☆巡り逢う翼第1章☆
□第9話 触れ合う心
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記憶は時間―とき―の経過と共に薄れていく。
しかし心に刻まれた思い出は、いつまでも色褪せることはない。
それが人々が言の葉にて形にした"過去"。
哀しき過去は時に鎖となって、その地に縛り付け前へと動けなくさせる。
先にある"未来"へ進めぬ者達はその場に立ち尽くし迷う。
――自分はどうすればいいのか。
――このまま生き続けることに意味はあるのか。
悲しみに暮れ生きる意味を見失う中、己が中に潜みし悪魔が誘惑の手を差し出す。
優しげな微笑みという仮面の裏に、薄ら笑いと甘美な毒を隠して――。
――PHASE9 触れ合う心――
「瀧本様……貴女様のお命、この私エイミー・アシュリアにお預け頂けませんか?」
真摯な態度でエイミーがじっと冴の瞳を見詰める。
対する冴は、突然の申し出にただただびっくりする。
おまけに、命を彼女に預けるとは具体的にどういうのを指すのか……想像もつかない。
先ずは何がエイミーにそう決意させたのか、説明を冴は困惑気味に求めた。
「ど、どうしたの?急に……」
「マスターはけしてこのまま黙って閉じ込めさせる為に、私をお選びになられた訳ではないと思うのです」
真っ直ぐ冴の瞳を見据えたまま、落ち着いた物言いで話を始める。
「かといって、私にしても瀧本様にしてもあからさまな行動に出れば、それは瀧本様のお命を危険に曝す結果となりましょう」
「そしてそれは、ラークの命を危うくさせることにも繋がる…そうだよね?」
「はい。ですから今は生き残る為の、確かな情報を得―う―る為…これから起こる事には堪え忍んで頂きたいのでございます」
始めは話の点と点が線とならず、話の筋が読めなかった。
神妙に考え込む表情をしたまま暫く沈黙していた後、確かめる様に不安げに俯いていた顔を上げる。
「もしかしてそれには、昨夜の"カレン"さんって人が関係しているの?」
漸く思い付けた予想は冴にあのドロドロした、嫌悪感も抱く暗い複雑な気持ちを沸かせる。
だが虚しくそして悲しきかな、それは無情にもエイミーの読みと繋がっていた。
「私はそう踏んでおります。魔界に純血の人間がいるだけではなく……」
一つやや大きめの深呼吸をした所で、エイミーは深刻な現状を険しい面持ちで物語る。
しばしの溜めを作って再び口を開く。
「――ましてや、貴女に惹かれる方は次期魔王最有力候補の王族……加えて世話役ならば当然男性では些かふしだらです」
「そしてラークと関わりのあるカレンさんなら、外に漏らす様な真似はしない…」
「はい。しかも、カレン様は名家のご当主……いわば陛下に一族を人質に取られた様なもの、ハイリスクな言動は出来ないかと」
平凡な今迄に比べ異常な今の状況のわりに、随分と冴は落ち着き払っている。
予想を遥かに超えた順応の早さにエイミーは素直に驚きを見せるばかり。
暫くして不思議そうに疑問を率直に口にする。
「随分と冷静になられていらっしゃるのですね?」
やや面食らった様子を見せて戸惑いがちに冴は視線を泳がす。
裏の無い反応はエイミーに無意識だったと感づかせる。
「昔からそうなんだけど…度合いに違いはあっても、あたしいざという時程意外と落ち着いてるの」
「それは頼もしいですね。ではこれからをお話致しましょう」
苦笑いする冴を気遣い、余計な詮索はせずエイミーは穏やかな微笑み返すだけに留めた。
一方本題に入ると聞いた冴は息を呑み気を引き締める。