☆巡り逢う翼第1章☆
□第18話 アルフレッドハイネケン
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数多く存在する花の中には花言葉という、それぞれ意味を持ち合わせていたりする。
理由には語呂合わせ等諸説あるが、贈り物をする習慣のある人類には都合が良い。
黄色いチューリップの花言葉を、今この言葉を見たあなたは知っているだろうか?
それは……"叶わぬ恋"……である。
――PHASE18 アルフレッドハイネケン――
「…あ゛ー……先ずは、何が確認取れた?」
実に気まずそうに、曖昧な苦笑いを浮かべてレイスはシヴァに、詳細の報告を求める。
若干顔が引き攣っていて頭を抱えている。
「隠密部隊の配置30%の増加と、人間界への転移が以前より20%増しました」
「予算は……って、そこは流石に無理かな」
問い掛けようとした所で、レイス自身無理だと判断して諦めた。
彼女はボタンは全て閉じられた襟を几帳面に整え、袖無しで無地の群青色をした上着の皺を綺麗に伸ばす。
チャイナドレスと似たデザインのそれは、サイドにスリットが入っていて、前後の丈は股下20cm程あり長い。
上着と同じ色と布地で使われたズボンで脚長な足は隠されている。
「恐らくは、遅かれ早かれ何かしらの行動を、取られるのは間違いないかと…」
一息吐いてから、彼女は何気なく倒れたままの椅子を直しに向かう。
"シヴァ・クルセイダー"――。
レイスが最も新しく契約を交わした、氷の属性を司る使い魔である。
属性からも頷ける程に日頃から、冷静沈着で淡々としている。
嗜好が似ている使い魔を挙げるなら、属性は真逆だがヴィルヘルムが妥当な所だろう。
そんな彼女が何故、突如として姿を現したのかというと――。
海上での一戦から暫くして、レイスは密かに隣国や海上艦隊の様子を調べさせていた。
「大人しくしていてくれたら良いのに…全く、随分と血の気の多い皇帝様だね」
「その件にございますが…」
皮肉をたっぷりと含ませた物言いのレイスが両肩を竦める。
対してシヴァが何やら言い難そうにして口ごもる。
主が訝しげに問おうとした時、エリがいる筈の浴室から大きな物音がした。
「天宮っ!?」
異変に気付いたレイスは、会話も中断して一目散に駆け出す。
乱暴に扉を開け真っ直ぐに目的の場所へと向かう。
「天宮!大丈夫!?」
バンという大きな音を立てて脱衣場の扉を開けば、眼下には桃色の下着姿で怯え震えるエリがいた。
「はっ…あ…あ……」
両手で左右の耳を塞ぎ、不規則な呼吸で全身縮こまっている。
混乱状態に陥っているらしく、レイスの存在に気付いている様子はみられない。
躊躇いがちにレイスが肩へ手を伸ばすが、ほんの僅かに触れただけで大きくびくつく。
息を極端に吸い込む音のない悲鳴で漸く顔が上げられる。
弾かれた球の如く上げられた表情からは、恐怖感で怯えきっていて、目を赤く泣き腫らしていた。
「どうしたんだい!?何があったの!?」
直ぐ様レイスは身につけていた、やや厚手の白い半袖のYシャツのボタンを外す。
手早く脱いでエリを気遣いそっと羽織らせた。
焦燥感を剥き出しにするレイスも戸惑いを隠せない。
「そっ……外に……」
開けっ放しにされた浴室の奥にある小窓を、力無い声を振り絞り震わせながら指差す。
素早い動作でレイスは網越しに小窓を開ける。
直後に雷鳴が轟いて思わずエリは小さな悲鳴を漏らす。