小説

□〈 Kiss & Cry 〉
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瞳に涙をたたえた彼女がそっと瞼をとじると、目尻にぷっくりと水滴がたまる。

僕は彼女の目元に微かに触れるだけのキスをおとす。そして自分の唇へその水滴をうつすと、舌でなめとった。


彼女が僕を見つめるたびに瞳が潤む。
重力に耐えきれずに頬にポロリと落ちた涙を、舌ですくい取ると、彼女はくすぐったそうに微笑んだ。


……キミは僕のものだ。
キミの全てを手に入れたい!
涙の一滴も余すことなく!!


彼女の涙がこぼれるたびに

瞼に
目尻に
頬に

何度も何度も唇をよせて、涙を吸い上げた。


口内で彼女の涙と自分の唾液が次々と混じり合う。

それがまるで化学反応をおこしたかのように、僕の頭や身体に熱をもたせていく。


高まる熱を解き放つように、抑えきれなくなった想いが溢れ出した。


彼女の両頬を手で包み込み、顔を上向かせる。

潤んだ瞳を見つめ返しながら、ゆっくりと顔を近付けてゆく。


だんだんと近づく温度。
混じり合う吐息。


お互いの唇が触れ合った瞬間……
想像以上のやわらかさと滑らかな感触に、全身が粟立つ。
幸福感と切なさが胸の奥へと突き刺さる。


やがて合わさった唇と唇の隙間から、涙がとろりと流し込まれた。


この涙は彼女のものか?
それとも僕の……?


初めてのキスは、甘苦しい胸の痛みと、少ししょっぱい涙の味と共に僕へと刻み込まれた―――



《2010年3月》



わざと名前を伏せて書いてますf(^^;
脳内で『八晴変換』して読んでくださいね!



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