☆巡り逢う翼第1章☆

□第18話 アルフレッドハイネケン
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胸の中で痼―しこ―りとなってつっかえている。

その理由は偶然かレイスの口から、冗談めかしく皮肉混じりに明かされた。

「差し詰め結果的に裏切り者に組した以上、魔界には戻ってくるなって事かなー?」

雰囲気を壊すまいと気遣い、アルト調の軽やかな笑い声がエリの頭上から降り注ぐ。

それが余計、虚しさを強調させてしまい痛々しい。

ここはノリに合わせて返すべきか、励ますべきなのか――どう返したら良いのか分からず、エリは振り返る事も出来ないでいた。

「あ、あんたは…それで良いの?」

複雑な心境に口調も語気を強めたものとなる。

「自分の故郷―ふるさと―に帰れなくなっても…平気だっていう訳?」

エリを包み込む様に膝を曲げフローリングに座り込んでいる、彼のズボンの布地をぎゅっと握り締める。

それでもレイスの方へ向こうとはしない。

否、とてもではないが今のエリに斯様な余裕はなく、出来ずにいるのだ。

一方のレイスは、こんなにも自身の心配をされるとは思っておらず喜ばしい。

「クスッ……嘘だよ。君があまりにも、素直で可愛い反応を見せるんだもん」

今暫くエリをからかってやりたい欲に駆られるが、流石に可哀想で申し訳ない。

堪える様に微笑を漏らして種明かしをする。

エリの方はというと、いまいち状況が飲み込めずキョトンとしている。

「任務は本当だけど、別に国外追放になった訳じゃないから大丈夫だよ」

「あんた……私をからかったのね?」

次第に怒りが込み上げてきたらしく、わなわなと肩を震わせていた。

次の瞬間、レイスの返事を待たずして勢いよく振り返り胸倉を掴む。

頬を紅潮させ石榴色の真っ赤な瞳は、高ぶる感情から涙で潤んでいる。

口元は悔しげにへの字に歪ませていた。

「レイスの意地悪っ!腹黒!鬼畜!ドS!!」

思い浮かぶだけの言葉を並べてひたすら罵倒を繰り返す。

力無く何度となくレイスの胸元を叩く。

「ドSはなんか違う気がするし、鬼畜は酷いなぁ〜…いたっ!?」

苦笑しながら人差し指で頬を掻いていると、今度は拳骨をお見舞いされてしまう。

エリは顔を怒りで真っ赤にさせて立ち上がる。

「バカ!本気で心配したんだからね!?」

ぷいと拗ねた様子で室内の明かりを点ける。

それにはレイスも罪悪感を拭えない。

謝罪と合わせて、本気で心配してもらえた喜びを素直に伝えた。

「ごめんよ。なんだか心配してもらえて嬉しくてね…でも少しふざけ過ぎた」

苛立ちを滲ませた足音で乱暴にソファに座り込む。

「ちっとも少しじゃないわよ。バカ…」

むすっとしたままで、近寄ってきたレイスと目を合わせようとしない。

眉尻を落とした彼は肩を観念した様に竦ませる。

「困ったねぇ。どうしたら許してもらえるかな?」

わざとらしく萎れた素振りをみせてエリに良心の呵責を誘う。

案の定、体を僅かに後ろへと動かし言葉を詰まらせる。

「…あんたも人間界に行くのよね?」

まだ怒りが収まらない口調でぼそぼそと呟く。

「うん、ダークの補佐をするのが僕の仕事だからね」

「その間どこで過ごすのよ」

「うーん、まだ決めていないけど…どこかを取るしかないよね」

一体どうやって住処を得るのかエリには想像も出来ない。

同時に心中には、漠然と寄り添ってくれる誰かを、求めている自分に気付く。

自然とそれは利害一致という形で発案をさせた。

「じゃぁ……今迄通り、私ん家にいればいいじゃない」

「え?」

「そうしたらラークのすぐ近くだし、手間が省けて一石二鳥だと思わない?」

突然の提案にレイスも戸惑いを隠せない。

凝然としてその場に立ち尽くす。

それから話題がやっと振り出しに戻された。

「それに、私の傍にいてくれるんでしょ?それなら別に許してあげなくもないわ」

意図せずに彼と視線が合うと、エリは照れくさそうにして外方を向く。

その捻くれ者というか、素直でない反応がまたレイスに可愛らしく思わせた。

第18話  fin.


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