☆巡り逢う翼第1章☆

□第15話 魔ならざる鬼
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懐から小さなメモとペンを取り出す。

やや慣れない動作で何やら書き連ねていく。

「君は幸か不幸か…魔力を有し、簡単な錬成なら直感的に、体が覚えている筈だ」

「それが何だっていうのよ?」

怜悧な瞳でメモに視線を落とす彼へ、エリが刺々しく質問をぶつけてみる。

特に疑問を抱く事もなくレイスが返した。

「僕は事態を確かめに行かなくちゃならない。だから……」

「だから、安全な所で身を潜め…万が一の時は、魔法を使ってでも身を守れ――でしょ?」

意図を汲み取り確認を促す冴に、思わずレイスも脱帽せずにはいられない。

僅かに口を開いて感嘆の声を上げる。

「この非常事態での見事な推察…助かるよ」

そういって褒めてから紙を冴へと手渡す。

受け取ればそこには、何かに対する呪文の様な文章が記されていた。

「リフューザル…これなら、余程の魔法攻撃でなければ、君達二人くらいは守れると思う」

完全に防げる手段でない事で、エリの脳裏に一抹の不安が過ぎる。

暗くなる顔付きで察したレイスは、冗談混じりに一言付け足して和らげようと努める。

「僕等ぐらいの実力者か鬼天が相手じゃなきゃ、そう簡単には破れないから大丈夫だよ」

彼のフォローにホッとしたエリは静かに胸を撫で下ろす。

二人を横目に冴は先日出会った、鬼天と呼ばれし紅目の青年を思い出す。

同世代にも少し年上にも感じる顔立ち。

すらっとした目鼻立ちから、整った印象は比較的強い。

驚き入った様子は特に印象的である。

その中で最も冴自身驚かされたのが、彼の言い放った"シエル姉さん"という台詞。

青年の指す"シエル"が自分達の認知する"シエル"か、否かは全く以て判断がつかない。

ただ、どこかこの話をレイスに切り出すべきか、躊躇いが強いのは確かだった。

「この砂浜を5分程走れば、左側に隠れる程度窪みがあるから……瀧本?」

些か呆けている様に窺えたレイスが、訝しげに見詰めて冴を呼ぶ。

少々間を空けてから彼女は慌てて相槌を返す。

「え…あ、わ、分かった。それじゃぁ、あたし達は先にそこで隠れてるね」

努めて明るく振る舞う冴に疑問を持つも、レイスは振り払い沖合いへと向かった。

漸く彼の姿が小さくなった所で、冴はエリに再度説明するよう頼む。

「ごめんエリ。あたし達、どこに隠れれば良いんだっけ?」

平謝りにも似た冴の苦笑と口調に、嘆息を吐きつつも苦笑いのまま伝える。

「もう、そんなこったろうと思ったわよ。ここを真っ直ぐ行った先にあるから…行こ?」

エリは短く頷く友と手を繋ぎ、誘導する様に駆け出す。

レイスの言う通り5分程走ると数人が、身を潜めるくらいの空洞が見付かる。

洞窟や防空壕といったもの程深くはないが、雨宿りや簡単に隠れる程度には丁度良い。

もう少しで着く距離で、再び低く轟く砲声と、海からの突風が少女二人を襲う。

「きゃっ…!?」

「くっ…エリ!あたしの、後ろにっ……――」

「冴っ!!沖から光がこっちに…!」

両手で庇っていた顔を上げれば、確かに光線みたいな閃光がこちらへ向かっていた。

最早一刻の猶予もなく、冴は先のメモの呪文を唱えようとする。

だが緊張と恐怖が両手を戦慄かせ、発音を妨げてしまう。

焦りだけが先行し更に悪循環を招く。

「冴!!とにかく、あの空洞に隠れよう!?」

「ダメ!そんなの今からじゃ間に合わないし、生き埋めになるのがオチだよ!」

明らかに自然現象ではない光景は、ブラッドレスにせよフレイムにせよ攻撃なのは明白。

背後に忍び寄る死の予感に、冴は心中でラークの名を叫び友を護る力を請う。

目前に迫り来る光への恐怖からエリは親友の腰にしがみつく。

強く目を瞑ったそこで、冴の眼前に狂気的に唇を歪ませた少年が現れた。


第15話  fin.


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