☆巡り逢う翼第1章☆

□第12話 緋色に染まりし昊天―そら―
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「会談の出席をやらせろだと?」

「ああ。今の所オレが代役を務めても特段支障はねーだろ?」

突然クレスから、二日後に出国を控えての申し出。

執務室にて必要書類に目を通し、サインを要する書類へ素早く書き記していく。

キラは顔色一つ変えずにいるが、淡々とした低い声は不快感を抱いている印象に聞こえた。

「……何企んでいやがる?」

クレスと目を合わす事もせずにキラが問い質す。

遠くからは風に乗って、演習を行う衛兵達の血気盛んな掛け声が聞こえる。

掴み所のない笑みを浮かべるクレス。

「ねーよ。単純に予定を把握してる王子なら、あの日に姫さんを取り戻しに来るだろ」

「ならてめぇが相手しろよ。望んだ炎空の王と殺り合えるなら文句ねぇだろ」

二人の遠慮のない口調飛び交う。

外の和やか雰囲気と不釣り合いな、刺々しい物言いは尚も続く。

「それも良いが、おめおめと姫さんを取り戻すのを許すのか?」

「兄貴がいてカレンがいて、お前が相手になりゃ十分阻止出来んだろ」

「せっかくのチャンスを逃すのかよ?」

丁度、最後の書類にサインを終えた時ピタリとキラの手が止まる。

クレスは長椅子に両手を後ろ手に組んで横たわっている。

無言でキラが鋭く睨むも、怯える事なくクレスは薄い笑みを見せた。

「舞台は整った。次の人生を始めるか止まったままか……決めるのはあんただぜ?」














――PHASE12 緋色に染まりし昊天―そら―――









「失礼。やぁ、久しぶりだね」

柔和な声に柔和な瞳、だがそれでいて纏う空気は冷え冷えとしている。

どこか、猛々しさを胸の奥に秘めている様にも見える。

「クラット様がいらっしゃる事は、カレン様より伺っております。如何様なご用件でしょうか?」

一致しないクラットの仕草と雰囲気にエイミーも戸惑いつつ、冷静を装い淡々とした対応で返す。

隣に立つ冴はタイミングを計れず沈黙のままになる。

「そう急かすなよ。久々の逢瀬に喜びを浸れずとも、挨拶くらい交わしても罰は当たるまい?」

「おっ…逢瀬とは恋仲の者達に使うものです!」

「はははっ。何をそんなに神経質にしているんだい?」

余裕の見られないエイミーの抗議を軽々とあしらう。

悔しいがきつく睨み付けるしか出来ない。

「人間。2、3日経てば恐らく、王子は君を助けに来るだろう」

和やかに団欒に加わり話す素振りから一転、冷笑してみせて冴を見下ろす。

室内を包み込む空気は淀んでいる。

緊迫感から冴の、額から頬を伝わって一筋の冷や汗が垂れる。

「どういう、意味…でしょうか?」

情報を与える意図が掴めず、冴は苦々しい表情で問い返した。

「王の予定を知っている王子の中で、またとないチャンスが近々あるって意味だよ」

冴を奪い返すには王のスケジュール内容は欠かせない。

だがそれは同時に、ラークだけが知る情報でない事を指している。

「そうか、ブラッドレスでの首脳会談…」

「正解。時空の皇女よ、君なら知っているだろうと思ったよ」

ハッと思い出し呟くエイミーへ、クラットは虚無感漂わせた微笑みで認める。

生気を奪われそうな微笑に、エイミーが思わず背筋をゾッとさせてしまう。

「戦いの相性が悪い弟はキラの護衛に不在…俺やクレスが相手なら、勝機を狙うだろう?」

納得出来る一方で冴には幾つか、腑に落ちない点がある。

「何故、あたし達に教えるんですか?」

最も強く抱く疑問を率直にぶつけてみた。
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