☆巡り逢う翼第1章☆

□第16話 望まざる覚醒
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――PHASE16 望まざる覚醒――







「ふはは……クラッシュ・コールド」

乾いた薄笑いが二人の耳に飛び込んだ瞬間、何かが凍り付く擘く様な高音が響いた。

冴は戦々恐々とする心境を奮い立たせ、ゆっくり閉ざした瞼を開いてみる。

その藍色の瞳に映される焦茶色の柔らかい髪。

「……嘘っ…夢じゃ、ない…よね…?」

喜びのあまり声は上擦り、震えて上手く紡げない。

エリも嬉々として目を涙ぐませていた。

"鳥籠"に幽閉されていた頃程の再会でもないのに、抱き締めたい衝動は抑えきれない。

彼の背後から腕を回す形で冴は抱き付いた。

だが返されてきた反応は、異様で禍々しい雰囲気が不気味に漂っていた。

込み上げる笑いを堪える様に、彼は全身を微かに震わせる。

「くっ…クスクス…くくっ……」

色鮮やかな深紅の軍服を纏い、詰まらせた笑い声を漏らす。

場違いな笑いを浮かべる彼は今、彼であって彼ではない事に等しい。

「ら…ラーク…?」

直感的に空恐ろしく感じた冴は少し離れる。

軽薄な冷笑を浮かべる彼は、漸く落ち着きを取り戻すと変わらぬ表情で振り返った。

細められる冷え冷えとした瞳は、まだ酸いも甘いも区別出来ない幼気な10代の、少女二人を冷酷に映す。

そして姿形はラークなのに、明らかにラークでない口振りが二人を強張らせた。

「クスクス…このオレ様を臆病者の名で呼ぶなよ…反吐が出そうダゼ」

漂わす敵意に気圧され冴達は息を呑む。

肉体の主を"臆病者"と蔑称する彼が、わざとらしく思考する素振りを見せる。

「ふーむ、そーだな…あぁ!ルース…ルース・テネブラエ=クルエルってのはどうだ?」

おどけた口調はエリを不快にさせるが、彼が纏う雰囲気が反論を許さない。

対するルースは意に介さない様子で狂気めいた微笑を返す。

「まぁ不本意だが、これはここの王とその下僕が考えたんだがな…中々悪くない」

皮肉を込めた名前に、けたけたと軽笑を零した。

「……ラークはどこ」

冴にしては低く怒りを露にしている。

少なくとも、彼をラークとは一応別人格と認識しているらしい。

「貴方じゃない。ラークに逢わせて、あの人を…返してよ」

強気に言い切る佇まいは普段、エリが見せる様子である。

僅かに眉根に皺が刻まれ、敵意と怒りが剥き出しなのは明らか。

だが、高が小娘の圧力に屈する筈もなく――……。

「アハハハっ…!!」

地響きと間違えそうな砲声を傍らに、冷めた薄ら笑いだけが繰り返された。

余程笑いの壺に入ったのだろうか、腹を抱えて涙目で哄笑を浮かべる。

笑われる謂われのない冴は眦―まなじり―を釣り上げる。

「フフッ…ハハハ……最、高。オレ様そんなに悪者扱いっすかー?」

「貴方は彼を"臆病者"と言った。そんな人が、彼を護ってくれる筈なんかない」

敵対心募らせる冴を、爆笑で滲む涙を拭いながら見詰めた。

藍色と焦茶色の瞳が、対照的な感情を含ませてぶつかり合う。

「じゃぁ、純情なお嬢さんに問題だ」

絶えず嗤笑を浮かべ、有無を言わさぬ雰囲気で続ける。

「そも、何故オレ様は"作られた"?」

「えっ…?」

冴とエリは思わず愕然としてしまった。

どことなく、ルースの嘲笑が自嘲的に映ってしまったから――……。
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