☆巡り逢う翼第1章☆

□第9話 触れ合う心
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怒声が飛ぶかと思いきや、彼は冴の発言を無視した。

「クレス。俺にぶちのめされたくなきゃ、3つ数えるうちに持ち場に戻れ」

自身が手にする、漆黒の回転式拳銃をクレスの後頭部へ押し付ける力を強める。

撃鉄が起こされるの見て、エイミーは一気に緊張感が増す。

クレスの足元に置かれた短銃をキラが横払いに蹴り飛ばした。

彼等の艶やかな金髪が茜色の空で更に彩られる。

どちらのものか区別がつかない程よく似た、美しい髪の毛先が小さく揺れ動く。

「1……」

カウントダウンを始めた主人たるキラ。

僕―しもべ―に対する仕打ちとは思えない程淡々としている。

不利な状況で急かされているにも関わらず、クレスは恐れもせずにおどけてみせた。

「そんなこと言って〜、鋼鈴にオレは殺れないっしょぉ?」

エイミーからクレスを見れば、いつだって真実や本音を中々言わない人物で、一つ一つの情報の真偽がどうしても疑わしい。

状況を飲み込み切れていない冴を余所に、警戒心剥き出しの目線でキラとクレスを見詰める。

「どうした?ほら、ご無沙汰なんだし練習がてら撃って――……」

挑発半ばでつんざく銃声が一度だけ部屋中に鳴り響く。

クレスの時より大きくて低い、重みのある音はそれだけで同じ拳銃でも、彼のより破壊力があるのを彼女達に感じさせた。

キラは銃を手にしている腕を天井へ高々と上げている。

銃口からは灰色の硝煙が揺らめいていた。

冴とエイミーがつられる様に天井を見上げる。

壁面には深々と食い込んでいる鉛玉。

それは紛れもない、発砲したのがキラである証拠。

「――2……」

発砲した張本人はさして、問題ない様な無表情でカウントダウンを続ける。

これには流石のクレスも、ふざけるのを止めてぎょっとする。

再度後頭部に突き付けられた筒先は、固くて機械的に冷たく存在感を無言で主張していた。

「今の俺はめちゃくちゃ、腹の虫の居所が悪ぃーんだ……言ってる意味、わかんよな?」

眉間に深く刻まれたシワと共にゆっくりと、だけど凄みのある低いキラの声。

本人の言う通り不機嫌で、誰にも分かる程威圧的で、近寄りがたい雰囲気を放っていた。

「参った!降参だ、オレの負けぇー。大人しく持ち場に戻らせて頂きますって」

一つ手を鳴らすと、肩を竦ませて降参のポーズをとる。

わざとらしい敬語を使うクレスの態度に、キラは更に不愉快そうに目を細める。

端から見れば寧ろ鋭く睨んでいるに近い。

「ふざけ過ぎた罰としてバリバリ仕事しますよぉ〜?」

おどけた状態で、逃げる様にクレスが踵を返す。

退室しようとした擦れ違い様、クレスはキラの左肩を馴れ馴れしく叩き、何やら耳元で囁いた。

「少しは休め。体が持たねーぞ?」

囁き声が聞き取れないエイミーと冴は、やり取りが分からず只不安げに見守る。

聞き取り終えた後のキラは煩わしそうに、無言で肩に乗せられた手を払い除ける。

肩を軽く弾ませて退かす際、クレスの手にキラの手が触れるが、その手は高い熱を帯びていた。

それはまるで、余計なお世話だとでも言いたげだ。

一瞬クレスは、目をぱちくりさせたが含み笑いをしてみせて、何も返す事なく歩き始めた。

クレスが失せると、キラからは誰に向けているのかも分からない、重々しい溜息が出る。

「……はぁ」

「あ、あの……っ」

屈んだ足が小さく震える程に、恐々とした冴が声を掛ける。

キラも最初は無視しようとしたが、ふと見た足元の震えに気付き顎を使って指した。

「……足、震えてっぞ」

変わらず無表情でいるこの時、彼はてっきり己が恐いのだと思っていた。

だから彼は――。

「無理する必要はない。俺が恐いなら素直に恐いと言えばいい」

無表情の仮面は崩さないが、本人もびっくりする程に口を衝いて出た。

気付いた時には既に言い終えた後、エイミーと冴の二人は豆鉄砲を食った鳩の様な顔をしている。

「そんな間抜け面……!!」

それを見たキラが不満そうに反論しようとした。

だが、ぐらりと強い目眩が彼を襲う。

波打つ視界に気持ち悪さを感じながら、そのまま気絶をしてしまい、立ち尽くしていた体は力無く倒れ込む。

「陛下っ!?」

「キラさん!!」

――キラっ!!

薄れゆく意識の中、霞んで映し出されたのは昔発熱で倒れた彼に駆け寄った、酷く心配した記憶の中のシエルだった。

第9話  fin.


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