☆巡り逢う翼第1章☆
□第10話 孤独の王
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自身の体が人型になれば用事は済まされ、ラークのいる理由は無くなってしまう。
だとしても、下手な時間稼ぎも今は得策と言えない。
沈黙が長くなりそうになった時、ずっと静観の構えでいたクラットが忠告を発した。
「王子。そろそろ雑談は終いにして、皇女の体を大きくして頂けませんか?」
穏やかで柔らかいのだが、微笑が逆に威圧的で有無を言わせない雰囲気。
それらがクラットのたった一言だけで、容易く作り出される。
今逆らうには危険と判断したラークは、渋々三つ指をエイミーに向けて鳴らした。
弾ける高い音がした後エイミーを包み、淡く青白い光りが輝く。
それからして、小さき姿の時と同じ格好で平均的な身長のエイミーが姿を現す。
「やっと喋り出したんだ。瀧本はどこやったか答えろよ」
じりじりとラークの歩みがクラットへと向かう。
あと半歩前に出て手を伸ばせば、クラットの胸倉を掴める所まで詰め寄った。
鋭く睨みつけるラークを、まだまだ幼いとクラットが嘲笑う。
「ははは。王子、強硬な手段は人質の命を、危ぶむだけではありませんかね?」
「っせぇな。こっちは出来る事なら、今すぐ連れて帰りてぇのを、我慢してんだ!」
苛立たしく返すラークを見たエイミーが更に不安を募らせる。
「マスター、姫君はご無事ですから……」
怖ず怖ずと主に引き返す様視線で訴える。
だがどうせ手持ち無沙汰に引き返すならば、一目見て安心を得たいラークはやはり二人の意見に納得出来ない。
頭―かぶり―を振ったラークが、険しい面持ちで目を細めた。
「無事なら別に、瀧本と一言話してからでも良いだろ?」
「今回は王の命令です。残念ですが、王子に要望を申される権利はありません」
クラットが割り込んで、敬語を使ってはいるもののはっきりとしたノーで突き返す。
厳しく返したのに反して楽しげな目笑。
尚も食い下がろうとするラークを、クラットは次には子供を窘める様な目で一蹴する。
「魔界随一の血筋を誇る、FLAMEの正統なる王族も…惚れた女絡みじゃ形無しですか」
呆れ混じりの透き通る声で僅かに唇を曲線に描く。
言葉に似付かわしくない笑みはラークの感情を一気に高ぶらせた。
「ごちゃごちゃ、ごちゃごちゃうっせぇな!!そんだけほざいておいて、ここに彼奴がいねぇ理由も、碌に説明出来ねぇのかよっ!?」
怒りからラークの眉間には深く刻まれた皺。
感情的に走る彼は残りの間合いも詰めて、自身の身長を上回るクラットの胸倉を掴んだ。
荒々しい動作で服を掴まれ、オレンジの柔らかい髪が小さく靡く。
今にもクラットへ殴りかかりそうなラークを見たエイミーは、弾かれた球の如く主の腕目掛けて飛び出す。
そして、冴の立場を気遣った為に焦り、後先考えずに言葉を連ねた。
「稚拙な行いはお止め下さい!姫君のお側には…カレン様がいらっしゃるのですよ!?」
ずっと迷っていたのが、馬鹿馬鹿しく思えるくらい、エイミーの口は呆気なく事実を伝える。
だが、切羽詰まった表情でスラスラと言い放つものだから、ラークは信憑性があると感じて言葉を失う。
「なっ……なんでだよ?」
驚きに神経が集中し、徐々に服を鷲掴みにする手の力が緩む。
そこへ賺さず、エイミーがしがみついていたラークの腕を引っ張り、クラットと間を作った。
よろめきながらラークは後退る。
「時空の皇女様、そろそろ王子を追い返して貰おうか」
会話が一段落した所で、クラットが穏やかに口を開く。
「ですが……」
「勘違いしてもらわない為に言っておくが、君が今回すべき事はもう終わってんだよ」
茶番は終いだとでも言いたげに淡々と返す。
エイミー自身、逆の立場なら同じ事を言ったであろう。
解っているだけに、彼女は何も言い返せない。
「…っ…承知、致しましたっ……」
「おいっ!待ちやがれ!」
苦い表情で了承するエイミーに対し、まだ納得のいかないラークは我に返り声を荒げた。
外の城の敷地内のどこかからは、正午を知らせる鐘が盛大に鳴り響く。
幾度か前へ出ようとするラークの腕を、力一杯にエイミーが掴み留まるよう促す。
「このまま訳も分からず帰されてたまるかよ!!カレンは…彼奴は……っ!!」
「王子は罪と罰を超えたその先に、何があるのだと思います?」
切なげで儚げな微笑を浮かべて、クラットはいつぞやかのキラの姿と被る仕種をする。
意図の掴めない表情に、ラークは言葉も出せずに困惑の表情を浮かべた。
次の瞬間、先までエイミーの両腕には確かにあった感覚が、ふっと消え失せラークの姿も無くなっていた。
第10話 fin.