☆巡り逢う翼第1章☆

□第19話 新しき明日
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"和を以て貴しと為す"



知っている人は知っているだろう。

協調性を時には重んじ尊び、時には過剰解釈に因り個性を潰えさせてしまう諺――慣用句といった方が正しいだろうか。

一見……美的に感じるかもしれない。

いや、実際必要な精神ではあろう。

だが一歩間違えば人を縛り、封じ込め…望みし先へ繋がらない事もざらにある。




















――PHASE19 新しき明日――




















「命に代えて誓ってもいい。俺がこの体の血を流す時は、この国と民を守る時だ」

この時ラークは漸くキラの本心を聞けた気がした。

どうしても、近寄る事を許さない雰囲気があり、言葉に信憑性が得られなかった。

今となってはそれが憎悪からくる拒絶だとよく分かる。

故にこうして本音を聞けた事は喜ばしい。

「俺は俺の戦場で…てめぇはてめぇの戦場で、護りたいものを護れ。ダーク」

戦えではなく護れ――。

結局は護る為に戦うのだろうが"護れ"という言葉に深い感銘を受ける。

「――敬愛する陛下の得物を頂けるとは、人生最高の誉れにございます」

ラーク自らキラに近寄るとその場に跪く。

片膝を着き右手を左胸に軽く添える。

指先迄行き届いた所作で頭―こうべ―を垂らし、恭しく素直に礼を述べた。

粗暴な言葉遣いの普段からは想像し難い、気品溢れる佇まいに冴は目を奪われる。

気高き立ち振る舞いは、軍人としても王族としても美しく見える。

頭を下げたままの、ラークの口元には喜びの靨が作られていた。

「ダーク、てめぇはFLAME国最後の正統なる王族だ。たとえ、禁忌の混血であってもな…」

王の言葉はレイスの表情を強張らせる。

「これからも、国の為…民の為に尽力する事……期待してるぞ」

未来を感じさせる確かな台詞に、レイスもラークも瞠然としていて言葉もない。

ラークに至っては弾かれた球の如く素早く顔を上げていた。

しかもキラがすぐ不機嫌そうに戻れば、間髪入れずに棍棒をぞんざいに投げ渡す。

「ふんっ…さっさと受け取れ。俺の手を煩わせんな」

「えっ…わ、わわっ!?」

慌てて反射的に手を差し出した事に因って、かろうじて受け止める事が出来た。

そしてこの不可思議な状況を漸く訝る。

真っ先に抱いた疑問は、これだけ勢揃いにも拘わらずいるべき少女がいない異常。

「つか…金髪娘……もう一人の女はどうした」

度々話が逸れてしまう現状に溜息を漏らしたレイスに代わり、なんとクラットが答えた。

「アンカース家の今後を占う為に少し協力してもらって、身を潜めてもらっているんだよ」

悪怯れる素振りもなくケロッとしている。

面倒事でも起こした様に呆れ顔で振り向く。

重たく息を吐けばキラはクラットを急かす。

「行くぞ、橙天。さっさとしろ」

「まっ…待って下さい!魔王様!!」

はらりと衣服を翻した王を、呼び止めたレイスの顔付きは焦燥しきっていた。

「我が一族と彼女は無関係です!お願いですから、魔王様からも解放を――……」

「レイス」

部下の懇願を遮り窘める様な目を向ける。

意図が分からずレイスも困惑を隠しきれない。

ラークだけが言いたい事が理解出来たのか渋い顔をする。

「単なる無関係者なら誰でもいいだろ。なら…何故態々あの女だと思う?」

「それは…!手っ取り早く、しかも彼女が人間だから……!!」

「二度も同じ事言わせんな。誰でも…人間でも構わねーなら、何故瀧本じゃない?」

虚を衝かれ返答に困り吃ってしまう。

対してこれ以上は、手掛かりとなってしまうと判断したクラットが割り込む。

「陛下よ。傷み入りますが部下への叱咤激励は、それぐらいに致しませんか?」

能面を貼り付けた様な嘘臭い微笑を浮かべて、嫌味たらしい敬語で退室を暗に促す。

確信犯ともいえる言動が癪に障りキラが舌打ちをした。

忌々しげに短く溜息を吐き不機嫌な様子で立ち去っていく。

それに続けてほくそ笑んだままクラットが出て行った。

また、彼がいなくなった事でエリの捜索が開始された。
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