†真紅の絆〜巡り逢う翼〜第2章†

□Crimson tea〜永久の愛〜
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慌てて彼女は暁をちらっと見遣った。

確実に暁の怒声が響くかと思っていたが悠里華の予想は外れ、暁自身は無言の圧力を祐俐に与えている。

祐俐は空いている手で頭を数回掻くと、鞄を脇腹に挟み観念した様に溜息を吐く。

今日一日で彼が吐いた溜息は数知れない。

彼の苛ついた雰囲気も、少しだけ穏やかさを取り戻す。

「わーったよ。話せば良いんだろ、話せば…」

それは祐俐とて暁を本気で怒らせるのが、どれほど恐ろしいか知っているから。

散々叱り付けられた揚句、後々まで根に持たれるのは厄介なのだ。

肩を竦ませ気怠さ全開の態度を示す。

壁に背を預けて祐俐は話を始めた。

「変な奴が俺等ん家の前に立ってたんだよ。何と無く危ないから隠れてただけな訳」

これで文句無いだろ?と、祐俐は暁に問い掛けて首を鳴らす。

暁は真実か否か、確かめる様な眼差しを祐俐に向ける。

真っ直ぐに向けられるそれはどこと無く、逸らす事を許してくれそうにはない。

気を紛らわす為に祐俐は掴まれた腕へ神経を注ぐ。

「…ふーん、なんか物騒だよねぇ。っていうか、それならそうと言ってよぉー」

心配したじゃんか、と頬を膨らまして暁はいつも通りの口調に戻る。

ただこの時、暁がホンの一瞬だけ口許を不満げに歪ませていた事に、ホッとした双子の二人は気付かなかった。

とここで、タイミング良く悠里華のお腹が空腹感と共に鳴る。

鳴らした本人は、人差し指で頬を掻き恥ずかしそうに笑う。

「え、あは、あはは…お腹空いちゃった」

片割れの正直な反応に、祐俐はふっと苦笑してみせる。

「仕方ねぇなぁ。ファミレスでも行くか…暁、お前も来いっ」

「え!僕もいいのっ!?」

嬉しい予想外な招待に、暁は目をキラキラと輝かせた。

「バーカ、ついでだよ、ついで。暁の分も金は後で母さんに貰えば良いしな。」

"それ、がめつい様な気が…"と心中で呟きながら、苦笑混じりに悠里華もはしゃいで歩く暁の後に続く。

その後ろに祐俐も続いた。



 ――さっきの金髪野郎…悠里華はともかく少なくとも、きっと始めから俺に気付いてやがった

 …なのに、何もして来なかった……


 となると、先ず目的は俺じゃない…

 だけどもし、あそこで悠里華の存在にも気付いてたうえでだとしたら……

 ってなると、奴の目的は悠里華じゃないのか?

 ……―兄貴か若しくは…

 母さん?


「…チッ、止めよ」

不審な存在の目的が全く掴めない祐俐は、舌打ちをして考えるのを止めた。

相手が何者かも分からなければ、その目的も分からないから。

「祐俐ってば遅いぞー!」

さっさと進んでいた悠里華がもと来た道を駆け出し、だいぶ遅れていた祐俐の手を握る。

どうやら空腹に耐え切れず、一刻も早くファミレスへと行きたいようだ。

素直な行動に祐俐はつい笑みを零す。

「フッ…言われなくたって、行くさ」

暁はそんな二人が来るのを優しく待った。

「クスクス、祐俐って悠里華にだけは、飛び切り弱いんだよなぁ」

「あ゙?何か言ったか?」

「ううん、何でもなぁーい!」

おどけた表情で軽く悠里華に抱き着き、早くファミレスに行こうと急かす。

普段の和やかなムードで三人は向かった。
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