☆巡り逢う翼第1章☆

□第5話 蝕みし過去
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何なの…この感情は……


あの人を見たのは初めてなはず…


なのに、逢えて嬉しい


愛しさが沸々と込み上げる


嬉しさのあまり涙が出て来ちゃいそう…


「瀧本っ…!?」


ラークがあたしを呼ぶ声もどこか遠くに感じる


この手であの人に触れたい…


この手であの人を抱きしめたい…


……"あの人"…?


ううん、そんな他人行儀な呼び方はやめて…


ねぇ…どうして君はそんなに驚いてるの……?


"ボク"の事……忘れちゃった…?


…ねぇ…


「キラ……?」


















――PHASE5 蝕みし過去――













「なっ…!?瀧本、お前今何て…」

ラークは直前耳にした微かな呟きに驚く。

呟きが聞こえていなかったレイスは、彼の驚きぶりを不思議がり首を傾げる。

「レイス。カレンを連れて下がれ」

冴を見て暫く驚愕していたキラだったが、我に返ってすぐにレイスへ撤退の命令を下した。

だが、当然王である彼を置いて下がる訳にもいかないレイスも食い下がる。

「し、しかし…!我々は軍人です、魔王様を置いて戻る訳にはいきませんっ…!!」

真面目なレイスの反応はキラの予想通りのものだった。

そこでキラは鋭い視線でレイスを見遣る。

更に先より強い口調で撤退を促す。

「これは命令だ。それとも……ここで、アンカース本家の血を絶やすか?」

"本家の血を絶やすか?"

ある意味脅迫に近い形だった。

レイスに名門の…しかも本家の血と、親友の命と自身の軍人としての立場を天秤にかけさせたのだ。

カレンが瀕死の状態なのは明白で万が一彼女が死亡したとあらば、残る本家の血はレイス一人となる。

そうなれば、死と隣り合わせの前線で戦う現状の立場から退かなければ、本家の血を絶やしかねない。

しかしそれでは、過激派の一部の者から『本家は腰抜け』と罵られる可能性もある。

たとえ考え過ぎだとしても最悪、アンカース家そのものの威信が脅かされる危険性を秘めている。

それに重傷を負った今の自分では、足手まといになる事も痛いほどわかっていた。

そしてキラに"命令"と言われた以上、従う以外レイスには術を持っていなかった。

だが、納得は出来ず渋々レイスは承知する。

「…了解致しました。お役に立てず、申し訳ありません…」

最後に謝罪を述べると、レイスは傷だらけの体に鞭打ち、カレンを連れて転移魔法で魔界へと戻るため準備をしていく。

戻る直前彼はラークを見ることなく、含みを持たせた忠告をする。

「ダーク、僕と君の立場…忘れないでよ」

そう言うとレイスは魔界のFLAME本国へと帰還していった。

キラはレイスの撤退を確認した後、一歩ずつラークではなく冴に近付いて行く。

すかさずラークは冴の目の前に立ちはだかり、牽制を込めてキラの周囲に魔法で攻撃した。

ただ、魔力を消費した事で偽りの空間が歪み始める。

キラも牽制に物怖じせず着実に歩を進めた。

一定の距離感を保ちつつキラは呟く。

彼の表情には些か不快感が窺える。

「…ダーク、この人間に何の封印をかけた…」

キラの突拍子もない質問に、ラークは自身が冴に対し以前感じた疑問を思い出す。

額に嫌な汗を滲ませながら、警戒し構えたままラークは答える。

「強大な魔力に掛けられた封印の事でしたら、俺は何も存じておりません…会った時既に封印を施されておりました」
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