☆巡り逢う翼第1章☆
□第10話 孤独の王
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ふと閃いた冴が立ち上がる。
デスクにあるティッシュを一枚取り出し、濡れタオルの水分を染み込ませた。
意図が分からずエイミーがきょとんとする中、冴は朗らかな笑みで口を開く。
「こっち来て。応急処置にしかならないだろうけど…これで傷冷やそう?」
招く様な手を上下に動かし、こちらへ来るよう呼び寄せる。
冴はエイミーの負傷した箇所の処置をしようとしたのだ。
「ありがとうございます。ですが、お気持ちだけで十分にございますよ」
彼女に従いエイミーは近付くも申し訳なさから丁重に断る。
「ダーメ!掠り傷でも熱があるなら、炎症起こしてるかもしれないじゃない」
ムッとした様子で冴はほぼ強制的に、湿らせたティッシュを貼り付ける。
エイミーの体に合わせて千切り、水分で粘着の代役をさせる。
「キラさんにしてもラークやエイミーさんにしても、いくらなんでも皆無茶し過ぎよ」
よっぽど不満になってきたのか、頬を膨らませる勢いで愚痴を零す。
「少しは心配するこっちの身になってもらいたい!」
「ふふふ、陛下がそれをお聞きになりましたら、またお怒りになられてしまうやもしれません」
微笑ましい冴の様子に、エイミーの口元から自然と笑みが表れる。
ジョーク混じりの想定に冴は尚も不満げだ。
「冗談じゃないわよ。休むべき時に休まないキラさんが悪いっていうのに、あたしが怒られる謂われはないもん」
蝋燭に灯された火の揺らめきを、感慨深く眺めながら続ける。
「でも……これも、この人が選んだ道なのかな……」
「そうかも…しれませんね……」
静かな、でもどこか悲しげな物言いの冴に、合わせた口調でエイミーも頷く。
彼女達の視線の先には、落ち着いた顔付きで眠るキラがいた。
「キラさんが救われる日は、いつになったら来るんだろう」
か細く呟いた冴が、柔らかくキラの金髪を撫でて梳す。
滑らかな触り心地は男性の髪とは思えない。
何度でも触れていたいと、思わせる柔らかさは女性には憧れに近いだろう。
「この人があたし達の命を奪おうとしてる筈なのに…あたしはこの人を恨めないや。だってこの人だって、こんなに苦しんでるんだもの……」
黙って耳を傾けるエイミーには、救いという言葉は途方もない祈りにも思えた。
何故なら、シエルの存在を超える様な救いを与えられる人物が、全く想像がつかないから。
身内のクラットでも出来なかった事を成すのは、それはそれは容易ではない。
「ねぇ、エイミーさん。ラークも……こんな風に苦しい道を選んで生きて来たの?」
「えっ?陛下の様に…ですか?」
突然の質問なうえ考えてもみなかった内容に、エイミーはついオウム返しになってしまう。
質問返しをされても戸惑う事なく冴は補足する。
「うん…なんていうか、ラークとキラさんって似てない?一人で背負い込もうとする所とか」
これにはエイミーも純粋に驚かされる。
エイミーはこれまで血の繋がりのない、家族でない二人は似る事はないと思っていた。
兄弟として二人が何かした事もないし、身内として互いに接した事もない。
ならば、他人と関係を構築する時と変わらないと思っていた。
「もしや…マスターご自身気付かぬうちに、陛下の背中を追っていたのでしょうか?」
今まで考えもしなかった想像範囲に、エイミーはただただ驚く。
仮にラークがキラの背中を追っていたのならば、それは兄弟というより父親の背を追って育つ、息子の様な親子に近いかもしれない。