☆巡り逢う翼第1章☆
□第4話 血と継承
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レイスの軽く浮いていた足は全身と共に地に叩き付けられる。
手や腕はカレンの血液と混じった、やや湿っている砂で汚れた。
「ゲホ、ゲホッ…!!」
突然スムーズに出来る呼吸にレイスは激しく噎せる。
死ぬと思っていただけに、何が起きたのかさっぱりわからない。
意識がはっきりするにつれ、体中のあちこちに小中の痛みを感じた。
「かは…ケホッ、ケホッ……なっ…」
未だ回復しきっておらず微かに焦点が合わない瞳で、ラークの姿をキョロキョロして捜す。
やや斜め左前方へ向けると先程の剣が、更に左にはラークに覆い被さる様に倒れている冴がいた。
益々状況が読めず足をふらつかせながら、ゆっくりと立ち上がり彼女とラークの許へ向かう。
近付くにしたがいラークの咳込む声が聞こえた。
「ゲホッ…ゲホッ…!!チィッ…!」
ラークは舌打ちをすると上半身を起こして、荒くなった呼吸を整え始める。
彼には冴が何故このような行動に走ったのか全く想像がつかなかった。
飛び込んで来た張本人を見ても呼吸器官のどこかを打ったのか、苦しそうに咳込んだままだ。
自身も頭を軽く打ち少し意識がぐらつく。
やっと呼吸が落ち着いてきた頃、人気を感じ静かに顔を見上げた。
先とは正反対の体制に、ラークはにわかに屈辱感を味わう。
ラークの心境を知ってか知らずか、レイスは見上げた者と視線を交わってから、怪我を気遣いながら腰を下ろす。
しかし、それでも強烈な痛みが彼を襲い苦痛に顔を歪める。
それに気付いたラークが、レイスの背後をよく見ると足跡に沿って点々と血痕が残されていた。
ここでやっと頭が冷えて来たらしく、ラークは愕然とした表情で言葉を失う。
レイスは敢えてラークの心境を無視して口を開く。
「……今なら僕にとどめが刺せるけど…?」
自分のした事に対し今更でもあるが、すっかり意気消沈している今のラークには、とてもじゃないがレイス達にとどめを刺すことなど出来なかった。
今となっては冴の行動の理由がなんとなくだが彼にも解る。
「…いや、死に損ないを殺しても寝覚めが悪ぃーよ…」
ラークは若干自嘲気味に小さく笑みを零す。
彼の昔となんら変わらない悪態振りに、レイスは自身の知るいつもの彼だと感じた。
少しの間躊躇う様に目を動かすと、レイスはある疑問をラークに投げ掛ける。
「…一つ確認を取りたいんだけど…恐らく、君が裏切り者である限り…魔王様の命令だから、僕達は君を追い続けるよ…?」
レイスは冗談抜きの真剣な面持ちで見詰める。
ラークも雰囲気で感じ取りその場にへたり込んだまま正直に答えていく。
「あぁ…だがそれでも、俺の気持ちは変わらないからな」
笑う事も睨む事もせず返答する友の姿に、レイスは観念した様に力無く笑う。
大切なものは身を挺してでも護るのがラークというのは昔からわかっていた。
「ハハッ…ダークってホンっト…頑固っていうか、バカみたいに素直っていうか…」
あれだけの傷姉さんに負わせたのに…
裏切りは許せるものでは無いのに…
それに僕は…
…自分に堅く誓ったはずなのに……
なのに、こんなざまだ…
力付くにしようとしても、まるで歯が立たない……っ
勝機はあると思っていた姉さんとの二人がかりでも…
七天でNo.3の闇天には時間稼ぎにしかならない…
まさか、ダークとここまで力の差が掛け離れているとは正直思わなかった……
それもこれも、僕が友達という意識を捨て切れてないから…?
僕はいつからこんな…甘くなったんだろ…
弱くなったんだろ……?
さすがのラークも無傷ではない上疲労困憊で、既に結界を保つのが限界を越えていた。
それを今に至っても微塵にも感じさせないだけ素晴らしいものだ。
レイスが思考に耽っている中ラークは、若干強めの口調で彼等の撤退を求める。
「…レイス、今回はカレンを連れて下がれ。さもなければ―……」
「さもなければ……なんだ?」
ラークが言葉を言い終える前に彼やレイス達
の耳に、人間界ではいるはずない人物の声が入った。
無慈悲なまでに風が荒々しく舞い、砂埃が一瞬煙の如く立ち込める。
ラークは凍り付いた様に表情が固くなり、レイスも驚愕の表情でラークと共に上を見上げた。
息を整え終えた冴も異変に気づき二人と同様仰ぎ見る。
彼女から何者かの存在が視認は出来たが、それが誰なのかはわからなかった。
ラークの独り言に近い呟きで彼女は初めて気付く。
「なっ……そんな、バカなっ…なんで魔王様が…?」
「えっ…?」
一度ラークを見てから再び上空を見上げると、今度ははっきりと彼女にも確認出来た。
それと同時に見た瞬間、彼女の意思とは無関係に出会えた喜びと愛しさで魔王を求める想いが込み上げていく。
得体の知れない謎の感情は、冴に不気味さを感じさせる。
そしてここから、冴を中心とした運命は加速し本格的に動き出す。
第4話 fin.