☆巡り逢う翼第1章☆
□第4話 血と継承
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「ゴホッ、ゴホッ…ね、姉さんっ…!!」
苦しさから未だ立ち上がれずにいるレイスは、地に体を這わせたまま瞳を揺らして叫んだ。
何故こんな事になってしまったのか…
今のレイスにはその疑問しか浮かばない。
目の前には鮮やかな水色の服を出血で濡らし地に水滴を滴らせ、気絶してぐったりしている家族の姿。
彼は怒りと恐怖、その他様々な感情から全身が戦慄く。
「……めろ…」
「レイ、ス…?」
冴はかろうじて耳にした声に気付き、声を発したレイスの方へ視線を移した。
彼女の呟きを聞きラークも顔だけ振り返り無言でレイスを見詰める。
暫くすると再びレイスが叫び声を上げた。
今度は気絶しているカレン以外全ての者が聞き取れる声量で…。
「止めろ…!もういいでしょっ…!?君はこれ以上僕から、何を奪うっていうんだ!!」
カレンの様子を見て冴には、レイスが"もう姉さんに攻撃しないで"と、ラークに懇願している様にしか思えなかった。
表情を一切変えずラークは体ごと再び振り返り、何も喋る事もせずに数歩進めてカレンからある程度離れる。
レイスも冴も重苦しい緊張感で口を開こうとしない。
レイスは視点を地面に落とし、顔付きに悔しさと悲しみを滲ませる。
一度目をつぶった後前方の地へ視点を動かすと、こんな状況でもまだ親友と呼びたいと願う彼の靴先が見える。
まさに、今のレイスの心境は絶望にうちひしがれていた。
視点を上へ向けるとラークと視線が交わる。
暫くの間どちらも口を開く事無く、無言で互いを睨み合う。
そしてラークが先手を打った。
「…先ず、それが人にものを頼む態度か?それに……」
言葉半ばでラークが黙りレイスは動くこともせずに、ただじっと言葉の続きを待つ。
しばし沈黙の後ラークはレイスの肩に足を乗せ目笑して呟いた。
「そんな悲しむ事ねぇーよ」
妙な程優しいラークの目付きにレイスはなにやら、心を見透かされている不快感に胸がざわつく。
彼の瞳を見てレイスは真っ先に死を予感した。
レイスの予想通り後にラークはとどめにも似た言葉を放つ。
一方柔らかい口調だっただけに、冴はラークがレイスを許したのだと思った。
一安心からかホッとしてか、一人静かに胸を撫で下ろす。
しかし、それは甘すぎる考えだった。
「あんたもそのうち楽にしてやっからよ…」
一安心もつかの間、大切な存在の冷たく抑揚の無い言葉に、彼女は一気に全身の血の気が失せた様に感じた。
慌てて見詰めればラークは行動を起こしていた。
先と同様回し蹴りで楽々とレイスをカレンの所まで蹴飛ばす。
「くっ……!」
内臓に損傷を受けたのか、レイスは吐血をする。
口元から顎にかけて血が一本の線を描く。
カレンの目の前まで飛ばしたらレイスの首を鷲掴みにした。
「レイス…お前は俺の最初で最後の親友だったよ…ありがとう」
意識がにわかに霞む中レイスはラークが悲しげ微笑んでいる様に見えた。
だが、ここで終わるはずがない事も重々解っていた。
「あばよっ…カレン、レイス」
ラークは魔法で剣を出して姉弟共々突き刺そうと構えだす。
覚悟を決めレイスは瞼を下ろし抵抗を止める。
不思議とレイスの心は穏やかになっていった。
その様子を見た瞬間冴は考えるより数歩早く、駆け出しながらラークに向けて大声を上げた。
「ダメーッ!!!」
彼女の叫び声に反応して、ラークの手元が一瞬迷いをちらつかせる。
そこへ冴は勢いよくラークへ横から飛び付いた。
「おわっ…!?」
飛び付かれた事でラークはバランスを崩し、必然的にレイスの首から手が離され剣は遠くへ投げ飛ばされる。
幸運にもなんとかしてレイスは命を取り留めた。