小説
□〈手当て〉
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夕方のショッピングセンターは、大勢の客で賑わっている。
人混みに紛れて買い物に興じている晴香を、八雲は通路にあるベンチに座って待っていた。
そこへ小さな女の子が近づいてきて、隣りにちょこんと座る。
年の頃は三歳か四歳か…。
やはり買い物に夢中になっている母親を、退屈そうに待っているようだった。
ふっと気付くと、その少女が八雲の顔を覗き込んで興味津々といった表情をしている。
黒目がちな大きな瞳が、ある一点をとらえて動かない。
―――…そう…
…僕の左の赤い瞳だ…
コンタクトで隠さなくなってしばらくたつが、人の目が全く気にならないといったら嘘になる。
特にこんな風にまじまじと見られると、相手は子供とはいえ、いたたまれない気持ちが沸き上がってくる。
顔を反らしかけたとき、女の子が話しかけてきた。
「お兄ちゃんのお目々、
イタイイタイしちゃったの?」
心底、心配そうな声色で聞いてくる。
その問いに何と答えていいのか考えあぐねていると、八雲の左目が温かな体温で塞がれた。
「あのね…おまじないすると痛いのなくなるよ。
イタイのイタイの飛んで行けぇ〜!
イタイのイタイの飛んで行けぇ〜!」
ふくふくとした小さな手が、ためらいなく八雲の左目に触れられて、優しく優しく撫でられる。
「ねっ!
イタイのなくなったでしょ?」
得意気にニコニコと笑うその女の子に、自然と頬が緩む。
「ああ…ありがとう」
八雲がそう返すと、満足そうにうなずいた小さな癒し人は母親と思われる女性の元へと走って行った。
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