☆巡り逢う翼第1章☆

□第10話 孤独の王
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昔からいつだって、丈夫なこの身体には自信があった。

お陰で多少の無理も平気だったし……

崩したとしても、一晩休めば治るしどうってことなかった。

だから今回だって、ちょっと疲れが溜まっただけ。

いつもみたいに一晩寝りゃあ、また碌に休まずともやってけるさ。

だって、老いを感ずるにもまだ全然早い。

なのに何故だ……。

脳裏に蘇るシエルの顔は、どれもこれも浮かない顔ばかり。

彼奴も兄貴も昔からそうだ。

すぐ治るって分かってるくせに、俺が倒れるといつもいつもしょげた面見せて……。

シエルなんか…今にも泣きそうにしてたっけ。

強がりのシエルと澄まし屋の兄貴に、そんな間抜けた面されっと、いつも病人の俺が胸糞悪い思いして……。

さっさと治さねーとって…おちおち休んじゃいらんねーって思うんだ。

今回だって…どうせ――。











「キラさん!!」









――PHASE10 孤独の王――


















夕暮れ時――18時を指す鐘が遠くから鳴り響く。

折り重なって繰り返される透明な音は、城下町の民に時を知らせてくれる。

夕飯時でもある城内では、あちこちで賑わう声が風に乗って、遠くから聞こえてくる。

「キラさん!!キラさん!?」

昏倒したキラへ冴は慌てて駆け寄る。

言葉を掛け続けるがキラから反応は来ない。

とにかくベッドで休ませようと、脇から手を回し抱え込んで歩いた。

「し、しっかり…して下さい……!!」

半ば引き摺る形になってしまうが、何分意識を失った者の肉体は酷く重たい。

ましてや運ぼうとしているのは成人男性。

しかも、長身で無駄な脂肪もない程良い筋肉で締まった体躯の持ち主。

筋肉は脂肪より重たいのだから、華奢な冴では十数m運ぶのでも一苦労。

多少の時間を要して、なんとかして横にすることが出来た。

「はぁっ…はぁっ…重たーい……」

ベッドの隅に肘を乗せて、冴は上がった息を休ませる。

「瀧本様大丈夫ですか?申し訳ございません、私が大きければ……」

気を使うエイミーが萎れた様子でふわふわと寄って来る。

冴は額からうっすらと滲む汗を、袖口で拭い爽やかな笑みを心掛けて返す。

「気にしないで。それより、今はカレンさん達か誰か呼ばなくちゃ…!」

「そうかもしれませんが……如何様にして、カレン様をお呼びになるのですか?」

心に引っ掛かりを残すエイミーは、不安げな顔色で首を傾げる。

少し唸った後冴は出入り口の扉を指差す。

「あの扉今は開いてるんだよね?なら開けて大声を上げれば――」

「…め…ろっ…!!」

「きゃっ…!?」

提案途中で突然、ベッドに寄り掛かっていた腕を荒々しく掴まれた。

驚きのあまり両肩をバネの様に弾ませる。

そして荒い息遣いで漏れる、冴を制しようとするくぐもった声。

反射的に彼女が振り返れば、横にした筈のキラが左腕を支えに、上半身を起き上がらせていた。

右手では冴の腕をがっしりと掴んでいる。

「余計な……すんな……!!」

エイミーまでも驚愕して言葉が出せない中、額から頬へ汗を流して拒むキラ。

強めの口調だが覇気はなく、火照った頬の割には悪寒から時折震える。

一方説得力のない拒絶に、冴は苛立ち感情的に反論した。

「余計なって…そんなに顔色悪くしてるのに、放っておける訳ないでしょう!?」

キラの手を振り払おうとするが、力が強く離せない。

感情的に返されたキラも声を荒げて返す。
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