小説
□〈確かめたいコト〉
1ページ/2ページ
「あ〜休講だ」
大学の正門横の掲示板を見た晴香は、1限目の授業が休講であることを知った。
「この時間じゃあ、まだ寝てるかなぁ」
そうは思ったものの、迷わずB棟裏手のプレハブ小屋を目指して歩き出した。
目的の部屋へ着くと、いつもは勢いよく開ける扉を、今日はそっと開けてみる。
「やーくーもーくん」
小さく声をかけて室内に入る。
予想通りこの部屋の主は、片隅で寝袋にくるまって眠っていた。
やっぱり寝てる…
荷物をいつも座る椅子に置くと、足音を忍ばせて寝袋に近づく。
八雲は身体ごと横向きになって、リズミカルな寝息をたてて気持ち良さそうに眠っている。
くしゃくしゃの頭の横にぺたりと座り込むと、寝顔を覗き込んだ。
いつもの不機嫌そうな表情はナリを潜めて、あどけなく眠る姿に晴香の頬が緩む。
よく寝てる…
しばらく起きそうにないな…
深い眠りにつく八雲の様子に、ちょっとしたイタズラ心が芽生えて、八雲の顔にかかる黒髪をそっとかきあげた。
いつもは髪に隠れている額があらわれる。
「ふふふ。
おでこ、かわいい」
全く起きる気配のない八雲に、だんだんと気持ちが大胆になる。
滅多にない機会だし、
八雲くんをよく見てやれ!
滑らかな白い肌。
あっ…こんなところに小さなホクロ見つけた。
閉じられた切れ長な目。
まつげ長いなぁ。
そんなことを考えながら、八雲の顔をまじまじと観察していく。
サラリとした髪からのぞく耳をとらえたとき、鼓動がドクリと跳ねた。
友達に聞いたばかりの情報を思い出したからだ。
『耳たぶと唇の柔らかさは似てるらしいよ!』
好奇心から、八雲の少し薄い耳たぶをそっと指でつまんでみる。
ぷにっとした柔らかな触感は、赤ちゃんのほっぺたみたいだ。
相変わらずの規則正しい寝息に、八雲の睡眠の深さが伺える。
大丈夫…
まだ起きないよね!?
晴香は身をのりだし、八雲に覆い被さるように耳に顔を寄せる。
寝癖ではねた髪が晴香の顔をくすぐる。
八雲の耳たぶと自分の唇が接触し、唇に少しの冷たさと柔らかさを感じると目を閉じた。
八雲くんとキスしたら、こんな感じなのかな…
浮かんだ想像に、思わずガバッと身を起こす。
私ってば、何、考えてるの……!!
八雲くんとキ、キスなんて!
したいけど…
してみたいけど…
できるわけないよぉ〜!!
晴香は熱くなった頬を両手で包み込んだ。
,