☆巡り逢う翼第1章☆

□第3話 愛憎、そして……
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「ねぇっ!あなたがラーク君?」

「それとも…貴方の様に、自分を殺してくれる相手を求ないと…ダメなの?」

「ラーク、私は信じてるから。貴方とまた逢える日を……」

「わたしはこの国を…魔王様をお護りしたい。でも、貴方を護りたくもあるから…」





始めは懐かしいだけの過去。


でも今は、それだけでは済まなくなっていた。


憎い…痛い…苦しい……。


それでも、嫌いになれず…"愛しさ"が消えることはなかった……。


だけどソレがかえって、どろどろとした醜い感情を膨らませてしまう。


なんて残酷な愛情。


なんて滑稽で醜い憎悪。




















――PHASE3 愛憎、そして……――
















まるで地獄に堕ちるのではないかの様に、暗く深い大きな穴が背後に生まれていた。

拘束をかけられたままの冴は、成す術も無く穴へ落ち始める。

それを食い止めようと、ラークは焦燥感を剥き出しに、彼女の許へ向かう。

レイスはその光景をスローモーションの様に、暗い瞳でぼんやりと見詰めていた。

しかし、親友の呻き声を耳にし我に返る。

「くっ…!!」

穴へゆっくり近付くと地面に掴まる手が見え、そこには左手のみで2人分の重みを支えているラークがいた。

流石のラークもつらいのか、苦痛に整った顔を歪ませる。

そしてレイスが視線を右に移すと、気絶した冴の姿があった。

女だったのは幸いだが気絶した人間の全体重を右手で支えるには、限界があることをレイスは気付いていた。

「…つらいんでしょ?なら…その人間落とせば楽だよ?」

「ふざけんな!誰が離すかよ…!!」

ラークは精一杯にレイスを睨みつけるが、それがかえってレイスの憎悪感を膨らませてしまう。

レイスは暫く無言でいると、ラークを蔑んだ瞳で嘲笑った。

親友の暗く重い微笑みに、初めてラークは戦慄の恐怖を覚える。

「あはは…ダーク、不様だねぇ?」

レイスは魔法で小さなナイフを繰り出すと、勢いよくラークの左手の甲へ突き刺した。

表情は依然として、微笑んだままだった。

「うあー!!」

痛みに耐え切れず、ラークは悲鳴をあげる。

ラークの悲鳴も無視しレイスはしゃがみ込み、突き刺さったナイフへ手を伸ばす。

「ねぇ…痛い…?」

人差し指をナイフの柄に乗せ、ラークに問い質した。

しかし、今のラークには問いに答える余裕は無かった。

「返答無し?僕達の痛みは…苦しみは、こんなもんじゃないよ!?」

憎しみで怒る今のレイスには、親友を想う面影は微塵も無くなっていた。

「許さない…ダークなんか…!!」

彼の中で何かに意を決したのか、ナイフの柄を力強く握り締める。

対してラークは今の親友が何をするのか、掠れ気味の意識の中皆目見当がつかなかった。

するとレイスはナイフにゆっくり回転をかけ、えぐる様に力強く動かしだす。

突然の今までにない強烈な痛みが、ラークを強制的に意識を現実に連れ戻す。

赤ん坊の泣き声とも呻きと悲鳴が入り混じった声ともとれる、なんとも言えない声がラークから生まれ続けた。

「早くしないと、手が使い物にならなくなるよ!?」

口では気にかけているそぶりを見せるが、レイスのナイフの動きは止めていなかった。

彼の悲鳴に気付き、冴は飛ばしていた意識を戻し始める。

「う…何…?この匂い……」

意識が戻ると同時に彼女の嗅覚は、鉄っぽい匂いと極一部頬に生暖かさを感じる。

彼女がゆっくり瞼を開くと、そこには惨状が広げられていた。

ラークの左手は紅に染まり顔に視線を向けると、かろうじて見える額には汗が滲み出ていた。

一方のレイスに視線を向けると、異常な微笑みを浮かべていた。

あまりにも残酷な光景に、冴は言葉を失う。

目を見開く彼女の表情に、先にレイスが気付く。

「どうした…この光景がグロい?それとも、恐ろしい…?」

戦慄の微笑みのまま、レイスは冴へ静かに問い掛ける。

彼女への問い掛けで手の動きが止まり、乱れた呼吸のラークも彼女の様子に気付く。

返答出来ない冴に安心感を与えたくて、ラークは弱々しく言葉を紡ぎ始めた。

「俺は、大丈夫だ…。あんたは…動くなよ……?」

先程まで呻いていたラークが、突如小さく口角を上げだした。

レイスはそれが面白くなくて、不快感で眉を顰る。
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