†真紅の絆〜巡り逢う翼〜第2章†

□Crimson tea〜永久の愛〜
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「悠里華ー!!」

朝日が煌めく快晴の中、一人の女性の声が家中に響く。

声色は何処か慌ただしさを感じさせる。

「う〜ん…まだい、やぁ…」

「何言ってるの、また"ぎりぎり常習犯"って麗君に言われるわよ?」

悠里華と呼ばれた少女…――龍咲 悠里華―は次第に声を小さくしながら、気怠そうに上半身を上げた。

まだ寝足りないようで、相当ぼんやりとしている。

「常習犯じゃないってば…それより、祐俐はぁ?」

起こしてくれって頼んだのにー、そう悪態吐きながら、悠里華は素早く制服に着替えた。

「祐俐なら、とっくに学校へ麗君と行ったわよ?」

洗濯するべくベッドシーツを片しながら、母親は溜息混じりに答える。

「彼奴っ!勝手に行くなよなー!?」

悠里華は眉間に勢いよくシワを寄せ、階段を駆け降りリビングへ向かった。

慌ただしい足音に1階にいた青年は朝食を摂りながら、またかと呆れ無視を決め込む。

しかし、そんな事知りもしない悠里華は、満面の笑みで青年に挨拶を交わした。

「おはよ、恢斗!」

「悠里華…オレはお前の兄貴だぞ?普通名前で呼ぶか?」

大きなため息をつき、恢斗は朝食を再開する。

「だって恢斗は恢斗だろ?ゔげっ…遅刻する!!」

「あっ、このやろっ…!」

悠里華は恢斗が食べようとちぎった、焼きたてで苺ジャムの付いたパンを、眼前から当然の様に奪う。

時計を確認すると慌ててそれを食わえ、外の自転車に乗って全力疾走で家を駆け出して行った。

恢斗は妹のそんな姿を、困り果てた様子で見守る。

「あらあら、また取られちゃったの?」

クスクスと笑みを彼等の母親は浮かべる。

可笑しそうにではなく、微笑ましく見守っている形で。

「はぁ…母さんこそ、兄貴扱いされないオレの身にもなってくれよ…」

先まであったパンが奪われ寂しさを残す指をしばし見詰めた後、溜息を吐いて彼は再びパンをちぎり口に運ぶ。

「それだけ恢斗を信頼してるって証拠よ。でも、せめてもうちょっと女の子らしくならないもんかしら」

右手を頬に付けて母親は苦笑いして、自分の息子を見遣った。

母親の言い分は自分も思っていた様で、恢斗も同じ表情でそれには賛同する。

「あはは、それ言えてる!悠里華って寧ろお転婆娘だもんな」

「お母さんが悠里華ぐらいの年頃の時でも、あんなに動き回るなんてなかったのに…はぁ〜」

彼女曰く、女の子にはかわいらしい服装やらなんやらさせたかったらしく、それを好みとしない悠里華では出来ず、相当残念だったらしい。

母親がつまらなさそうにしている中、恢斗は思い出した様子でパンを食べ終えコーヒーを飲んだ。

「あ、そうだ。母さん!今日オレちょっと大学の手伝いしたら、そのまんま龍聖さんの所行ってくっから」

息子の言葉に洗い物でキッチンへ向かっていた母親は、キョトンと顔だけ振り返る。

「あら、なんでまた?」

不思議そうに見詰める母親に恢斗は、ショルダーバックの中身を確認しながら説明していく。

「なんでも人手不足で、ちょっくら手伝って欲しい用事があるんだと」

話を続けて彼はバックを肩にかける。

「もしかしたら、今日遅くなるかもしんないから、ご飯先に済ましちゃっていいよ」

行ってきまーす、と言うと指に車のキーを引っかけ彼も家を出て行った。

「……なら、皆と話し合うのは今のうち、って感じかな…」

深刻な表情で呟いた母親の意味深な言葉は、誰もいなくなった居間から消え去る。
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