☆巡り逢う翼第1章☆

□第19.5話 perplexity
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そして所変わってBLOODLESS帝国――。

国内北東部の国境沿いで村の地主が所有する、屋敷の一室にて密やかな会議が開かれていた。

「各国の皆々様。此度はご多忙な中お集まり頂きまして、誠にありがとうございます」

司会者の如き口振りに話すのは茶髪紅眼の青年――全知全能の天使・鬼天の姿。

丁寧な口調に劣らず指先迄行き届いた一礼を深々と行う。

対する横長のテーブルを囲む様に、15人程の男達は座り一様に強張らせた口を噤む。

「来るべき天誅を下さんとした日が間近に迫って参りました。さて、本題より前にそこで私より皆様方にご提案がございます」

鬼天が席に着き口を開くとざわめきだす。

自然体でありながら、貼り付けられた様な微笑に空恐ろしさを拭えない。

「約束されし勝利の前に我等、同志たらんという杯の誓いをたてませんか?」

「その前に総隊長殿。立案者たる貴国の皇帝陛下は、馳せ参じて下さらぬのですか?」

一人の男が意を決して、戦々恐々とする心を奮い立たせて問い質した。

「陛下が参られて下されば、我等同盟国と致しましても士気が上がるというものです」

丁寧な言葉遣いとは裏腹に纏う雰囲気は刺々しい。

だが鬼天はそれ以上に鋭利な殺気を、変わらぬ微笑を湛えたままちらつかせていた。

それはこの場にいる誰もが恐れ避けたかった表情だった。

「皆様方のご主人様と同じく、我が皇帝陛下も多忙につきご理解頂ければと存じます」

「…ならば早々に本題といきましょう。総隊長殿もお早く報告したくございませんか?」

先程の男より些か年を重ねた別の男が、挙手をしてから言葉を続ける。

他の者同様戦いている様子はあるものの口振りは至って普通だ。

鬼天も争う意思がない事を示すべくここは彼に合わせる。

「そうですね。では1ヶ月後となりました、コード08について最終確認と致します」

皆が強張りシンと静まり返る中鬼天だけが妖しく微笑んでいる。

落ち着き払って話す様が余計に恐ろしい。

「……――で以上にございます。何か異論反論、ご質問はございますか?」

一通り説明を済ませると出席者の顔を見渡す。

暫時静寂が続いた後最も狂気じみた雰囲気を纏う男が問い掛ける。

「くくっ…自分達の担当エリアならば、どれだけ刻んでも良いんですよね?」

口元を長めの裾で覆ってはいるが、微かな笑い声と悍ましく歪む唇が隠せていない。

彼に誰もが不気味さに、背筋が凍る思いを禁じ得ないこの場で鬼天のみ平然と答える。

「ええ、勿論。各々担います区域での行為に、干渉しないのもまた…条件ですから」

「くくっ……それを聞いて安心しました」

喉を詰まらせ粘着質な笑い声を零せば、周囲は益々表情を強張らせる。

それから幾つかの質疑応答を重ねた後息を潜めた会議は終わりを告げる。

鬼天は護衛とは別に、直属の隠密部隊に各国の使者を尾行させて仕事部屋に戻った。

「遅いぞ!主人を待たせる執事等聞いた事がないっ」

扉の施錠を確認すると間を空かずして不満そうな中性的な声が届く。

鬼天の方はというと、特に驚く様子もなく歩きながら肩を竦めた。

「これはこれは。よもや陛下が参られるとは…存じ上げぬとはいえ申し訳ありません」

声音は申し訳なさげにはしているが浮かべる笑みは柔らかい。

落ち着いた振る舞いで机上の書類を何枚か纏めてソファに腰を下ろす。

「それで如何なされましたか。何か訊きたいのでありましょう?」

まるで心を見透かしている彼の口振りに頬を紅潮させてしまう。

真っ白で柔らかな肌を漆黒で艶やかな髪が擽る。

陛下――黒髪の君は立ち上がると鬼天に近付き背後から腕を回した。

人懐っこい仕種は密かに鬼天の心をときめかせる。

「一応は協定を主導的に破るのだ。失敗や隙は許されぬぞ?」

抱き付く形となる中頬をぴたりと付けてきて柔肌が彼の頬と合わさる。

自身の肌とは明らかに違う感触は心地良い。

「御望みとあらば、鬼と呼ばれし我が力……篤と御覧に入れましょう」

手を後ろに回して愛おしげに黒髪を梳かす。

首の向きを変えると至近距離で互いの視線がぶつかり合う。

暫く見詰めあえばどちらからともなく交わされた口付け。

それは次第に激しく、そして深くなっていった。



 ――さぁ、せいぜい泣き喚け

俺はてめぇ等の阿鼻叫喚を一刻も早く、聞きたくて聞きたくて堪らねぇんだ

憎悪に穢れきって沈んだ心を蠢く衝動が疼く

謂われない屈辱と嘲笑を受ける日々幾星霜重ね経て、ずっと待ち望んでいたんだ…!

この腐りきった世界に俺という悪しき恐怖を刻み込んでやる

絶対に……この命尽き果てる前にっ!!!




第11話  fin.


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