいに痩せ細った体も何もかもが嫌いだ。お年頃なりにメイクもしてみたが鏡に映っていたのは道化師よりも笑える姿で。酷く落胆した。
 
 
「おいネーム、遅ェぞ!」
「すいません、頭…!」
「ホントにグズだなネーム!!早く来ォい!」
「はいっ…!」
 
 
 いつも頭に迷惑ばかりかけている、こんな私は本当に。大嫌いだ。
 
 
「…おれの傍から離れるんじゃねェ。この島は治安が悪い。変に絡まれたら面倒だ。」
「すいません…。」
 
 
 すぐに謝ってもキッドの頭は不機嫌そうに眉をひそめて舌打ちをした。いつもこうだ。私は頭に迷惑ばかりかけている。
 よくいる戦争孤児の、路地裏のゴミみたいな環境にいた私をお頭は何故か仲間にしてくれた。銃の打ち方、ナイフの扱い方など戦い方も教えてくれた。まだ実戦経験は無いけど…。知らないよりは知っているほうがいいって。わざわざ時間を作って教えてくれた。
 
 夜、一人で寝るとあの頃の、幼い時に体験した戦争の恐怖で、上手く寝れてないと知られた時は船長室に呼び出されて。寝れるようにと傍にいてくれた。寝るのにいくら時間がかかっても、怖くて泣いてしまっても。お頭は気にしないと言って一晩中付き合ってくれた。
 
 でも、お頭は。翌朝凄く眠そうにしてて。申し訳なくて。なんとか部屋で寝ようと一人で頑張ったりしてるんだけど…何日か立つと寝れてないのがやっぱり顔に出るみたいで。お頭に船長室に呼ばれて怒られる。それでも迷惑はかけたく無いから、何とかお願いして、二〜三日に一回の頻度でお邪魔する事にしてもらった。
 
 
「おい!ネーム!!………どっちがいい?」
「はいっ!え、えっと…こっち?」
「…おら、残さず食えよ。」
「あ、ありがとうございます…。」
 

 突然突き付けられた二択。肉の串焼き。タレ味と塩味。すぐそこに見えるあの屋台で買ってきてくれたらしいそれを、ネームはタレ味を選択した。うん、凄く美味しい。
 島に寄るとキッドの頭は、私を同行する時に、よくこうやって買い食いを進めてくる。以前は恐れ多くて進められる度にお断りしていたのだが、この細い身体を鍛える為だと言われ断れなくなった。…だが、なかなか身にならないのが悩ましい。
 
 見た目でナメられたら困るからと洋服とかも見繕ってくれる。武器や身を守る為のアクセサリーまで。そういえば化粧も一回だけ、わざわざ頭直々にしてくれた事があったけれど…これはダメだと酷く不愉快そうに言われたっけ。やっぱり私では''美''というモノには似合わないらしい。
 
 
 一通り島巡りを終えて、買った物を抱えて帰船する。仲間から仕事を引き継いで、荷物の整頓をしたり帳簿をつけたり。色々と雑用をこなしていたらあっという間に夜になってしまった。手早く夕食と入浴を済ませ、自室で今日一日の反省と軽い筋トレやら読書などしていれば既に寝る時間となる。
 
 
(今日は…お頭の部屋で寝させてもらおうかな。)
 
 
 部屋の明かりを消し、皆の睡眠の妨げにならぬようドアを静かに開ける。日中の喧騒とは真逆に静かになった船内は、どことなく、あの路地裏を彷彿とさせて。一歩進むのも少し躊躇う。震える手を握り締め、足元の小さな明かりを頼りに、壁伝いで薄暗い通路を恐る恐る進んだ。

 
「…ネーム?」
「ひっ…!…あ、キっキラーさん、見回りお疲れ様、です…。」

 
 角を曲がった先の通路で、見回りをしていたキラーに出会った。暗がりから急に出てきた姿に驚き、悲鳴が少し漏れ、不快に思われたかと焦るネームに、キラーは気にするなと優しい言葉をかけてくれる。
 
 
「今日もキッドの所に行くのか?」
「あ、はい…そうなんです。」
「………ネーム、キッドに無理して付き合わなくてもいいんだぞ?嫌なら嫌だと言ってもいいんだ。」
 
 
 キッドの頭にあれこれと指示を出され、私がなんでもやろうとする様子を見て、無理して従っているんじゃないか?と最初に心配してくれたのはキラーさんだ。(そんな事はないと弁明をした時は半信半疑といった感じだったっけ…。)今でもたまに、こうして私なんかの為に心配してくれる、面倒見のいい人だ。
 
 
「無理、というか…二、三日に一回にしてと頼んだのは私ですし。全然大丈夫ですよ?」
「…それならいいんだが。女性に聞く事ではないが、その。身体とか痛くならないのか?」
「ベッドもお頭サイズで大きいですから、ちょうどいい位です。でも、お頭が身体痛くならないか心配で…。」
「いや、あいつの心配はいらないだろう?あの体力馬鹿だぞ。」
 
 
 そういえば二人は幼なじみだと船員から聞いた事がある。凄く砕けた感じでキッドの頭について話すキラーさん。『体力馬鹿』は流石に酷い言い方だなぁ、とネームは少し笑ってしまった。
 
 
「ふふ、そうですか。ずっと横向きで同じ体勢のままって、大変じゃないのかなぁ、って思ってたんですが…。」
「ずっと横…?お前達普段一体どんな… 。いや、聞いて悪かった。」
「?いえいえ…私が泣いても、怖がっても。お頭は優しく見守ってくれてるので助かります。」
「いや、それもどうかと思うが。」
「はい?」
「ん?」

 
 ちょっと流れる微妙な空気。あれ、私。何か変な事言ったかな?
 キラーさんも戸惑ったように仮面を掻く。
 
 
「なぁネーム。ちょっと言いにくい事を聞くが………これからキッドと寝に行くのか?」
「はい、今日もお邪魔する所ですが…。」
「…。」
「…。」
「…そうか。じゃあ今夜もあまり無理するなよ。」
「はいっご心配掛けてすいません。」
 
 
 深々と礼をするネームの横を通りすぎて、キラーは再び見回りへと戻っていった。
 
 
「………なんか、キラーさん。変でしたね…?」
 

 一人残されたネームは小さく呟く。キラーさんの姿が見えなくなるまで見送って、ネームも船長室に向かうべく再び足を進めた。
 
 今夜は少し、頭とお話してから寝よう。キラーさんと幼い頃、頭はどんな子供だったのかな?やっぱり昔から、頭は強かったのかなぁ?
 
 恐怖に震えていた手はいつの間にか消え去り、ネームの足取りも少しばかり、軽やかだ。
 
 通路の奥、船長室がある方向から、小さなノック音とドアが開く、軋む音が少しだけ、誰も居なくなった廊下に響いた。

  
 
(遅ェぞネーム。)
(す、すいません頭。…今夜もよろしくお願いいたします。)
(…おォ。)


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