☆巡り逢う翼第1章☆
□第16話 望まざる覚醒
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「オレ様が悪だとするなら…一体何故"オレ様"という人格は作られたんだろーナァ?」
ルース自身気付いているが、無論冴達がこの問いに答えられる訳もない。
どういった経緯で彼が生まれ、どういった理由でラークが彼を必要としたのか――。
特に必要とした理由等……ラークがルースを認知し、尚且つ負の記憶を認めなければ少なくとも、語られる事はないのだから。
ならばこれは、悪とされたルースなりの抵抗なのかもしれない。
「そんなのっ……ラークに訊いてよ」
冴は率直に狡い質問だと思った。
ばつが悪いと感じ顔を腹立たしげに逸らす。
エリも遅れ馳せながらにハッと気付く。
別人格を一人の存在と認めても肉体は一つしかない。
ラークの肉体なのだからルースは不要で、ラークが戻るべきで当たり前だと思っていた。
だが例えばもし、性格の良し悪しが逆だとしたらどうなのだろうか?
今はラークの帰りを切望しているが、逆ならルースの定着を望んでしまわないか?
答えの見えないジレンマがエリの中でループする。
「クスクス…そう、お前等には答えられない。何故なら……」
言葉半ばにて再び海上から跳ね返された攻撃が、こちら目掛けて襲い掛かる。
今度は収束された光線ではなく漆黒の砲弾だった。
息を呑み強張る少女達を余所に、狂喜づくルースが振り向いて掌を海へ翳す。
すると、空中で砲弾は凍り付き戦闘音に負けない大音量で砕け散る。
「すっ…スゴい……」
凄まじい瞬間にエリから正直な感嘆が零れる。
「オレ様は臆病者と違って戦いを知っているからな。魔力の無駄遣いはしねーのさ」
冬のひんやりとした風が、ラークの顔立ちで誇らしげに微笑むルースの黒髪を靡かせた。
「お嬢さんはえぇーと…冴って名前か?表がよく呼んでるゼ」
「それも、ラークの記憶でしょ?」
「当然ダロ。今迄オレ様が前に出た時の記憶は、全て消去してんだから…」
――ほら、まただ。
冴の中で引っ掛かりとして残るあの嗤笑。
「さぁっ…血で血を洗おーじゃねーか!!」
益々激化する戦闘を見て、高笑いを上げてルースが煽る。
それを見た冴の中で何かが吹っ切れた。
「ラークの声で…そんな事、言わないでっ!!」
泣き叫ぶ様に声を上げながら、ルースが気付くより早く張り手が飛ぶ。
対処が間に合わなかった彼はまともに食らってしまう。
しかし何より問題だったのが冴の次に見せた行動だった。
「蹂躙せよ…ベリアルっ!!」
「冴っ!?」
ラークからも使い魔である、アシュリア兄妹からも聞き及んだ事のない呪文。
漠然とした不安がエリの心中で膨らむ。
一方の刃を向けられたルースは、しばし呆然としてからせせら笑う。
「ククク…マジかよ、おい……もー最っ高」
左手で顔半分を覆い中腰で込み上げる笑いを堪える。
「魔力を持つただの女がっ…炎と闇を併せ持つ、無価値なる王を召喚するとは……最高スギて、恐れ入るゼ…」
堪えきれない嘲笑がやっと落ち着きを窺わせた頃、俯く冴の後ろには巨大な影。
余りにも高圧的だが威厳ある、禍々しくも神々しい姿にエリは後退りしてしまう。
焦茶色の体毛に漆黒の長い毛を靡かせる、手綱に繋がれた馬が鳴き声を轟かす。
その落ち着きない暴れ馬を、灰色でウェーブのかかった長髪の巨人が難無く手懐ける。