☆巡り逢う翼第1章☆
□第6話 暁と黄昏と―暁編―
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あの不可解な、フラッシュバックの様に沸いた感情の件から、幾日も時が経った。
徐々に各地で梅雨明けが報じられ、つい先日冴達の住む地域も漸く、梅雨明けが発表された。
待ちに待った梅雨明けに、男女どちらのクラスメートも喜びのあまり、年頃らしく弾ける寸前である。
何故なら、彼等の目と鼻の先にあるのは、夏休みという名の長期な夏期休暇。
これほど長い休みが得られるのも、学生ならではの特権にも近い。
休暇期間中の宿題など後回しに各々満喫すべく、目をキラキラと輝かせスケジュール帳を黒で埋めていく。
だがしかし、そんな幼気にはしゃぐ彼等に立ち塞がるのは、その学生が特に苦しめられるものの一つ。
――PHASE6 暁と黄昏と〜暁編〜――
「………マズい、マジにこれはマズいわ」
自室にてまるでこの世の終わりかの様に、血の気を失った表情であるプリントを見詰める冴。
学校から真っ直ぐ帰って来るや、急ぎ階段を駆け上がり自室に飛び入ったのだが…。
傾く赤みがかったオレンジ色の夕日にも目もくれず、ラークの在宅確認もそっちのけに洒落たガラステーブルを睨む。
一方、騒がしく駆け上がる足音にラークはリビングで一人、頬杖をつき片眉を吊り上げて足音のする扉を見詰めていた。
みっともない音に、呆れ混じりに溜息を吐く。
「ったく…何やってんだか……」
それから、ラークは彼女が降りて来るのを暫く待つ。
しかし、いくら待っても来る気配は無く、痺れを切らした彼は重い腰を上げた。
「しゃあねぇ。俺の飯忘れられちゃ堪んねーかんな」
少し面倒臭そうに頭を掻き、彼は階段を上り目的の部屋の前に辿り着く。
始めにノックを鳴らし、次に扉越しに呼んだ。
「おーい、瀧本ー?」
それから、返ってくる反応を待つラーク。
だが、一向に応対は来ない。
「…なんだ?おいっ、瀧本ー?」
もう一度呼び掛けるが、またしても返って来たのは沈黙の空気。
怪訝な顔になりつつラークも仕方なく、もう少し待つ事にする。
腕を組み向こう側の状況を気に掛けるが、これ以上は扉を開けなければ確かめようがない。
女性の部屋に許可無く入るのに躊躇いは拭い去れないが、それでは求める彼女の手料理にいつありつけるのかわからない。
「瀧本開けるぞぉ?俺は言ったかんなー」
先より大きめの声を出し、彼はあくまで自身に非はない事を示す。
ゆっくりとドアノブを捻れば、瞳に映す冴は俯き悶々としていた。
額に両手を宛がい目を閉じ唸る様は、どこと無くラークには可笑しさが否めない。
彼は再び腕を組み入り口側の壁に凭れ掛かり、不思議なものを見る様な視線を送る。
この時冴はラークがいた事にすら気付かなかった。
「前はここまで酷くなかったのにぃ…」
「何がそんなにひでぇんだ?」
突然の声に冴は思わず飛びはねそうになる。
心臓が飛び出てきそうな驚きに、大きく声を上げてしまった。
「きゃっ!?ら、ラーク?!」
急な来訪者に狼狽えながら例のプリントを、自身と寄り掛かるベッドの間に隠す。
どう見てもラークの目に、それは怪しい以外の何物でもない。
素早い動きでラークは冴と間合いを詰め、背後のプリントを取り上げた。
薄いその紙一枚を見る目は、だんだんしかめていく。
「………ひでぇにも程がある」
改めて第三者から言われた言葉に、冴も遂には脳天に岩を落とされた様な衝撃を受ける。