☆巡り逢う翼第1章☆

□第16話 望まざる覚醒
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「別に、構やしねぇよ。どうせ……」

中途半端に台詞が止まると鋭い瞳で後ろへ振り返る。

ほぼ同時に腰に差した剣を抜き振り翳す。

片手では重たそうな剣を易々と持ち上げたのにも驚くが、それ以上にエリは牙を向いた相手に愕然とした。

「こうなんだからな!」

「冴っ!?」

流石に力勝負では、如何ともし難い差があり難無くキラは振り切る。

冴も分かっているらしく、空中回転しながら後退する。

キラ以外事態が飲み込めずにいた。

「シエルも昔、同じ様な暴走を起こした事があった。魔力がシエルを喰らおうとしたのさ」

言葉を失うレイス達を横目に、ルースが興味深げに口笛を鳴らす。

キラはそれ以上語らず無言で、間髪入れずに襲い掛かる冴の相手を務める。

「冥天と同じ容姿に同じ声、そして似た遺伝子構造…中々面白そうじゃねーの?」

「あんたってホンット、性格曲がってる」

心底鬱陶しそうに睨み付けたエリが、酷評するも当人は全く気にしない。

ルース本人としては一般的な生まれ方をしていない時点で、真っ直ぐでいられるとは思っていないからだ。

「君達、止めるんだ。今はいがみ合っている場合じゃないだろ?」

俄かに苛立ちを見せたレイスが、静かに二人を制した直後、まさかの出来事が起こる。

戦闘経験者のキラが、初心者――しかも女の子に一本取られたのだ。

「魔王様っ!!今お助け――……」

「来んじゃねぇ!!」

丸腰で尻餅をつかせた主君を、見かねてレイスが駆け付けようとするが拒まれる。

「で、ですがっ…」

真意が汲めないレイスは焦りを見せる。

その隣でルースが、見極めるべく怜悧な瞳を向けていた。

「今のこいつを、まだ人間の女だと思ってんなら、甘いお前には手に余る相手だ」

前へ顔を向けたままレイスへと警告を発す。

冴が手にしていた武器を、くるりと回転させると狙いをキラへと定める。

「あれは…」

人間の幼気な少女が手にするには余りにも不釣り合いな殺害の道具。

鉛色をした鋭利な菱形のそれに、レイスは見覚えを感じた。

超近距離武器を手に突き付けられた、キラと冴の立ち位置にも酷く覚えがある。

腕を組むルースが彼の困惑する姿をじっと見詰める。

「そうだ!」

「えっ?な、何が?」

思い出せた頃には、驚愕と混乱した様子で睨み合う二人を見遣った。

脈絡の掴めないエリは、頭にひたすらクエスチョンマークを浮かべる。

説明を要求する視線に気付いたレイスは焦りを露にして口を開く。

「人間界に来る前、僕が鬼天と戦った時…奴はあれを使っていたんだ!」


「……苦無―くない―…って、知ってるか…?」

「これが電気も無い遥か昔…接近戦及び飛び道具として、主に日本の暗殺世界で使われていたという苦無さ」

「……そう、これが俺のメインウェポン…それが何を指すのか……もうわかるな?」


忘れもしない、最も死を予感した瞬間の1つと言えるあの日。

殺戮をゲームと称し、自らを傍観者であり彼の言う所のゲームを、より楽しくさせる為に掻き乱す者とも表した男。

「彼が主に使う武器をなんで瀧本がっ…いや、シエルが知っているんだ!?」

「シエルさん?なんでっ…ちょっと、それどうゆうことよ!?」

何故冴としてではなくシエルとしてなのか、彼女には全く分からない。

苛立ちから若干声を荒げて掴み掛かる。

「瀧本の魔力は本来封じられていた筈だ。何より、彼女が戦闘の知識を持っている訳がないでしょう?」

確かに冴が戦闘を知っている筈がない。

そもそも、喧嘩という喧嘩すら彼女はした事がないのだから。

「そ、それは、そうだけど…」

尤もな説得力に圧され言い淀む。

レイスは焦燥感を漂わせて苦々しく前方を見据えた。

「ベリアル召喚といい、今の戦い方といい…あれは、シエルとしての動き方だよ」



第16話  fin.


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