☆巡り逢う翼第1章☆
□第3話 愛憎、そして……
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そんなの…言われなくても、解ってるさ…!!
カレンにそれほどにまで憎しみを、増幅させた理由も…。
レイスに苦しい思いをさせてまで、魔王様が忌まわしい役回りをさせた理由も…!
それら全ての元凶が、何だって事も…!!
「ねぇ…?」
カレンはラークが肯定する様に話し掛け、答えを出すよう促す。
「……俺、だよ…」
待ってましたと言わんばかりに、カレンは口角を上げ鋭い視線のまま微笑む。
「なんだ。解ってんじゃん…」
「あぁ、そうさ…!俺が…俺がっ…!!」
カレンは黙ってラークの言葉に耳を傾ける。
一方ラークは胸につっかえた何かを、吐き捨てるかの様に、一気にまくし立てた。
「俺が掟を破りさえしなければ…魔王様を裏切りさえしなければ、こんな事にはならなかった!」
欄干から降りそれを背にしゃがみ込む。
彼の表情は悲しさから今にも、大粒の涙が零れ落ちそうになっていた。
「全ての元凶は、この俺だよ…!でも……!!」
終わり際の否定的な言葉に、カレンは片眉を吊り上げ、怪訝な顔をする。
するとラークは勢いよくカレンを見上げ、涙を堪えながら口を開く。
ラークの瞳は薄く、そして赤くなっていた。
「縦えこんな俺でも…!冴の傍で生きたいと思う事は、冴を"護る"のが俺であり続けたいと願う心は…あんた達が何と言おうと変わりはしない!!」
今度はカレンが驚愕の表情で目を見開いた。
ラークに出会ってこのかた一度たりとも、耳にした事が無かった…。
生まれて初めて彼の口から聞く"生きたい"という言葉。
魔界では考えられなかった言葉だった。
ラークの真っ直ぐに見詰める瞳にも嘘偽りの気配は無く、どれほど強い想いなのかもよく分かる。
それと同時にいかに"瀧本 冴"という存在が、ラークの中で大きいのかもカレンには重々伝わった。
カレン・アンカース個人としてはまだこの時点なら、理解する余地はあったのかもしれない。
しかし、公人としてのカレン・アンカース……―裏切り者を始末する者としては、ここで身を引く訳にはいかない。
「…OK、解ったよ……」
カレンはゆっくり瞼を閉じ、静かに数度深呼吸をした。
ラークも静かに立ち上がり、じっとカレンを見詰める。
閉じていた瞼をゆっくり開くと、仕舞っていた翼を広げ舞い上がり、きりっとした瞳でカレンは見詰めた。
ラークの付近では一瞬天を目指す様な、強い風が吹き上がる。
強い風が起こった事で、ラークの部屋の窓が小さく振動で震えた。
彼女の瞳もまたラークとは違う理由で、強い決意を物語っていた。
「貴方の答えはもう充分解ったよ…そっちもそっちなら、こっちもこっちさ。金輪際一切…容赦しないんだから!!」
カレンはなるべく、切り替えて考える事にした。
わたしが殺すのは、ラークじゃない。
彼をこんな風にまで、陥れた人間…。
憎み忌むべきは、あの人間の女だ……!!
それにわたしが処分するラークは、公人であり反逆者でもある…特務隊隊長兼第二王位継承者としての、ラーク・アクセス・ダーク第二王子。
一個人としてのラーク・アクセス・ダークじゃない…。
「レイス…お姉ちゃんはちゃんと、約束は守るよ……」
ぽつりとカレンは呟き改めて完璧にまでは出来なくとも、最大限に個人的な想いは殺し任務に全うするよう、努める決意を固める。
「あぁ…いいぜ。だって裏切り者の俺なんかに、手加減なんていらねぇだろ?」
ラークも遂に決意を固めたらしく、自ら容赦される事を拒む。
「えぇ…そうね。でも生憎今夜は貴方達を殺りに来たんじゃなくて、わたしが始末しに行くからって…伝えに来ただけ」
本人も不知不識のうちに、本来の口調に戻っていた。
先程まで剥き出していた突き刺す様な敵意も消え、落ち着いたかの様にトーンダウンしていた。
「これが最期だから…」
カレンはそっとラークに近付くと、壊れ物を扱う様に優しく触れ口付けをする。
ラークはカレンからの最初で最後の、キスを受け入れ瞼を閉じる。
しかし彼なりのけじめなのか、自らカレンに触れようとはしなかった。
カレンはラークから静かに離れると、少し可笑しそうに微笑む。
微笑んだ彼女は哀しいくらいに、あまりにも儚過ぎていた。
「キスは受け入れて何?その微妙なけじめ…ふふっ、ラークって昔から変に律儀だよね…?」
「なんだそりゃ?俺は何があろうと俺だよ…」
暫く沈黙が続くとカレンは意を決した様に、無言でラークの前から姿を消した。
ラークも黙ってカレンが消えた夜空を、見詰め続ける。
「……じゃあな、カレン…」
そう呟くとラークは歩き出し、薄暗い部屋へ戻る。
共有した彼等にとっては僅かな"時"と夜空は、相変わらず美しいままで…。
縦え心に背いた決意だとしても、両者はそれぞれの護るものの為に、哀しい決別をする。
時刻は既に日を跨ぎ、午前2時を示していた。
第3話 fin.