†真紅の絆〜巡り逢う翼〜第2章†

□Crimson tea〜永久の愛〜
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職員会議が長引いているのか、未だに担任はまだ来ない。

「祐俐ー、そろそろ喋らないと…悠里華、キレちゃうよ?」

椅子を反対向きの跨ぐ形で座っている麗は警告し、苦笑しつつ無表情な祐俐を覗き込む。

悠里華に至っては手をわなわなと、拳にして震わせている。

「ねぇ、祐俐ー」

麗が今度は懇願する様に、向き合う祐俐を猫撫で声で呼ぶ。

根負けしたのかこの膠着状態が面倒臭くなったのか、漸く祐俐は本を閉じ口を開いた。

「…はぁっ…気色悪い声出すな。言われなくたって、聞こえてんよアホ」

「なら――!」

眉を顰て瞼を閉じ祐俐は盛大な溜息を吐く。

それと間髪入れずに再び文句を口にしようとする悠里華に、遮らせる様に呆れ果てた視線を送る。

「……だって、俺が熟睡してる悠里華無理矢理起こすと、泣き出すじゃん」

「え!そなのっ!?」

親友の衝撃的な新事実に、麗は好奇心から興味津々に食らい付く。

焦燥感丸出しの顔色で、悠里華は一蹴する。

「っ!れ、麗には関係ないっ!」

事実、祐俐の言う通り悠里華は小学生の頃からそういった事があった。

昔参観日の時、祐俐が起こすべく彼女の体を揺らすが、一向に起き上がろうとしなかった。

「悠里華ってば、起きなよー!」

「ヤダ!参観日の学校なんか行くもんか!!」


そういわれても、片割れを放っておく訳にもいかず、祐俐も食い下がる。

だが、押し問答の末とうとう、彼女は大声で泣き出してしまったのだ。

双子内の暗黙の了解として決めた、禁句を口にして…。

「うわぁぁん、お父さぁん……」

以来"お父さん"と呼ぶ回数は減ったものの、祐俐が無理矢理起こすと泣き出す始末。

「それに、ガキじゃないんだからいい加減、朝ぐらい自分で起きろバカ悠里華」

最後の一言が余計と感じていても、ご尤もな意見に文句が言えない。

悠里華はまだ納得がいかない表情の中、背後から冷静なツッコミが飛んでくる。

「っていうか、どうでもいいけどさぁ〜?もうすぐセンセ来るからHR、始まるよ?」

「あ、暁!」

四人の中で麗の次に学力が良い―壬生 暁―が、悠里華の後ろからひょっこり顔を出す。

「おっはよ、皆っ」

「……」

「暁オハヨー!」

「おはよ、相変わらずマイペース登校だね」

女子の中では平均的な身長の悠里華と大差ない暁は、男三人の中で最も小さい。

色素の薄い茶髪は自然体に下りていて、襟足は若干くせっ毛になっている。

少し寒いのか、学ランの下に薄手でグレーのパーカーを羽織っている。

脇腹に鞄を挟み、麗よりもくりっとした茶色い瞳を笑顔で細める。

「まぁねぇ〜。んじゃ、とりあえずは悠里華も席着こ?ね?」

祐俐の無言も慣れた様子でスルーし、彼女の背中をポンポンと軽く叩き、アルト調の声が宥める様に話し掛けた。

いつも暁は悠里華を落ち着かせる役目なのだ。

それに暁からしたら祐俐は口で言わずとも、ちゃんと聞いている事を雰囲気で分かっていた。

そこへ調度良く担任が教師に入って来た為、自然と席に着く形となる。
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