☆巡り逢う翼第1章☆
□第14話 逝きし者――残されし者
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感情を表にストレートに表現出来る生物は、身近な者が命を落とし失った時、様々な事に考えを巡らせる時がある。
――PHASE14 逝きし者――残されし者――
カレンの死後、不測の事態だという理由で冴含めラーク達は人間界に帰る事を、クレスとクラットにより許可された。
レイスはすぐ後に無言で立ち去り、以後行方不明となっている。
帰宅後天宮夫妻が温かく迎え入れてくれたが、重苦しい雰囲気から戸惑う。
エイミーは兄に主と姫を別室で休ませるよう提案を出す。
ヴィルヘルムも同じだったようで、短く首を縦に振るとラークの背中を擦りながら移動を促す。
離れた所を気配で確認してから、エイミーはエリも交えて事情の説明を始めた。
壮絶な内容に、掛ける言葉も見つからず夫妻はただ絶句するしかない。
妻の柚希は話が進むにつれて顔が青ざめてゆく。
「……以上が、事の次第にございます」
気持ちを沈ませたエイミーに続いて夫妻の一人娘が口を開いた。
「皆予想外だった事が起きて、見逃してもらった様なもの。あの時状況は不利に傾いていたもの」
「そのカレンさんという人の、命と引き換えに助かったのかもしれない…複雑になるね」
各々の複雑な心情を慮る柚希が言葉を紡ぐ。
誰かの一つしかない命と、引き換えてでなければ成功しなかったのか?
そう考えるだけでエリは悔しくて堪らない。
腰を下ろし膝に乗せる手で、拳を作り強い悔しさを表す。
「今夜は皆一際疲れただろう?夏休みも残りそう長くない、君達はもう休みなさい」
瑛志が優しく勧めるも、二人とも中々二つ返事とはいかない。
エイミーに至っては、主人を差し置いて休養するなどとても出来ない様子。
少し肩を竦めた瑛志が柔和に目を細める。
「話しぶりからして、君もその女性と気心の知れた仲なのだろう?」
「我がマスター程ではございませんが……」
「なら、あまり根を詰めないことさ。君の為にも、ご主人であるラーク君の為にも…」
穏やかに諭され、エイミーは渋々1階の和室で休む事にする。
自室を冴に貸しているためエリもここで体を休める事にした。
両親も寝室に戻り和室にて二人分の布団を敷いた頃、不意にエリが問い掛ける。
「ねぇ、エイミーさん。私達……何を間違えたのかな?」
敷き終えた掛け布団のカバーをエリは悔しそうに握る。
「私達はただ、大切な人を取り返そうとしただけ……ただそれだけで、レイスって人にあんな顔させるつもりなかったのに……」
瑠璃色調の暗い深海に沈められた様で息苦しい。
エイミーも同じ心境なのか似た表情を浮かべている。
「申し訳ございません。私にもそればかりが悔やまれてなりません…」
華やいだあの笑顔をもう見れないと思うと、今にもエイミーの心は苦しさに押し潰されてしまいそう。
心苦しくて堪らないと感じた途端、ふとエイミーの瞳から大きな雫が零れた。
それはぽたりと彼女の手の甲に落ちて輪郭を伝う。
音もなく伝う温もりに、瞳が濃い橙色のつぶらな目を丸くさせた。
「えっ…?」
100年近く生きてきて味わった事のない経験にエイミーは戸惑う。
カバーをピンと張ろうとしていた両手は、驚きと戸惑いから強張る。
恐る恐るといった様子で右手を右頬へ持っていく。
「エイミーさん……?」
突然泣き出すものだから、流石にエリもおどおどしていた。
落ち着きなくキョロキョロしてから、脱衣所に向かいそこからタオルを持って来る。