☆巡り逢う翼第1章☆

□第17話 迷路内での奇跡
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――PHASE17 迷路内での奇跡――






「ベリアル召喚といい、今の戦い方といい…あれは、シエルとしての動き方だよ」

変わらず睨み合って対峙する冴とキラを、レイスは気を揉む様な視線で見遣る。

「そんな、嘘っ…」

愕然としてそれ以上言葉を発しようとしないエリが立ち尽くす。

そんな彼女を横目にレイスは苦悶した表情で口を紡いだ。

「もし冥天としてなら…いくら魔王様でも、分が悪過ぎる」

「それって…殺されちゃうかもってこと!?」

「肉体的にはド素人の瀧本だから、いくらなんでも流石にその心配には及ばないとは思うけど…」

シエルの実力が計り知れないだけに、確信が得られずレイスは返答に困り黙ってしまう。

安心材料の得られなかったエリも只々、ハラハラしながら見守るしか出来ない。

「なんだ女、力に呑まれやがって…あん時鳥籠で、啖呵切った気概はどうした?」

余裕の微笑を浮かべて冴に挑発をかける。

だが返されたのは無言だけで何もない。

もう何一つ心に届かないのか、説得を諦めた王はフッと嘲りを漏らす。

「布切れ1枚でこの俺に意見する根性、ダークに逢いたいならもっと抗ってみせろ!!」

彼が豪胆に言い切った直後、勢い良く苦無が冴から手放された。

無意識下で"ダーク"というキラの台詞が冴の指先を微かに鈍らせる。

既の所で投擲された武器を躱すと、体勢が整う前に反撃に転じた。

「避けたっ!?」

1秒以下の領域での違いにエリが素直に驚く。

この際キラは冴の動作をシエルの癖を参考に予測する。

思った通りでか、間合いを取ろうと冴は飛び退こうとした。

「バカか!!やることなすこと、シエルとダブらせやがって、お見通しなんだよ!!」

頭の捻り――所謂応用力が足りない、と言いたげに荒々しく左腕を鷲掴む。

空いた右手でナイフを繰り出し突き刺そうとする。

だがキラが同じく空いた片手で、腕を掴んで防がれてしまう。

「女てめぇ、順序間違えてんじゃねぇぞ?」

ほんの僅かに顳付近を青筋立たせ睨み付ける様は、とてもではないが女相手とは思えない程恐ろしい。

至近距離でこうも睨まれては、冴が正気であったなら足が竦む所だろう。

というより、この睨みにけろりとしていられる者の方が少ない。

叱りつける様にしてキラは声を張り上げた。

「力っつーのはなぁ!?てめぇが呑み込むもんで、まかり間違ってもてめぇが呑まれるもんじゃねぇんだっ!!」

ここでもまた、誰も気付かないながらに無意識下で冴がピクリと反応を示す。

断固たる覚悟を抱いた瞳で、弾みをつかせてから彼が足元を蹴り上げる。

同時にナイフを奪うのもしかと忘れない。

「王たるこの俺の言葉を胸に刻んで眠れ!」

場数を踏んでいるだけあって、体に染み付いた動作は隙が少なく伊達ではないのだ。

倒れ込む間際にキラは腰を落とすと、鳩尾を見事に殴りつけて冴を再度気絶させた。

十数分足らずだが濃密な一戦は漸く一段落を迎える。

「ふぅっ…」

一先ず安堵感を滲ませるレイスが小さな息を吐く。

対してキラは手で、正装された服の埃を払ったり皺を直す。

「魔王様、本来私がお守りしなければならないというのに…失態お詫び申し上げます」

心底申し訳なさそうにしてレイスが深々と頭を下げる。

彼を視界の隅で確認しながら視線は脂汗を滲ませる冴に移される。

ただこうして眠っている姿を見れば、鳥籠に閉じ込めていた時同様に、さほど脅威は感じられない。
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