☆巡り逢う翼第1章☆

□第18話―α エリュシオン
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――PHASE18―α エリュシオン――








レイス達やラーク達が、大人しく事実上の軟禁に甘んじていた頃、FLAME国閣内では騒然としていた。

この国の魔王陛下が一つ大きな変化を示したからだ。

それは政治と比べれば、なんでもない程どうでもよく何にも支障を来さない。

只16年間の不変が、何の前触れもなく起きた激変に戸惑いを禁じ得ないのだろう。

ざわめき立つ周囲をキラは呆れを込めた溜息で見詰める。

たが、普段より些か落ち着かない心境は彼も同じだった。

「騒がしい。さっさと今朝の閣議を始めろ」

冷酷な王の一喝に因り室内は静まり返って、それからは普段通りの会議が始められた。

今日はこれという会談も面会もない為、キラは公邸にて執務を行う事にする。

王座に就いた者が、目を通さなければならない事案は膨大である。

全てに承諾のサインをするには1日は掛かってしまう。

時折彼はこうして、誰も邪魔が入らない公邸で、集中して一気に片付けるのだ。

そう、普段ならば邪魔はそう滅多矢鱈に入らない。

「おいおい鋼鈴、影武者やってるオレの身にもなってくれよ!」

「……っるせー」

集中して仕事をしたい主の意図を汲み取り、いつもなら大人しいクレスが不満気に現れる。

漫画の様にキラの顔に記号を付けるなら、頭上に怒りマークが付いている事だろう。

苛立たしげに頬杖をついている。

「うるせーも何も、お前の髪型!!オレも合わせなくちゃならねーんだぞ」

口を尖らせて主人の眩い金髪を指差す。

背中迄垂らされていた、金色の髪はばっさりと消え失せて襟足迄切られていた。

20cm近くカットされていて、首元もすっきりしている。

事前報告もなく突然だったのか、クレスはまだ先日迄のキラの髪型のままだった。

「ごちゃごちゃ、るっせーなぁ…気分転換だ」

面倒臭そうに手を扇いで払い退ける仕種をみせる。

それに対して、クレスが長髪を高く一つに結い上げながら一蹴した。

「嘘だな。気分転換なんて沢山あるし、冥天の嬢ちゃんが逝ってから、後ろ髪だけは一度だって切ろうとはしなかったろ」

何もかも全部お見通しだ――そう言いたそうに一瞥する。

クレスの腕を組む立ち振る舞いが、キラにはまるでふんぞり返っている様に映る。

舌打ちを漏らしてから盛大な溜息を吐く。

「……気分を変えるって意味じゃ、一種のけじめも同じだろな」

何に対するけじめなのか大凡の見当はクレスもついている。

それでも改めて、キラ自身の口から直接聞き出したかった。

真冬の朝日が書斎の窓から差し込む。

「奴を…ダークを憎むのは止めた。シエルはもう戻らない…とっくにわかりきってた事だ」

輝かしい陽の光程ではないが、キラの表情は清々しく晴れやかである。

先ずそれだけの変化でもクレスを驚かす。

「すぐに恨みは消えねーと思ってたが…案外、吹っ切れりゃそうでもねーな」

「鋼鈴、髪を切ったのは……」

「言ったろ?"全てを終わらせる"と」

「俺は…全てを終わらせる」

封印された惨劇の屋敷で義弟に真実を明かした時、確かにキラは実兄の問いにそう答えていた。

彼が選択した道は、復讐の達成でもなく過去との決別でも贖罪でもない――。

「私怨にはもう走らない。王務に専念する」

臣下や民を未来へ導く為に余生を費やすという、全く新しい選択肢だった。
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