小説

□〈確かめたいコト〉
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「あ〜休講だ」


大学の正門横の掲示板を見た晴香は、1限目の授業が休講であることを知った。


「この時間じゃあ、まだ寝てるかなぁ」


そうは思ったものの、迷わずB棟裏手のプレハブ小屋を目指して歩き出した。



目的の部屋へ着くと、いつもは勢いよく開ける扉を、今日はそっと開けてみる。


「やーくーもーくん」


小さく声をかけて室内に入る。
予想通りこの部屋の主は、片隅で寝袋にくるまって眠っていた。


やっぱり寝てる…


荷物をいつも座る椅子に置くと、足音を忍ばせて寝袋に近づく。

八雲は身体ごと横向きになって、リズミカルな寝息をたてて気持ち良さそうに眠っている。

くしゃくしゃの頭の横にぺたりと座り込むと、寝顔を覗き込んだ。

いつもの不機嫌そうな表情はナリを潜めて、あどけなく眠る姿に晴香の頬が緩む。


よく寝てる…
しばらく起きそうにないな…


深い眠りにつく八雲の様子に、ちょっとしたイタズラ心が芽生えて、八雲の顔にかかる黒髪をそっとかきあげた。
いつもは髪に隠れている額があらわれる。


「ふふふ。
おでこ、かわいい」


全く起きる気配のない八雲に、だんだんと気持ちが大胆になる。


滅多にない機会だし、
八雲くんをよく見てやれ!


滑らかな白い肌。

あっ…こんなところに小さなホクロ見つけた。


閉じられた切れ長な目。

まつげ長いなぁ。


そんなことを考えながら、八雲の顔をまじまじと観察していく。

サラリとした髪からのぞく耳をとらえたとき、鼓動がドクリと跳ねた。

友達に聞いたばかりの情報を思い出したからだ。


『耳たぶと唇の柔らかさは似てるらしいよ!』


好奇心から、八雲の少し薄い耳たぶをそっと指でつまんでみる。
ぷにっとした柔らかな触感は、赤ちゃんのほっぺたみたいだ。

相変わらずの規則正しい寝息に、八雲の睡眠の深さが伺える。


大丈夫…
まだ起きないよね!?


晴香は身をのりだし、八雲に覆い被さるように耳に顔を寄せる。
寝癖ではねた髪が晴香の顔をくすぐる。

八雲の耳たぶと自分の唇が接触し、唇に少しの冷たさと柔らかさを感じると目を閉じた。


八雲くんとキスしたら、こんな感じなのかな…


浮かんだ想像に、思わずガバッと身を起こす。


私ってば、何、考えてるの……!!
八雲くんとキ、キスなんて!
したいけど…
してみたいけど…
できるわけないよぉ〜!!


晴香は熱くなった頬を両手で包み込んだ。



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