☆巡り逢う翼第1章☆

□第4話 血と継承
14ページ/15ページ


「ゴホッ、ゴホッ…ね、姉さんっ…!!」

苦しさから未だ立ち上がれずにいるレイスは、地に体を這わせたまま瞳を揺らして叫んだ。

何故こんな事になってしまったのか…

今のレイスにはその疑問しか浮かばない。

目の前には鮮やかな水色の服を出血で濡らし地に水滴を滴らせ、気絶してぐったりしている家族の姿。

彼は怒りと恐怖、その他様々な感情から全身が戦慄く。

「……めろ…」

「レイ、ス…?」

冴はかろうじて耳にした声に気付き、声を発したレイスの方へ視線を移した。

彼女の呟きを聞きラークも顔だけ振り返り無言でレイスを見詰める。

暫くすると再びレイスが叫び声を上げた。

今度は気絶しているカレン以外全ての者が聞き取れる声量で…。

「止めろ…!もういいでしょっ…!?君はこれ以上僕から、何を奪うっていうんだ!!」

カレンの様子を見て冴には、レイスが"もう姉さんに攻撃しないで"と、ラークに懇願している様にしか思えなかった。

表情を一切変えずラークは体ごと再び振り返り、何も喋る事もせずに数歩進めてカレンからある程度離れる。

レイスも冴も重苦しい緊張感で口を開こうとしない。

レイスは視点を地面に落とし、顔付きに悔しさと悲しみを滲ませる。

一度目をつぶった後前方の地へ視点を動かすと、こんな状況でもまだ親友と呼びたいと願う彼の靴先が見える。

まさに、今のレイスの心境は絶望にうちひしがれていた。

視点を上へ向けるとラークと視線が交わる。

暫くの間どちらも口を開く事無く、無言で互いを睨み合う。

そしてラークが先手を打った。

「…先ず、それが人にものを頼む態度か?それに……」

言葉半ばでラークが黙りレイスは動くこともせずに、ただじっと言葉の続きを待つ。

しばし沈黙の後ラークはレイスの肩に足を乗せ目笑して呟いた。

「そんな悲しむ事ねぇーよ」

妙な程優しいラークの目付きにレイスはなにやら、心を見透かされている不快感に胸がざわつく。

彼の瞳を見てレイスは真っ先に死を予感した。

レイスの予想通り後にラークはとどめにも似た言葉を放つ。

一方柔らかい口調だっただけに、冴はラークがレイスを許したのだと思った。

一安心からかホッとしてか、一人静かに胸を撫で下ろす。

しかし、それは甘すぎる考えだった。

「あんたもそのうち楽にしてやっからよ…」

一安心もつかの間、大切な存在の冷たく抑揚の無い言葉に、彼女は一気に全身の血の気が失せた様に感じた。

慌てて見詰めればラークは行動を起こしていた。

先と同様回し蹴りで楽々とレイスをカレンの所まで蹴飛ばす。

「くっ……!」

内臓に損傷を受けたのか、レイスは吐血をする。

口元から顎にかけて血が一本の線を描く。

カレンの目の前まで飛ばしたらレイスの首を鷲掴みにした。

「レイス…お前は俺の最初で最後の親友だったよ…ありがとう」

意識がにわかに霞む中レイスはラークが悲しげ微笑んでいる様に見えた。

だが、ここで終わるはずがない事も重々解っていた。

「あばよっ…カレン、レイス」

ラークは魔法で剣を出して姉弟共々突き刺そうと構えだす。

覚悟を決めレイスは瞼を下ろし抵抗を止める。

不思議とレイスの心は穏やかになっていった。

その様子を見た瞬間冴は考えるより数歩早く、駆け出しながらラークに向けて大声を上げた。



「ダメーッ!!!」



彼女の叫び声に反応して、ラークの手元が一瞬迷いをちらつかせる。

そこへ冴は勢いよくラークへ横から飛び付いた。

「おわっ…!?」

飛び付かれた事でラークはバランスを崩し、必然的にレイスの首から手が離され剣は遠くへ投げ飛ばされる。

幸運にもなんとかしてレイスは命を取り留めた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ